こんにちは、橋爪志保です。10月になりました!暑さもすっかり落ち着いて、窓からは心地よい風が入ってきます。芸術の秋、読書の秋、と「○○の秋」とつければなんでもOKな様子(?)の季節ですが、みなさまはどのような10月を過ごされるでしょうか。
第17回のテーマは「気候」。「気候」についての歌なら「気候」という単語は含んでいなくてもOKです。
今回は、特選1首、秀逸1首、佳作3首をご紹介します。
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
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通販 https://hassytankashop.booth.pm/
自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
階段歌壇 第17回 テーマ詠「気候」総評
特選1首
少しずつ夏の歩幅がひろくなり冬に直接バトンをわたす/Re:Makita
この歌で主張していることを平たく言い換えると、「夏から秋に、そして冬になる」ということでしょう。しかしそのようには直接書かれていません。ここでは、その体感のようなものを、かわりに「歩幅」で示しています。
「夏から秋になる」という抽象的な概念自体はつかみどころのないものです。だからこそわたしたちはふだん、「雲の形が変わる」「紅葉する」などの具体的な実感で秋を受け止めますが、この歌では抽象的概念をそのまま、比喩で大らかにとらえようとしています。
「歩幅」の狭い歩き方は一歩一歩のスピードがはやそうで、せかせかとしていますが、それがのっそりのっそりとした大股歩きに変わっていく、と言っているわけです。とても、説得力のある表現です。
そして、「冬に直接バトンをわたす」と書かれると、まるで何かのリレー競技を行っているようにも見えます。「歩幅」の話をしながらも、また新たな比喩を、ここでは導入しているわけです。季節が徐々に秋に変わっていくかと思いきや、ある日冬がすこんとやってくる。そのイメージには、なるほどとうなずきました。
この歌には「秋」という単語は使われていませんが、「秋」が無い、と言っているわけではありません。夏は「歩幅」をともなって歩く「人」みたいなもの、冬は「バトン」を受け取るため待っている「人」みたいなもの、だとすると、秋は歩幅の変化、だというのです。春夏秋冬が平等に扱われているわけではなく、独自の実感をともなって、この表現は選び取られています。そこにも魅力を感じました。
今回のテーマは「気候」ですが、たとえば実際の雨に打たれた表現や、空を見上げて作った歌と同じくらい、いやそれ以上に「気候」があらわされていると思います。
秀逸1首
蹴りあげたパンプスつつじに飲みこまれ明日の空も神のみぞ知る/もくにん
小さい頃「あーした天気になあれ!」というかけ声とともに、片足の靴をぽーんと飛ばす遊びをしたことがあります。靴がそのまま落ちたら晴れ、裏向きに落ちたら雨、横向きに転がると曇り?なんていう天気占いみたいなものです。
ここでは「パンプス」によって「天気占い」がなされていますが、「パンプス」を履くのって基本おとなです。もしかするとよそいきだったりフォーマルな靴だったりの「パンプス」なのかもしれません。蹴り「あげる」と言っているから、結構思い切って蹴っています。
そんなお茶目なのか不思議なのかわからないシチュエーションの中で、「パンプス」は「つつじに飲みこまれ」ます。ここの表現が巧みで、実際は「つつじの植え込みに靴が入っていく」といったほうが正確でしょう。
しかし、つつじという植木に主体性のような力を持たせたおもしろさがここにはあります。「つつじに」という直接的な表現をしているにもかかわらず、植え込みだとわかるのもいいですね。
植え込みに入ってしまった靴の向きはわからないから「神のみぞ知る」なんでしょうが、「空」がどうなるかというのはそもそも(いやまあ天気予報とかあるんですけど)、神の領域というか神の手腕というか、そういうものなのかもしれません。清々しく匙を投げたような歌いぶりが楽しい一首です。
佳作3首
台風の日の朝ごはんのお皿だけ洗ってくれるきみの正しさ/五感
なぜ「台風の日」限定できみが皿洗いをしてくれるか、理由はわかりません。気まぐれなのかもしれない、とも思います。しかし、それを「正しさ」と書く確固たる意志のようなもののおかげで歌全体が説得されます。
「正しさ」にはさまざまな感情がふくまれているような気がするのです。雨風がすごい「台風」というもの自体も、皿洗いの水仕事とリンクする部分があっておもしろいです。
おだやかな小春日和に鎌を研ぐ亡き祖父の顔網膜に在り/キナコモチコ
「小春日和」の「おだやか」さと、研がれた「鎌」の鋭さ。そのふたつの対比が効いていて、「祖父」の人格に深みが生まれているように思いました。「鎌を研ぐ」行為は、物質的に鎌を手入れしたいだけでなく、精神統一などの意味もありそうです。
また、「目の裏にあり」「まぶたにあり」のような表現ではなく「網膜」という言葉をチョイスしたところにも味があります。
まちがえて配置しちゃった星だからいったん雲をかけて直すね/石川真琴
なるほど、曇り空というのは、雲のむこう側で空の編集が行われているのか。なんともユーモアのあるたのしい発想です。「配置」「かけて」という言葉からは、デジタルで絵を描くときの場面、舞台上っぽい場面、などなどさまざまな実際のシチュエーションが想定できそうです。
「まちがえて」「いったん」など、ひらがなの開き方もバランスがとれていていいと思います。
まとめ
以上です。掲載された方、おめでとうございます!素敵な歌をありがとうございました。
さて、次回のお題はちょっと特殊です。
今年7月にTANKANESSの編集長のなべとびすこさんとTANKANESSライターの天野慶さんがゲームデザインをつとめた、「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」というカードゲームが発売されました!
5音の言葉が書かれたカードと、7音の言葉が書かれたカードを組み合わせていい短歌をつくる、といった趣旨のゲームです。そこでこちらの階段歌壇と、「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」のコラボ企画を行うことになりました!
次回のお題は、『「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」のカードに書かれた以下の言葉をどれか1つ使って短歌を作る』です!!お題となるカードは以下の5枚になります。
- 泣きながら
- 雨のなか
- くり返す
- 花束のよう
- 制服のまま
この言葉は、実際の「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」の中に存在するカードから取っています。5音カードから3枚、7音カードから2枚取りました。
「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」の本来のルールでは、5音カードは初句・三句に、7音カードは二句、四句、結句に使わないといけませんが、今回は、この言葉が歌のどこに使われていてもかまわないことにします。このカードどれか1枚を使って、短歌を作ってください。
すこし難しいお題かもしれませんが、ぜひ楽しんで取り組んでみてください!
第18回階段歌壇 募集要項
- 『「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」のカードに書かれた以下の言葉をどれか1つ使って短歌を作る』
使う言葉:「泣きながら」「雨のなか」「くり返す」「花束のよう」「制服のまま」
- 応募期間 2021年10月5日〜25日
- 発表 2021年11月上旬(TANKANESS記事内で発表します)
- はじめて投稿する方は投稿ルールを必ずご確認ください。
応募フォームに筆名、メールアドレス、短歌を記載のうえご応募ください。
<注意事項>
- 未発表の自作の短歌に限ります。(掲載された短歌は既発表作品となります。)
- 1人3首まででお願いします。(1つの応募フォームで3首まとめて応募が可能です)
いただいた歌は、すべて選者(橋爪志保)が目を通して選をし、上位者の歌とコメントを発表します。
また、入選作のなかから最もよかった短歌を「特選」とし、短歌に関する素敵なグッズをお送りいたします。
そこのあなた、あなたの短歌をわたしに読ませていただけませんか?
この記事を書いた人
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/
自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる