階段歌壇 第7回「夢・睡眠」総評&第8回募集のお知らせ

企画

みなさんこんにちは、橋爪志保です。もうすっかり冬ですね!2020年、あっという間に過ぎていったような気がします。

今年はコロナウイルスの影響もあって、大変な1年になった、という方が多いのではないでしょうか。来年は困難の少ない1年になるようにと祈るばかりです。

それでは、今年最後の階段歌壇、いってみましょう。

テーマは「夢・睡眠」でした。眠くなるようなのどかな夢の歌から、睡眠ができない!という切実な歌まで、たくさんいただきました。歌を送ってくださったすべての方に心からの敬意と感謝をいたします。ありがとうございます。

今回は特選1首、秀逸2首、佳作4首をご紹介します。

 

橋爪志保

歌人。2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。その他の参加同人誌に、「鴨川短歌」「のど笛」「短歌の世」など。著作に、合同歌集『ベランダでオセロ』。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。
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自選短歌

I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる

 

階段歌壇 第7回「夢・睡眠」総評

特選1首

目が覚める夢から覚めてそうやってあの埠頭まで戻れないかな/櫻井朋子

 

夢中夢(夢の中で夢を見ること)を題材にした歌は何首かありましたが、これが一番、安易にネタに走らず、かつ「夢」という題の実感を生かして、バランスよく構成された作品でした。

「目が覚める夢から覚め」るという、不思議でもあり、場合によってはちょっと怖いような体験が初句と二句では述べられているのですが、ここは歌の最大の力点にはなっていません。さらっと流して次の言葉へと渡していき、「覚めて」「そうやって」の「て」で音の調子を整える。

「そうやって」という接続は、論理的に考えてしまえば少し強引な気もするのですが、この主体の中にはきっと「夢中夢」と、「埠頭」が、しっかりとつながっているのでしょう。「夢中夢的なもの」を見ることが「埠頭まで戻る」ことと理屈を超えた感覚的な次元で結びついているという点にまず、詩情のおどろきがあり、目にとまりました。

さらに、「埠頭」も、「あの」とは言われているものの、どんな「埠頭」なのか、歌には書かれていません。夢のなかの「埠頭」なのかもしれないし、現実世界の忘れられない思い出のある「埠頭」なのかもしれません。でも、そこを明らかにしないところが、雰囲気作りとして成功しています。

また、「港」や「波止場」など、字数が同じでかつ似た意味をもつ単語は他にもあったはずです。しかし、「埠頭」という、少し位相の違う硬質な単語を選んだことで、歌は甘くならず、しっかりと自立しました。

「埠頭」という場所の特性にも注目しました。陸と海のつなぎ目のような役割を果たす「埠頭」。これはまさに、「夢」と「現実」の境目のようなこの歌にぴったりの場面選びではないでしょうか。

秀逸2首 

安らかに眠っていてよ夢にまで尾っぽを振りに来なくていいよ/長井めも

 

「尾っぽを振」るというのだから、おそらく犬なのでしょう。寝ていると、死んでしまった飼い犬(と読んだら自然でしょう)が、夢の中に出てきた。死んでしまった人や動物が夢の中に出てくるということは実際しばしばありますし、そういう歌もよくあります。だいたいそういう歌は「夢の中で会えてうれしい」という感情を主軸に歌が成り立っています。

しかし、この歌はそうではありません。夢には出てくるな(もちろんそこまで強い口調ではありませんが)、と言っているのです。まずその新しさが、この歌にはあります。

起きた状態で夢に出てくる=安らかに眠っていない、と捉える主体の判断もまた、理屈はわかりますが、どこか独創的です。ここには主体の死生観がよくあらわれています。

たとえば、「夢で元気な姿を見せてくれているということは安らかに眠っているんだな」と考えるひともいるかもしれないですよね。この歌の主体は、「安らかに眠る」という言葉を比較的文字通りにとらえるような価値観を持っているのだ、ということがわかります。

そもそも、「尾っぽ」を振っているということは、犬が喜んでいる証拠です。夢であれ、生前愛した犬が喜んでいたら、単純に考えれば主体は嬉しいはずです。でも、それよりも「安らかに眠っていて」ほしい。そのどこまでも犬想いで、かつ「眠り信仰」な感情に惹かれました。

また、ここでの「安らかに眠」るとは死んだ状態を意味しますが、その死という「眠り」と、主体の睡眠としての「眠り」が重なるような構造をしていることも面白いです。

 

 

ああこれは夢か 時計の文字盤に十三があり少し揺れてる/四辻さる

睡眠中、夢を見ているときに、それが夢であることに気づく、ということは時々起こることのようです(選者自身は一度も体験したことがないので、不思議だなと思うのですが)。現実ではありえないことが起こっていたり、ありもしない場面が広がっていたりすることで、夢だとわかるのでしょう。

この歌では「時計の文字盤に十三があ」ることが、そのきっかけであるようです。当たり前のことを言いますが、「文字盤」とはアナログ時計の文字盤を指すのでしょう。もちろん現実では、そういう凝ったデザインのものでない限り、十二までしか数字はありません。「十三」は奇妙な光景です。

「十三」は文字盤にどのように書かれているのでしょうか。「十二」と「一」の間にぎゅっと詰まっているのでしょうか。もしくは、もっと変な場所にあるのかもしれません。でも、そこを細かく描写せずただ「ある」ということだけを述べるやり方が、確かに「夢」っぽい。

また、この歌の一番の読みどころは、「少し揺れてる」でしょう。この結句によって、一気に夢の臨場感が出ました。おもしろいのか、こわいのか。感情を書かないことで、逆に感情に直接訴えかけてきます。

また、どこかヘンテコで形が奇妙である時計というのは、どことなく画家のダリの作品をも思わせます(まあ、あれは文字盤自体がぐんにゃりしているのでまたちょっと違うのですが……)。

同じ作者の〈夢だって気付いているのに頬つねる 人差し指が徐々に裂けてく〉も、よい歌だと思いました。つねった頬のほうがビリビリ裂けていくのではなく、人差し指のほうが裂けてくるというちょっとした理不尽な感じも、なんだかおどろおどろしい。悪夢の歌です。

 

佳作4首

夢に出てきた完璧なオムライス 殺すのがもったいないほどの/窪田悠希

 

「完璧なオムライス」とは、形が美しいのか、王道の味付けなのか、どういう意味かはわかりませんが、とりあえずそれが出てきたのでしょう。ところが、「食べる」のがもったいないではなく、「殺す」のがもったいない、とあります。果たしてそれは本当に「オムライス」なんでしょうか……?

「オムライス」というのは腹の中にライスを詰め込み、卵の皮膚でくるんだもの。ケチャップも、血を彷彿させる色です。「オムライス」のふりをした別の生き物か何かだったら、どうしよう……。

 

 

夢でしか会えない人に会いたくて規則正しくなってく暮らし/海野いづれ

「夢でしか会えない」なら、寝るしかない!と主体は考えたようです。早く寝たくて、結果的に早寝早起きの生活を手に入れてしまい、毎日それが続くので、「規則正しく」なってしまう。

「夢でしか会えない人」とはいえ、毎日その人の夢を見れるわけではないと思います。けれど、可能性に賭けて寝る。「夢でしか会えない」を言葉じりの比喩と捉えない、愚直さ、健気さに心惹かれました。

 

ミキサーにかけた夢なら虹色にならずに珊瑚の死骸になった/水平いるか

寝るときに見る夢というより、実現したい目標とかのほうの意味の夢、として読みました。「夢やぶれて」よりも、もっと強い能動的な力をもってして、夢が粉々のぐちゃぐちゃになるところが描かれていてまず面白いです。「夢」自体は素敵なものだったはずですが、いい色にはならなかった。アイテムとして「珊瑚の死骸」が効いています。手触りや色、そして何しろ、夢が貴重なものだったということが的確に示されています。

 

信号はいたるところで待っている四時間半だけ寝たあとの街/橙田千尋

信号というのは、普通「人間のほうが」(赤から青になるのを)待つものです。それを反転させて、「信号」こそが待っているほうだというわけです。ちょっと不思議な表現なので混乱しましたが、「四時間半だけしか」寝ていない状況の主体から見た「街」はそのような不思議さにうつるのでしょう。

「四時間半」というのも、夢とうつつの間を行き来しそうな時間幅でよいと思います。

 

まとめ

以上です。掲載された方、おめでとうございます!素敵な歌をありがとうございました。

次の「テーマ」は「歌・踊り」。「歌」「踊り」という単語は詠みこまなくても大丈夫です。

のど自慢の歌、バレリーナの歌、短歌の歌。意外と幅の広いお題ですので、自由に取り組んでみてください。ちなみにテーマ詠は次回が最後になります。次はどんな「お題」になるでしょうか……。お楽しみに。

それでは、みなさんの素敵な歌をお待ちしています!

 

次回のお知らせです。

第8回階段歌壇 募集要項

  • テーマ 「歌・踊り」 
    (詠み込み必須ではありません:歌・踊りをテーマにした歌であれば、歌の中に「歌」「踊り」という単語は入れなくてもかまいません)
  • 応募期間 2020年12月5日〜25日
  • 発表  2021年1月上旬(TANKANESS記事内で発表します)  

 

応募フォームに筆名、メールアドレス、短歌を記載のうえご応募ください。 

 

<注意事項>

  • 未発表の自作の短歌に限ります。(掲載された短歌は既発表作品となります。)
  • 1人3首まででお願いします。(1つの応募フォームで3首まとめて応募が可能です)

 

 備考欄の使い方

  • 特殊なルビを伝える
    例:1首目の「(漢字を入れる)」のルビは「(ルビを入れる)」です
  • 通常の一字空け(全角スペース1つ分)以外のスペースの意図を伝える
    例:2首目のスペースは半角スペース1つです。
      3首目のスペースは全角スペース3つです 。
  • 歌の意図や解説などは備考欄に入れないでください。

 

いただいた歌は、すべて選者(橋爪志保)が目を通して選をし、上位者の歌とコメントを発表します。

また、入選作のなかから最もよかった短歌を「特選」とし、短歌に関するデジタルグッズ(スマホ用壁紙など)を賞品としてお送りします。

 

階段歌壇 第8回応募フォーム

 

そこのあなた、あなたの短歌をわたしに読ませていただけませんか?

 

この記事を書いた人

橋爪志保

歌人。2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。その他の参加同人誌に、「鴨川短歌」「のど笛」「短歌の世」など。著作に、合同歌集『ベランダでオセロ』。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。
Twitter @rita_hassy47
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自選短歌

I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる

 

階段歌壇 バックナンバー

第1回 募集のお知らせ

第1回 題「星」総評

第2回 題「生」総評

第3回 題「音」総評

第4回 題「地」総評

第5回 テーマ「植物」

第6回 テーマ「学校・学生」

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