みなさんこんにちは、橋爪志保です。近頃ずいぶん寒いですが、みなさん風邪などひいていませんか?
うちではこたつを出しました。これから冬に近づいていくんですね。個人的には夜が長くなるのがあまり嬉しくありませんが……。負けずにはりきっていきましょう。
今回も、前回に引き続き、テーマ詠でした。テーマは「学校・学生」。学生視点で歌をつくるのか、それとも卒業生視点で歌をつくるのか。他にも先生のまなざし、保護者の目線などなど、色々なつくり方があることに、改めて気づかされました。歌を送ってくださったすべての方に敬意と感謝を。ありがとうございます。
今回は特選1首、秀逸2首、佳作3首をご紹介します。
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
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自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
階段歌壇 第6回「学校・学生」総評
特選1首
避難所となった母校で父と二人持ち込み禁止の携帯を見る/高梨由登里
歌いぶりはそうでもないのですが、内容に迫力のある一首です。地震や洪水などの災害が起こったとき、学校というのは「避難所」に変わる可能性のある場所ですね。
卒業しているのだから、普段はわざわざ何かない限り入らない「母校」に、「避難」をするために訪れたであろう主体。学校へ「父」と行くこと自体も、あってもまあ参観日くらい。すごく珍しい状況です。
かつて「持ち込み禁止」だった(これは、「避難所」のルールで「持ち込み禁止」になっているとは読まず、「母校」に通っていた当時の校則で「持ち込み禁止」だった、と読みました。ここが前者のように読めてしまうことは、この歌のかなり大きな欠点かなあとも思う気持ちも正直なところあります。)「携帯」を堂々と見ることも、珍しい状況です。
「避難」しに来ているのだから、精神的につらかったり怖かったりするのかと思うのですが、そんな中「卒業したのに学校にいるなんて」「学校に『父』と来ているなんて」「かつての『持ち込み禁止の携帯』を堂々と見ているなんて」というイレギュラーな状況に対峙するときの小さいけれどとても奇妙な心境を主体は俯瞰ぎみに見ている。
そんなリアルなこころの手触りに魅力を感じました。「学校」が「避難所」に変わりうるという、「学校」という場の多面性を描くだけでなく、主体のこころの多面的な部分もうまく描けているような気がするのです。
また、一首の中に「母」「父」というふたつの文字が含まれているところも、視覚的におもしろいのではないかと思います。
秀逸2首
後輩に聞かす台詞を与えられ大人をいくらか楽しませたね/Dorothy
主体は「先輩」=学生または元学生と読みました。「後輩に聞かす台詞」は、いろいろ解釈できそうですが、たとえば卒業式における「卒業生の言葉」みたいなものかな。もしくは部活中など、日常で使われている後輩への助言や文句などとも読めるかもしれません。でもそれは「与えられ」たものだというのです。
確かに、卒業式の言葉って、先生が作ったやつを丸読みさせられたりする学校もあります。日常的な後輩への態度も、見よう見まねで覚えていくものであり、自然発生的に「先輩」が手にするものではありません。
そして、その一連の行動は「大人をいくらか楽しませ」るものであった、というわけですから、この主体は非常に引いた目でものごとを見ています。そもそも、自分の言葉を「与えられた台詞」と思っている時点で、すごく冷めている。学校というシステムの変なところを冷静に観察しているところがまずいいなと思った点のひとつです。
でも、学校のシステムのバカらしさを指摘する作品というのは、わりとありふれていると思います。ところが、ここでは「楽しませたね」という言い方が効果的に使われています。まるでいたずらっ子がくすっと笑うかのような、呼びかけっぽいこの語り口調。あたかも読者に共犯を誘うような、「きみもそうやって大人を楽しませてたんでしょう?」と軽口で挑発でもするような、そんな楽しさがなんとも魅力的です。ここを、気だるげなムードでとどめるやりかたもあったのかもしれませんが、そうしなかったところが二つ目のよい点だと思います。
一晩中ぼくを待つのか上靴は狭い部屋へと閉じ込められて/朝野陽々
「狭い部屋」というのは、下駄箱のことでしょう。ひとりひとりの靴が仕切られていて、フタがついているタイプのものだと、確かに「部屋」っぽい。「一晩中」「待つ」というのは、下校から次の朝までの夜のあいだ、「上靴」がその下駄箱の中に置かれつづけることを意味すると読みました。確かに、言わんとしていることはその通りです。でも、「上靴」を見てもみんなあまりそうは考えません。その、あまり考えないことを洗い出した点にこの歌のよさはあります。
それだけではありません。「待つ」も「閉じ込められて」も擬人法のようなはたらきをしている表現ですが、この表現がするっと出てきているのは、おそらく「上靴」だけでなく、学生である主体自身も、教室という名の「狭い部屋へと閉じ込められて」いるという実感があったからだと思うのです。朝から放課後まで教室に「閉じ込められて」、もしかすると日中、部屋から出られる放課後をずっと待っているのかもしれません。それは「上靴」と同じであり、時間的には真逆の状態です。
学校は、社会という「狭い部屋」の中に存在する「狭い部屋」ですが、その中にも下駄箱という「狭い部屋」があったとは。地獄のマトリョーシカみたいだなあ、などと、そんなところにまで想像が及びました。
佳作3首
本年の修学旅行は中止です 母は木刀たのしみでした/とうまゆきこ
この歌、上の句と下の句の間は半角スペースが挿入されています。短歌の技法として、空白を入れたいときは全角スペースを使うのが一般的です。半角スペースや全角2マスなどの空白はここぞという時に使う感じの珍しい技法で、何らかの必然性がないと短歌に入れるのは厳しいでしょう。その判断は非常に難しいところなのですが、この歌では半角の意味はあまりないようにわたしは感じました。でも、内容がおもしろかったので採用です。
コロナウイルスの影響もあって、「修学旅行は中止」という学校も、今年は多かったことでしょう。下の句の意味は、「母(わたし)は自分の学生時代、修学旅行先で木刀を買うのがたのしみだった」と読んでもいいし、「母(わたし)は、修学旅行で自分の子供が木刀を買ってくることがたのしみだった」とも、両方読めそうですが、後者のほうが楽しいかな。だって親が見せる反応って、「木刀なんていらんわ!修学旅行テンションでいらんもん買ってくるな!」といったものが多そうなのに、ノリノリなのはなんか面白くないですか。
「先生に言ってやろー」の先生は男子を咎めるときだけ登板/カラスノ
たしかにあの言葉(歌?)の「先生」って、具体的な「○○先生」のことではなさそうな感じがしますよね。概念上の先生、というか。イマジナリー先生、ですよね。そのことを面白く歌った楽しい歌です。「咎める」という単語のチョイスもなかなかエッジが効いていていい感じ。
「登板」というのは野球などに使われる単語かと思うのですが、ここで少し場違いにひょっこり出したことでさらにコミカルな歌に仕上がりました。
理科室のよく分からない器具たちは年に数度の出番を待った/長井めも
理科室にはたくさんの器具がありますが、その中には、名前も難しい、用途もそんなにない器具というのが複数あるかと思います。それを「よく分からない器具たち」と主観でざくっとまとめてあるところに、驚かされます。
こういうのは具体的に書いたほうが基本成功しやすいのですが、ここでは「ぼかし」がうまくいっているような気がします。「出番を待」つというのはシンプルな擬人法ですが、擬人法特有の酔った感じはあまりなく、さらっとした読み味になっています。
まとめ
以上です。掲載された方、おめでとうございます!素敵な歌をありがとうございました。
「テーマ詠」に変わってから多くみられるのですが、「テーマ」から飛躍しすぎていて連想がわかりにくい歌が時々みられます。あまりにも連想がわかりにくい場合対象外になってしまうのでお気をつけください。
次の「テーマ」は「夢・睡眠」。「夢」「睡眠」という単語は詠みこまなくても大丈夫。
なお、次回から投稿フォームに「備考欄」ができました。ここは、「ルビを入れたいとき」「一字空けなどの字空けをするとき」にその表記を明確にこちら側に伝えるために使ってください。歌の意味や解釈、その他の説明などは不要です。
備考欄の使い方
- 特殊なルビを伝える
例:1首目の「(漢字を入れる)」のルビは「(ルビを入れる)」です - 通常の一字空け(全角スペース1つ分)以外のスペースの意図を伝える
例:2首目のスペースは半角スペース1つです。
3首目のスペースは全角スペース3つです 。 - 歌の意図や解説などは備考欄に入れないでください。
それでは、みなさんの素敵な歌をお待ちしています!
次回のお知らせです。
階段歌壇第7回 テーマ 「夢・睡眠」募集のお知らせ
- テーマ「夢・睡眠」
(詠み込み必須ではありません:夢・睡眠をテーマにした歌であれば、歌の中に「夢」「睡眠」という単語は入れなくてもかまいません) - 応募期間 2020年11月5日〜25日
- 発表 2020年12月上旬(TANKANESS記事内で発表します)
応募フォームに筆名、メールアドレス、短歌を記載のうえご応募ください。
<注意事項>
- 未発表の自作の短歌に限ります。(掲載された短歌は既発表作品となります。)
- 1人3首まででお願いします。(1つの応募フォームで3首まとめて応募が可能です)
いただいた歌は、すべて選者(橋爪志保)が目を通して選をし、上位者の歌とコメントを発表します。
また、入選作のなかから最もよかった短歌を「特選」とし、短歌に関するデジタルグッズ(スマホ用壁紙など)を賞品としてお送りします。
そこのあなた、あなたの短歌をわたしに読ませていただけませんか?
この記事を書いた人
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/
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