みなさまこんにちは、橋爪志保です。季節は夏まっさかり、毎日がすごい暑さです。年々夏が暑くなっているような気がするのですが、気のせいでしょうか。体調など崩されないようにご注意を!
第15回のテーマは「食べ物・飲み物」。今回から題詠ではなくテーマ詠になりました。読み込み必須ではなく、食べ物・飲み物についての歌なら何でもアリ、というやつですね。今回も張り切って見ていきましょう。
特選1首、秀逸2首、佳作2首をご紹介します。
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
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自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
階段歌壇 第15回 テーマ詠「食べ物・飲み物」総評
特選1首
不死鳥のつくねを串から外したら外したやつから飛び去るんだけど/SAMIDARE
初句・二句でまず、驚かされます。「不死鳥のつくね」……。不死鳥って、文字通り死なない鳥ですよね。なのに、「つくね」にされてしまうの……?
しかも「つくね」は、たとえばトリ皮とかねぎまなんかよりも、ぐちゃぐちゃの微塵になっている料理です。そんな原型の姿かたちがなせないほどめちゃくちゃになったものというアイテムに、まずツッコミどころ満載です。
「串から外したら」というのは、焼き鳥ってシェアするときとか、きれいに食べたいときには「串」から外すという工程をはさむときがあるのでそういうことでしょう。
しかし、この歌の驚きは結句です。外したやつから「飛び去るんだけど」……!?!?「つくね」が「飛び去る」?
羽なんて生えてないはずです、「つくね」なんですから。でも、「飛び去る」と書かれたら、その言葉の力を信用せざるを得ません。うにょうにょ波のような軌道を描きながら宙へ浮くのかな……。さすが「不死鳥」。「つくね」にされてもその生命力は弱まることを知りません。でも、この光景もまた、ツッコミどころ満載。
「だけど」という不満を漏らした形の言いさしになっているところも効いていると思いました。「から」「たら」「から」、と「ら」の音で調子をとっているところもいいですね。「外した」の繰り返しも、ここではきれいに決まっているような気がします。
同じ作者の〈胃の中へざーざー降らすフリスクが昇って頭上でアイディアになる〉も、とてもよかったです。水の循環のイメージと重ねあわせた歌かなと思うのですが、なるほど、と思わせる力ある歌です。
たしかに、「フリスク」みたいなミント系のお菓子は、アイディアを出したいときなどによく食べます。「降らす」「フリス」で韻を踏んでいるところ、「昇って」「頭上で」でリズムを整えているところなどに技がありますね。
秀逸2首
チョコレートパフェを内側から食べて外の世界の君と目が合う/Re:Makita
カメラワークが不思議な一首です。
「内側から食べて」というところまで読んだだけでは、スプーンをぐりぐり中まで押しやって、奥まったところから食べているのかなあと思いますよね。でも「外の世界の君と目が合う」というところまで読んで、なるほどびっくり。主体が「パフェ」の器よりも小さくなって、器の中からむしばむように「パフェ」を食べているのだということがわかります。
食べていくと容器の中身がなくなっていって、透明な器越しに、つまり「外の世界」が見えてくるというわけです。ミニチュアのような「もしも」の世界が描写されていて、なんだか楽しくてにこにこしてしまいます。
たくさんの食べ物の中から「パフェ」を選んだのも、効いていると思います。「パフェ」って、すごく構造的な食べ物というか、器の中に入り込みたくなる気持ちがわかります。入り込めるすき間もありそう。そしてその器も、たいがいは透明なガラスなので、「目が合う」のも納得です。
それにしてもこの歌の「外の世界の君」は、小さい人間ではない、ふつうサイズのような気がしますよね。でも、そもそも主体や「君」の身体のサイズは、歌のどこにも明確には書かれていません。けれども、なんとなくわかる。それは、「こびとを見つけた!」「(ふつうサイズの)人間に見つかっちゃった!」的衝撃の感情がさまざまな既存の物語でもうすでにたくさん描かれていて、その「はっ!」とした感覚をこの歌が丁寧になぞっているからなのではないか、と思うのです。
同じ作者の〈フリスビー投げたら犬が駆けてゆきピザを咥えて戻ってきたら〉も、楽しそうな光景が描かれていて好きでした。
コンビニのおにぎりの〈2〉が刈り取った海苔に執着しない豊かさ/鈴木ジェロニモ
〈2〉。何のことだろう、と一瞬思いましたが、コンビニおにぎりに、たしかにあります、〈1〉、〈2〉、〈3〉。コンビニに売られている多くのおにぎりが三角のかたちをしていますが、あれを開封するときに、中央からぺろりーんと縦に破る〈1〉の工程、左右にシュシュッと引く〈2〉、〈3〉の工程があります。〈2〉はその左のシュッ、というわけですね。
たしかにあれ、かなりの高確率で海苔がフィルムに残ってしまいます。一番いい開け方なのに、なんとかならないものか、とおそらく誰もがうすぼんやりと思っていたことではないでしょうか。まず、そんなみんなが言語化しないようなところの目をつけたことにこの歌のよろこびがあります。
そして、あのフィルムに残るという現象を「刈り取った」という言葉で示したことも、納得度が高い。
また、最後は「豊かさ」と大きく出ましたが、確かに「豊かさ」とは、ああいう小さなことの積み重ねによってしみこんでいく概念なのかもしれないなあと大きくうなずきました。
韻律の面でも巧みな歌で、「り」や「に」などのイ段音が繰り返し使われることによる緊張が、最後の「豊かさ」のア段音の連続でぱあっと解放される。読んでいてたいへん気持ちいい歌です。
同じ作者の〈タクシーの後部座席で寝るようにL字に萎えているカレーパン〉も、比喩が面白くて、ダウナーな感じ、ちょっとしんどい感じがよく表れたいい歌だなと思いました。
ご投稿くださったもう一首〈食パンを一枚取ると袋から一枚分のかたちが消える〉も好きです。当たり前のことを言っているのですが、「かたちが消える」と言いなしたことで、高次元的な見方ができている歌です。
佳作2首
小麦粉のプリキュアだった過去のあるステラおばさんクレアおばさん/石川真琴
「ステラおばさん」はクッキーの、「クレアおばさん」はシチューなどの商品のキャラクターです。たしかにどちらも小麦粉製品。「小麦粉のプリキュア」という斜め上のユーモアが、きれいに決まりました。
キャラクターの「過去」を捏造する嫌味みたいなのもあまり出ていなくて、おもしろく読める一首です。同じ作者の〈菌なのにお菓子の箱に描かれてバイキンマンはものすごい奴〉も、シニカルでよかったです。
海のない国に生まれたふりをしてラムネで手を洗っているきみ/反時計
「海のない国」に生まれるかどうかと、「ラムネで手を洗」うかどうかに、本来関連はありません。
「海のない国」だから水がなくて困って「ラムネで手を洗」うなんてこと、実際にはべつにありませんもんね。だから「ふり」をするかどうかも、本来はどうでもいいはず。ここに正しい理屈はありません。
でもこの歌の中では、全体的に香る詩情が歌の強度を高めて、支えています。四句目の字足らずは少し気になりました。
まとめ
以上です。掲載された方、おめでとうございます!素敵な歌をありがとうございました。
さて、次回も引き続きテーマ詠です。今回とおなじで、テーマに沿っている歌であれば詠みこみはいらない、というやつですね。
次回のテーマは「のりもの」。車、バス、電車ももちろんOK、そのほかにも、人力車、ロケット、などなどいろいろ考えられるアイデアは多いのではないでしょうか。楽しんでとりくんでもらえれば幸いです。
第16回階段歌壇 募集要項
- テーマ 「のりもの」
(詠み込み必須ではありません:短歌の中に「のりもの」という単語は入っていなくてもOK) - 応募期間 2021年8月5日〜25日
- 発表 2021年9月上旬(TANKANESS記事内で発表します)
- はじめて投稿する方は投稿ルールを必ずご確認ください。
応募フォームに筆名、メールアドレス、短歌を記載のうえご応募ください。
<注意事項>
- 未発表の自作の短歌に限ります。(掲載された短歌は既発表作品となります。)
- 1人3首まででお願いします。(1つの応募フォームで3首まとめて応募が可能です)
いただいた歌は、すべて選者(橋爪志保)が目を通して選をし、上位者の歌とコメントを発表します。
また、入選作のなかから最もよかった短歌を「特選」とし、短歌に関する素敵なグッズをお送りいたします。
そこのあなた、あなたの短歌をわたしに読ませていただけませんか?
この記事を書いた人
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/
自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる