階段歌壇 第12回 題詠「体」総評&第13回募集のお知らせ

企画

みなさんこんにちは。橋爪志保です。5月、ゴールデンウイークまっさかりですが、緊急事態宣言のさなかでもあります。きびしい現状のなか、それでも短歌がみなさんの心を少しでも癒してくれることを祈りつつ、わたしもがんばります。

今回は、前回と同じく題詠、読み込み必須の漢字を一字指定するものでした。題は「体」ですね。前回はかなり応募数が多かったのですが、今回はすこし少なめとなりました。今回も、ご投稿くださったすべての方に、心よりお礼申し上げます。ありがとうございます。

それでは、特選1首、秀逸1首、佳作3首をご紹介いたします。

 

橋爪志保

2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/

自選短歌

I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる

階段歌壇 第12回 題詠「体」総評

特選1首

 

羊 もう育ちたくない女子としてひかりの体育館に入った/能川遥

「女子として体育館に入る」という表現からは、たとえば、男女に分かれて性教育を学ばせる古い風習がぱっと思いつきます。この風習、わたしの頃(1993年生まれです)にはもうなかったのですが、考えれば考えるほどおかしくて、酷いやり方ですよね。人間の身体の仕組みは性別問わずみんなが知っておくべきことなのに、女子生徒だけを集めてスライドを見せてたとえば生理のしくみについて学ばせる、みたいなことを、かつての学校は平気でやっていたわけです。

女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて/飯田有子〉という有名な歌がありますが、言いたいことはこれに近いのかなあと思いました。飯田さんの歌は「日」とあるので回想ですが、こちらの歌は過去形ながら「今」感がありますね。

「もう育ちたくない」というのは、第二次性徴の起こる身体の「育ち」に嫌悪感を示し、拒んでいるということかな。「育つ」は自然に起こることなのに、「育ちたくない」と書くことで、妙な味わいが出ています。

とはいえ、初句という場所にあること、一字空けがされていることによって、いちばん目立つのはやはり「羊」でしょう。わたしは真っ先に「羊」の群れをイメージしました。あまり賢いとは言えないような、群衆のイメージです。他の女子たちが「羊」の群れに見えてしまうような、そういう周囲への非難と、「女子」たちへの扱いそのものに対する不快感のあらわれが、そこにはある気がします。

一番のポイントは「ひかりの」という言葉によって、体育館をちょっときれいな景に仕上げている点です。ここでは、マイナスなイメージの他の単語とは違った雰囲気が出されており、なんだか、一筋縄ではいかない感じがします。

 

秀逸1首

 

各路線の色が体温だとしたらうれしい東西線との会話/SAMIDARE

「各路線の色」は、おそらく東京メトロとかに割り振られているイメージカラーのことで、日比谷線は灰色、銀座線はオレンジ、みたいなやつだと思います。それを、主体は「体温」だとしたら、というのです。

温度とは一般的に、赤っぽいものがあたたかく、青っぽいものがつめたいイメージに関連づいています。けれど、なんだかそういう理屈だけでは、あの路線のカラフルな路線の色の温度の高低を言うことはできなさそうです。

東京メトロでは、「東西線」は水色ですが、水色だとなんで「うれしい」のでしょう。わりと温度の低い会話をしているようなイメージがありますが、「うれしい」理屈があまりよくわかりません。

というか、そもそも「東西線」と会話するってどういうことでしょう。「東西線での会話」ではなく、「東西線との会話」なのだから、このひとは列車と会話ができるのかな。なんだかわからないことだらけの歌です。

でも、なんだか、わからないなりにパワーが感じられます。ひとりよがりな感じもするけれど、その危うさがおもしろいです。

 

 

佳作3首

 

あんみつをそっとすくった匙のなかすべての夏は球体になる/五感

整った歌だな、というのが印象です。匙でくりぬかれたたべものは、ややまるい形になります。また、匙にうつった世界はぎゅんっと歪んで、丸まって見えます。どちらのことを「匙のなか」と言ったのかはわかりませんが、いずれにせよ、「球体になる」という表現は言い得ているな、と思いました。

たべものの種類は「あんみつ」で本当に最適だろうか、という疑問は残ります。

 

今夜9時ベッド集合 体温の交換会は雨でもやるよ/岩松歩夢

ベッド集合、というわくわく感ある表現が妙におもしろいですね。抱きしめ合うことや、もしかしたら性行為などを「体温の交換会」と言い換えているのかな、と読みましたが、ここでも独自の表現が光っている気がしました。

「雨でもやるよ」は、意味上では蛇足なのですが(だって別に雨降ってても屋内だからできるし)、楽しいことをするという文脈を加速させる役割を担っているため、とても重要なポイントです。

 

青空へ体投げ出すほど漕げばブランコだって脱出装置/Oh!Yeah!健三郎

歌の意味は比較的簡単かと思います。「脱出装置」という一点に重きを置いた歌ですね。

「脱出」というのが、精神的な脱出(気分転換など)を指すのか、それとも、物理的に地面から「脱出」するという意味をこめているのかはわかりませんが、多分両方がかかっているのだと思います。青空の明るさが際立つ、からっとした歌です。「投げ出す/ほど漕げば」の句またがりも軽やかです。

 

まとめ

以上です。掲載された方、おめでとうございます!素敵な歌をありがとうございました。

それでは、次回のおしらせです。次回も読み込み必須の題詠です。楽しみながら作ってみてください。

 

第13回階段歌壇 募集要項

 

  • 題 「日」(詠み込み必須:短歌の中に必ず「日」という漢字を入れてください)
  • 応募期間 2021年5月5日〜25日
  • 発表  2021年6月上旬(TANKANESS記事内で発表します)  

応募フォームに筆名、メールアドレス、短歌を記載のうえご応募ください。 

 

<注意事項>

  • 未発表の自作の短歌に限ります。(掲載された短歌は既発表作品となります。)
  • 1人3首まででお願いします。(1つの応募フォームで3首まとめて応募が可能です)
  • はじめて投稿する方は投稿ルールを必ずご確認ください。

いただいた歌は、すべて選者(橋爪志保)が目を通して選をし、上位者の歌とコメントを発表します。また、入選作のなかから最もよかった短歌を「特選」とし、短歌に関する素敵なグッズをお送りいたします。

 

階段歌壇 第13回応募フォーム

 

そこのあなた、あなたの短歌をわたしに読ませていただけませんか?

 

この記事を書いた人

橋爪志保

2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/

自選短歌

I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる

 

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第5回 テーマ「植物」

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第8回 テーマ「歌・踊り」

第9回 自由詠<1>

第10回 自由詠<2>

第11回 題詠「気」

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