みなさんこんにちは。橋爪志保です。7月!すっかり夏ですね。個人的に夏はとても大好きです。Tシャツにこだわれるし、昼も長いし。虫がはびこること以外はオールオッケーです。
今回も前回と同じく題詠でした。「立」の読み込み必須ですね。
今回も、ご投稿くださったすべての方に、心よりお礼申し上げます。ありがとうございます。
それでは、特選1首、秀逸2首、佳作3首をご紹介いたします。
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
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自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
階段歌壇 第14回 題詠「立」総評
特選1首
県立の入学式に満開の県民税で育った桜/鈴木ジェロニモ
技のきいた、皮肉っぽい一首です。
「県立の入学式」というのは「県立の学校の入学式」の省略でしょう。でも、こう書くことでちょっと異様な言い回しになっています。
そうして引き続き短歌を上から読んでいくと、「満開の県民税」という、おかしなフレーズが出てきます。「~で育った桜」まで読むと、「満開の」が「桜」にかかることはわかるのですが、これはいかにも「県民税が満開である」というだまし絵のような面白さが得られる、効果的な語順だと思います。
本来お金であるので咲きはしないものが花開いている。ゆかいな皮肉です。桜という花を「きれいだな」とめでるだけではなく、この人は「その花のもとになったお金」のありかまでを透けて見ているのです。
でも、本当にそうでしょうか。桜って、ほんとうに「県民税」だけで維持費などが賄われているのでしょうか。だって本当のところをいえば、たとえば寄付金とか、別の税とか、そういうものが「桜マネー」になっている可能性だってままあるはずです。けれどここでは、「県」という字を二回使ってなかば言葉遊びならぬイメージ遊びをしているような仕上がりになっています。
多様な「桜マネー」を一つの色で塗り上げてしまうことによって、「県民税」という単語の迫力がより増すのです。ちょっと言い方にたどたどしさが残る一首ですが、楽しく読みました。
話はズレますが、わたしの出身の学校は、キリスト教系の学校でした。そのため、クリスマスにはよくイルミネーションが校内に飾られたのですが、そのとき学生たちは「学費が光ってるぞ~」とよくはやし立てたものでした。この短歌を読んで、そのことを思い出しました。
秀逸2首
それからの語彙をみんなで持ち寄ってまた立川のゲーセン行こう/SAMIDARE
「それから」の「それ」や、「語彙」が具体的になんなのか、読者にわかるすべはありません。しかし、「立川」のちょっと都心からは外れた郊外感、ゲーム機が家庭にあふれて一時期よりは翳りを見せている(この「ゲーセン行こう」の雰囲気はプリクラやUFOキャッチャーで遊ぶ感じではちょっとなさそうだなあと思いました)「ゲーセン」から推察するに、ちょっと日陰寄りの感傷をともなった「また」「行こう」であるのかもしれないなあ、という想像はできます。
「語彙」をみんなで持ち寄ることは、具体的には、喋るということにほかならず、みんなが共通でわかる話題だったり、しいてはその場でしか通用しないノリの言葉を使ったりすることなのでしょうが、こういう書き方だと、なんだか「持ち寄りパーティー」感が出てちょっと楽しい。
「それから」は、たいへん読解が難しいですが、もしかすると、それまで「ゲーセン」に集まっていた「みんな」にとって何か衝撃的な出来事があって、集まらなくなって、みたいな流れがあったのかもしれません。それは、戦争?災害?事件?はたまた仲間割れ?なんなのかはわからないけれど、あまりプラスの出来事ではないようにわたしは思いました。
いくらでも、歌の背景が想像できそうです。連作の中に入れてみると、またさらに奥行きが出るかもしれませんね。
ららぽーと屋上駐車場いちめんに立体としてはね返る夏/五感
初句の「ららぽーと」とは商業施設のこと。ふしぎな響きのある名詞です。
大きな商業施設の屋上って、たしかに駐車場があったりしますね。二句目は2音余らせたうえ、豪快に漢字5文字の単語を詰めてきています。
屋上駐車場はその名のとおり車を止める場所ですね。多くは車を止めるためだけの場所なので、すごく幾何学的というか、機械的というか、独特の殺風景さがあるんですよね。ロボットの休憩所、みたいな雰囲気さえある。
そして、空。まわりに高い建物があればまた変わってくるかもしれませんが、基本ああいう施設の高さってまあまああるので、空がいちめんにばーっと広がって見えます。空気を邪魔する障害物もない。
そんな中で主体は、「夏」という抽象的でぼんやりしたものを、実態をともなう形として実感しているのです。平面性のある「屋上駐車場」と広い空でできた、「立体」感のある、はっきりとした「夏」。「はね返る」はアスファルトに太陽光がはね返っている様子も連れてくる表現です。
図形的なかっこよさがありながらも、やわらかなリアルが感じられる歌だと思います。
佳作3首
記憶には香りがしないのにいつも記憶は香りから立ちのぼる/カラスノ
本当にその通りだなあ、とうなずく一首です。たとえば「Aさんと遊んだ」という記憶を思い出すとき、そこに香りはありませんが、「金木犀の香り」を嗅ぐことで「Aさんと遊んだ」日々のことが頭の中に流れ込んでくる一瞬って、あるんですよね。「香り」と「記憶」の関係性の非対称さをうまく発見した歌だと思います。発見の説明に贅沢に31音使っているところも、ここでは成功しています。
結婚が始まる夜に全員で爪立てながら剥く枇杷の皮/窪田悠希
幻想的な狂気の一首です。「結婚が始まる」って、フレーズとして奇妙です。たとえば「結婚生活を始める」ならば奇妙ではありませんが、ここでは何か欠落したような印象があり、危なっかしさが感じられます。
「全員で」といきなり言われても、「え、誰?」となってしまうのですが、「爪」を立てながら皮むきをする行為と相まって悪夢のような光景を見せることに成功しています。少なくとも絶対、新婚さんが友人たちと和気あいあいと枇杷を食べている様子ではなさそうです。
誰ひとり天使が迷わないように矢じるしとしてモミの木は立つ/石川真琴
「モミの木」って、クリスマスツリーとかに使われるやつですよね。たしかに言われてみれば形が、上向きの「矢じるし」のように見えます。クリスマスということもあり、「天使」という言葉は容易にイメージできます。なるほど、あれは「天使」が無事天上へ行けるようにするための誘導の意味もかねていたのか。メルヘンな歌ですが、妙に説得力があり、おもしろく読みました。
まとめ
以上です。掲載された方、おめでとうございます!素敵な歌をありがとうございました。
さて、次回からはテーマ詠となります。過去4回の題詠では漢字一文字を詠みこまなければいけないという決まりがありましたが、次回はテーマに即していれば、読み込み必須ではありません。
楽しんでとりくんでもらえれば幸いです。
第15回階段歌壇 募集要項
- テーマ 「食べ物・飲み物」
(詠み込み必須ではありません:短歌の中に「食べ物」「飲み物」という単語は入っていなくてもOK) - 応募期間 2021年7月5日〜25日
- 発表 2021年8月上旬(TANKANESS記事内で発表します)
- はじめて投稿する方は投稿ルールを必ずご確認ください。
応募フォームに筆名、メールアドレス、短歌を記載のうえご応募ください。
<注意事項>
- 未発表の自作の短歌に限ります。(掲載された短歌は既発表作品となります。)
- 1人3首まででお願いします。(1つの応募フォームで3首まとめて応募が可能です)
いただいた歌は、すべて選者(橋爪志保)が目を通して選をし、上位者の歌とコメントを発表します。また、入選作のなかから最もよかった短歌を「特選」とし、短歌に関する素敵なグッズをお送りいたします。
そこのあなた、あなたの短歌をわたしに読ませていただけませんか?
この記事を書いた人
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
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通販 https://hassytankashop.booth.pm/
自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
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