こんにちは。牛隆佑(うしりゅうすけ)です。短歌をつくったり短歌の活動をしたりしています。
さまざまな短歌の企画者へのインタビュー「短歌の企画者に話を聞いてみた」の第4回は短歌情報サイト「最適日常」の月岡烏情さんです。この連載で取り上げてきた企画の中ではこれまでで最も新しい企画です。2020年5月の登場時点から、情報量の充実ぶりに驚いた人も多かったでしょう。
「最適日常」とは?
牛:まず、「最適日常」をまだ見たことがない方のために概要をお願いします。どう説明すればいいでしょうか。
月岡:ふわっとした気持ちではじめて、ふわっとしたまま続けてきたので、明確なコンセプトの説明は難しいですね。「短歌に関するネタを扱ったblog」で、まだその域は出ていないかなと思います。
牛:いや、情報の質的にも量的にも、明らかに「短歌に関するネタを扱ったblog」じゃないですよ。「短歌ポータルサイト」を名乗ってもいいくらいだと思います。
月岡:ありがとうございます。でも、まだ何とも定まっていない部分はあるんです。「最適日常」はポータルサイトとも違います。「短歌のポータルサイト」を意識していないわけではないけれども、別に目指しているのでもない。なるようになっている感じです。ただ、「短歌に関する情報を全部集めたい」という実現不可能の無謀な欲望はあります。
牛:その実現不可能の欲望を動機にして、何かをはじめようというだけで驚嘆します。
月岡さん自身も短歌に詳しいですよね。それもシーン的な事情まで把握している印象です。短歌を始めたのはいつごろでしょうか。
月岡:15・16歳くらい、90年代前半にはじめているので、そのあたりの雰囲気は知っています。でも、ここ15年くらいのことは詳しくないですね。個人的に短歌を作ったり、塚本邦雄、斎藤茂吉、正岡子規、古今和歌集といった愛蔵の歌集を読んだりはしていましたが、仕事が忙しくて、短歌総合誌を買うなどシーンを追っていなかったので。
牛:なるほど。「最適日常」のコンテンツ的に、いわゆるネット短歌に関心があるのかなとは思いつつも、月岡さん自身の作風はネット短歌の系譜ではないなとちょっと不思議に思っていましたが、腑に落ちました。
「最適日常」をはじめたきっかけ
牛:「最適日常」をはじめたきっかけについて教えてください。
月岡:短歌の情報をまとめるサイトはもっとあっていいと思ったんですよね。短歌はどうしても小説などに比べると規模が小さいので、そうしたサイトがなかなかできない。
牛:はい。
月岡:私はインターネットをはじめる前から短歌をしていたので、インターネットの世界で短歌のいろんなことが実現していくのを楽しみにしていたんです。ところが、「電脳短歌イエローページ」(短歌ウェブリンク集。管理人は荻原裕幸。1998年~)はできたものの、その後がなかなか広がらずに発展しませんでした。
牛:「tankaful」(短歌ポータルサイト。編集部員は光森裕樹。2006年~)はどうでしょうか。
月岡:まさしく「最適日常」は「tankaful」からとても影響を受けています。ただ、「tankaful」も更新されなくなって、それどころか、公開されていた「ネット短歌史」が見られなくなってしまったんです。その後、復活する気配もないし、それなら自分でやるしかないか、と。「tankaful」の存在は大きいです。
牛:たしかに「tankaful」と「最適日常」はコンテンツ的に重なる点が多いですね。「tankaful」もそうでしたが、「最適日常」もあれだけの情報を集めて更新・運営しつづけるのは大変だろうと思います。
月岡:「TANKANESS」(このサイト。編集長はなべとびすこ。2019年~)のように新しい記事を提供しつづける方が大変だろうと思いますよ。情報は一度、集めて載せてしまえば、ある程度は長持ちするので、「最適日常」は大変そうに見えても実は楽なことばかりをやっています。
牛:そうかなあ(笑)今のは謙遜が入っている気がします。絶対、大変ですよ。
短歌の世界にポータルサイト的なものを望む声はやはりずっとありますよね。でも、実際に実行する人はほとんどいないです。「私がしなければ」という使命感はありますか。
月岡:使命感は持たないようにしています。初期は「みなさんのために」と錯覚しそうになったこともありましたが、それだと長続きしない。他人の意見に左右されてしまいそうだし。あくまでも自分のために、趣味でやるというスタンスです。
牛:分かります。登場時は「これはすごいポータルサイトができたぞ」と思いましたが、時間が経つうちに、「これは月岡烏情という歌人の個人的なサイトではないか」と考えるようになりました。
月岡:そうですね。もっと短歌の市場が大きければ、収益化させるなど別のやり方も考えられますが、少なくとも今の時点では「私が私のためにやっている」というスタンスですね。
「最適日常」の「現代短歌の事件簿 ―’95年以降の短歌史年表」も元々パソコンの中にあった資料を、ネットに上げてしまった方が、私自身がいつでも見られる、と考えて掲載したものです。
牛:僕らはそれを、覗き見させてもらっているわけですね。そう思うとありがたい(笑)
「短歌ポータルサイト」は必要か
牛:冒頭で「最適日常」はポータルサイトではないと仰っていました。個人でしていることだから、でしょうか。
月岡:いえ、たとえば、短歌研究社などの出版社や著名な歌人の協力が得られたとしてもポータルサイトを目指すべきではないと思います。
牛:それはなぜですか。
月岡:そもそもポータルサイト自体が、インターネットのサービスとして、もう時代遅れです。「Yahoo!」だって、もうニュースサイトですよね。「Google」に駆逐されて世界は変わってしまったんです。それよりも今は「検索」に見つかるように、短歌の情報をどんどん提供していこうと考えるべきです。
なので、「最適日常」は、ポータルサイトとしてのトップページからの利便性は非常に悪い。でも、SEOには強いようにと意識して作っています。
牛:なるほど。
「tankaful」はポータルサイトを名のっていましたし、目指していたと思います。コンテンツとしても、とても意義深いものだったと思います。ただ、運営者の労力と期待に見合うほどの効果を得られたのだろうか、とは感じているんです。
月岡:そうですね。「tankaful」は間違いなく歴史に残る、価値ある事業だったと思います。でも、更新が絶えたのも必然だったのかなとは思います。「tankaful」はポータルサイトを目指していましたが、その後の私たちのインターネットの使い方の変化によって、「ポータルサイト」自体の必要性がこぼれ落ちてしまったんです。
「電脳短歌イエローページ」もそうです。あの時代は、「リンク集」がすごく望まれていましたが、今は「リンク集」はもう必要とされていない。
牛:そうか。「電脳短歌イエローページ」も「tankaful」も、「途中でやめてしまった」のではなくて、もっと大きな外側のインターネットの在り様の変化によって、自然と終わりを迎えた、という捉え方ですね。
月岡:はい。いわゆる「役割を終えた」ということだと思います。
短歌の情報をどこまでカバーするか
牛:とは言うものの、特に短歌をはじめたばかりの人たちの間から「短歌の情報を集めたサイトが欲しい」との声はちらほらと耳にします。僕自身、短歌をはじめた頃はそうでした。
月岡:もちろん、それはあります。短歌という一つのジャンルで、一つのアクセスで、できるだけ揃った情報が得られるのは大事だと思います。「最適日常」では、「現代短歌パブリックドメイン文庫」がその意識の表れです。
たとえば、「みだれ髪」(与謝野晶子)は「青空文庫」にもありますが、わざわざ「青空文庫」まで行かなくても「最適日常」で見られますよ、というのが重要です。いろんなアクセスの仕方があるから、あちらにもこちらにもあるのは無駄じゃないんです。
牛:なるほど。
「短歌の公募情報」は、短歌をはじめたぐらいの人に参考にしてもらいたいという記事でしょうか。あの記事はすごく助かるでしょうね。
月岡:そうですね。「ありがたい」という声が多く聞けるのは、その記事です。なかなか他に無いんですよ。短歌雑誌はそれぞれに自分たちの短歌投稿欄を設けていますので、できないんだと思います。「TANKANESS」にも「階段歌壇」がありますよね。
牛:なるほど、フラットな立場でまとめられるのは、「最適日常」の強みですね。
「TANKANESS」の話が出ましたので、「最適日常」と「TANKANESS」の比較もしておきたいです。「TANKANESS」は、「短歌のすみっこを伝えるWebマガジン」とキャッチコピーが付いています。
これは僕の個人的な印象ですが、このコピーはなべとびすこ編集長が、いわゆる歌壇とは少し離れた場所で短歌をはじめて、活動を続けてきたので、「TANKANESS」において歌壇的な情報は十分にカバーできないかもしれないことへの予防線、であると同時に、逆に自身のような場所で短歌をはじめた人たちを絶対に置いておかないぞ、という自負でもあると思うんです。
「最適日常」は、どうでしょうか。
月岡:私は、やはりそういった意識は持たないようにしていますね。誰にどんな情報が必要かも考えていなくて、それは使う人が取捨選択すればいいと思っています。
ただ、少し意識していることもあります。歌壇の中央や短歌結社の情報は、短歌総合誌や結社誌ですでに十分に成り立っていますよね。でも、そこにいない人たちは、保護されていないし、持続しないことも多い。そちらへの意識はやはりありますね。
牛:それで、「最適日常」のネットプリント関係コンテンツの充実に展開するんですね。
月岡:うまくつながりましたね(笑)
歌集の情報発信なら、短歌総合誌がやる方がいいですからね。
短歌の情報の収集
牛:「最適日常」はネットプリント関係の情報がとても充実しています。
ネットプリントはコンビニのマルチコピーサービスの名称で、スマホやPCから登録したデータをコンビニのコピー機で出力できるサービスです。予約番号さえ分かれば全国のコンビニで出力できることを活用して、同人界隈では、予約番号をネット上で公開し、紙形式での作品をユーザーに届けるやり方が定着しました。
短歌では、2011~12年頃の村上きわみさんの取り組みが最初でしょうか。
ネットプリントサービスを利用した短歌の発信が普及していく中で、ネットプリント情報が溢れるようになり、短歌のネットプリント情報を集約しようという動きもありました。専用のツイッターアカウントを作って、そこに届けられたネットプリント情報をツイートしていく、という形式だったと記憶しています。ただ、僕が見る限りではうまく機能していたとは言えません。それは、そのアカウント自体の知名度がなかなか上がらなかったのと、受動的な情報の集め方が、主な要因だったと思います。
月岡:分かります。「最適日常」も最初は、その方式でとは考えていました。DMをくれたら私が宣伝します、という。でも、それだとみんな送ってこないんですよね。
牛:その理由は何でしょう。
まず一点目は、私自身の得体が知れないですよね。誰がやっても知らない人はいるし、逆に誰でも知っているような有名人やメディアがやったとしても、それはそれで二の足を踏みます。
二点目は、DMを送るのが基本的に面倒であること。
三点目は、短歌をやる人たちの間で、宣伝をするのは悪であり恥、という感覚が根強くあることですね。強弱はあるとしても。
牛:分かります……。する・しないは自由ですが、宣伝は恥ずかしいものという風潮は、良くないですね。
月岡:歌集ですらあまり宣伝しないですよね。
牛:「うたの日」(毎日歌会が実施される短歌投稿サイト。管理人はのの。2014年~)も、管理人のツイートによると、短歌の情報を集約したサイトにしようとしていたようです。
月岡:デザインにその形跡は見られますね。
牛:やはり、参加者に情報を自由に書き込んでもらうという形式です。僕も、自分の手がけるものは、積極的に書き込んでいましたが、あまり効果も無さそうで、やめてしまったんですよね。相当な量の情報が集まらないと、一つ一つの情報への効果が表れないので、その効果が表れないと、面倒くささが勝ってしまいます。
月岡:情報はこっちから集めないとうまくいかないんです。
牛:その膨大な労力を費やして、やってあげようという人はなかなかいない。
月岡:そうです。なので、私は「やってあげる」ではなく「自分のために」のスタンスでいます。
牛:「短歌のネットプリント ONE NUMBER 再配信祭」で、ネットプリント情報を集めて、同じ番号で出力できるようにする試みはすごく良いアイデアですね。同一の歌人が複数のネットプリントを同じ番号で出せるようにしたことはあっても、複数の作者のネットプリントでそれをしたのは、少なくとも僕ははじめて見ました。
月岡:他ジャンルならあったかもしれません。たしかにアイデア的に我ながらヒットでした。
牛:それが可能なのも、情報を自分で集めているからですね。
ネットプリントについて
牛:特に面白いと思ったのは「この短歌のネプリがいいね!ガイド」です。なぜ、やろうと思ったんでしょうか。
月岡:ずっとネットプリントを紹介していたところ、「賞でもやればいいのに」というツイートを見かけたんです。おこがましいですが、これだけネプリを収集して読んでいるのは私ぐらいだろうと思いました。ただ、「賞」では誰かから怒られそうな気がしたので、「ガイド」の名でやることにしました。
牛:記事には約300ものネプリ作品から選んだとありますね。リストは「短歌のネプリ2021」の記事にまとめられています。
月岡:それでも月に1つ2つは見逃したものがありますし、私の目が届いていないところで発行されたものもまだあると思います。
牛:このリストはすごいですね。僕も、平均よりはネット短歌事情を知っている方だと思いますが、存じ上げていない名前もかなりあります。
月岡:それだけ、情報が伝わりにくいし、手に入りにくいんです。
牛:ということですね。
月岡:「最適日常」を始める際に、軽い気持ちで短歌のネットプリントやイベントの情報を調べたら、全然見つからなかったんです。少なくとも印象としては。でも、時間をかけて、調べ方を工夫して、詳しく探したら、情報がめちゃくちゃ出てくる。
短歌に関することはGoogleで検索されることも少なくて、アルゴリズム的に発展していかないんでしょうね。それは、短歌の市場規模の小ささもあるし、短歌の人たちの宣伝を嫌う意識もあると思います。インターネットでの宣伝の難しさもありますね。そもそも宣伝というのは回数を重ねないと効果がないことや、Twitterのリツイートはフォロワーに非表示にされていることも多い、ということさえあまり知られていません。
牛:まったくその通りです。僕自身、宣伝については、いろんなイベントを運営する体験の中で感覚的に得た知識なので、その難しさをよく分かっていません。
月岡:短歌のネットプリントの存在は、最近知ったんです。仕組み自体にも惹かれましたし、内容がとてもレベルが高くて驚きました。短歌総合誌に掲載されていてもおかしくない作品が、ネットプリントで発表されていて、しかし、全然読まれていないものもある。もったいないなあと思うんですよね。
短歌のリレーネプリ
牛:「短歌作家がつなぐリレーネプリ シリーズ」の話にいきたいと思います。短歌の発信としてはこのシリーズが「最適日常」の現在のところ唯一のコンテンツですよね。なぜ、この形式でやろうと思ったんでしょうか。
月岡:まさしく、短歌を発信するコンテンツがなかったことがまず一つです。ネットプリントの形式を生かしたかったのが二つ目。私自身が、最近の新進気鋭の歌人を知らなくて、それを知りたかったのが三つ目です。
リレー形式にして、その人のナンバーワンを次々教えてもらえれば、自分の望むことができるな、と思ったんです。
牛:最初の日向彼方さんは、月岡さんが声をかけたんですね。
月岡:そうです。私が短歌を追っていた15年ほど前、俵万智さんや加藤治郎さんの「短歌の口語化」の格闘の歴史を見ていたんです。でも実を言えば、「口語化はちょっと無理じゃないかな。」と思っていました。そこからタイムワープして、現在の口語短歌を読んだので、みなさん、ごく自然に口語で短歌を詠んでいて、そのすごさに驚きました。そのなかでも特に、印象的だったのが日向彼方さんでした。
わーいって手をあげているサボテンの真似してふたりわーいってする/日向彼方
短歌作家がつなぐリレーネプリシリーズ シーズン1 1人目「平和な世界で」
月岡:日向さんの短歌は明るさが特徴ですが、苦しみを乗り越えてきて手に入れた明るさが感じられます。「わーいってする」の感覚が、最近の口語短歌の巧さですよね。「文章として正しくなくていい」のが、まさしく口語的です。
眼窩まであをぞら沁むる真昼間の卵生の紫陽花を飼ふゆめ/夜羽ねむる
短歌作家がつなぐリレーネプリシリーズ シーズン1 14人目「どの花もしてゐることだけど」
月岡:日向さんの歌とは対照的です。文語かつ幻想派という、前衛短歌の血脈を受け継ぐかのような作品ですね。私も近いタイプの歌を作るので、なぜこれが私の歌じゃないんだろうと嫉妬しました。
始まりに気づかれるとき僕はもう冬の玉座に腰掛けている/青松輝
短歌作家がつなぐリレーネプリシリーズ シーズン1 17人目「shoki no hikari」
月岡:大学短歌会でよく見られる、先鋭的かつ都市的な生活詠に、さらに青松さんは、一歩間違えるとダサくなるくらいのかっこいい言葉を組み合わせてきます。
最近はどうかといえばコンセントみたいな顔で暮らしています/岩倉曰
短歌作家がつなぐリレーネプリシリーズ シーズン2 3人目「sotoko」
月岡:「わかりやすい」という口語の生活詠の良さがまずあります。それだけではなくて、それは「わかった気になっているだけでは」と読者自身が自分に問いかけたくなるような。人間が人間としてふるまうことの不思議さを炙り出している感じがします。
牛:バラエティーがすばらしいですね。
月岡:そうです。ジャンルの価値を定義づけることができるなら、そこにあるバラエティーの豊かさだと思います。こんなにいろいろなものが輝いていて素晴らしいでしょ、って。
「最適日常」のこれから
牛:今後、やりたいことはありますか。
月岡:めちゃくちゃありますね。
牛:めちゃくちゃありそうですね。
月岡:たとえば、「うたの日」の補完になる、毎週・毎月の互選の歌会システムを作りたいなとか。
あるいは、小説や漫画にあるように、短歌にももっといろいろな賞があってもいいと思っています。
限られた有名選者が選ぶのではなくて、読者みんなが投票で選ぶ賞を作るとか。
あと、大歌人と新人の賞ばかりで、中堅の賞ももっとあってほしいですね。今は塚本邦雄賞くらいしかないのかな。第二歌集賞・第三歌集賞、というのもあっていいですね。
もちろん、私家版の歌集にスポットを当てた賞とか。それに、賞は基本的に「大賞を一人だけ決める」ものですが、大賞が十人いてもいいですし、いろいろなことが考えられます。
牛:既存の新人賞でも、同時受賞だったりして、全員一致で受賞というケースが少なくなったと思います。
月岡:そうですね。今の時代は一つの価値観で一つに絞るのは難しいですよ。たとえば、そもそも口語の短歌と文語の短歌を比べられるのだろうかと思います。もちろん、まったく違うものを一つの価値観で、一つに決めるのも大事なことですが、むしろ比べない賞があってもいいじゃないかと思うんですよね。
短歌の世界は、大先生からの評価が大きな価値になります。でも、私がいるITの世界では、同業者の評価ではなくてユーザーの評価がすべてです。漫画だってそうですよね。漫画の賞もありますけれども、それよりも読者から高く支持されている作品の方がずっと強い。
牛:今の話を聞いていると、短歌でもできそうな気がします。何度も増刷のかかる歌集で、かつ歌壇の賞には引っかかりそうにない歌集、というのも現れています。ミニ漫画界というべき状況になりつつあるのではないかと思います。読者が決める歌集の賞は面白そうですね。
月岡:できるかどうかはともかくとして、面白そうですよね。
あとは、そうですね。「flipper」(短歌の雑誌。編集人はうえだ。2020年~)とか「たにゆめ杯」(短歌連作の公募コンテスト。主催はたにゆめ商事。2020年~)とか「覆面短歌倶楽部」(匿名の短歌応募企画。中の人はあの井。2020年~)とか、今は魅力的な企画をする人が多いので、コラボして何かできないかなとも考えています。企画者への応援や維持継続の仕組みづくりは、常に意識しています。
牛:前述の「この短歌のネプリがいいね!ガイド」にはその意識がすでに窺えるのではないでしょうか。
月岡:そうです。その中には「プランナー&プレイヤー部門」という「人」を対象にしたものがあります。21年上半期では千原こはぎさんを選んでいます。「うたそら」(隔月発行短歌誌。編集鳥は千原こはぎ。2021年~)をはじめ、千原こはぎさんの企画は賞賛されるべきものです。
「うたらば」(短歌と写真のフリーペーパー。発行人は田中ましろ。2010年~)にしてもそうです。あのクオリティのフリーペーパーが存在するのは、他のジャンルに対する短歌界の自慢ですよ。本当は、短歌総合誌や各団体がそうした人にもっと注目してくれればいいんですけどね。
情報の提供は「最適日常」の根幹としてありますが、短歌の世界へのより良い提案をもっとしていければいいなと思いますね。もちろん、それも自分のためにです。
おわりに
そうだそうだと大きく頷ける話と、そうだったのかと目を見開かれる話と、非常にスリリングなインタビューでした。すでにかなりの情報量が蓄えられた「最適日常」ですが、月岡さんの話を聞くかぎり、まだまだ途上なのだと思います。今後、どのような発展を見せるのか、楽しみです。
そして、情報の役立てるのはユーザー自身です。うまく活用すればするほど「最適日常」は伸展します。ぜひ活用してください。
インタビューされた人
月岡烏情(つきおかうじょう)
1978年鹿児島県生れ。結社等未所属。2020年5月より短歌情報サイトとしての「最適日常」をはじめる。
月岡烏情 Twitter @ujou31
最適日常 Twitter @saiteki31
最適日常 URL https://saiteki.me
自選短歌
とほく雨、その心地よき暗がりに人を殺しし人眠りゐる
インタビューした人
牛隆佑
1981年生まれ。フクロウ会議メンバー。
これまでの活動はこちら。
Twitter:@ushiryu31
blog:消燈グレゴリー その三
自選短歌
朝焼けは夜明けを殺しながら来る魚を食らう魚のように
記事内で紹介した短歌企画
- 最適日常:短歌情報サイト。管理人は月岡烏情。2020年~
- 電脳短歌イエローページ:短歌ウェブリンク集。管理人は荻原裕幸。1998年~
- tankaful:短歌ポータルサイト。編集部員は光森裕樹。2006年~
- TANKANESS:このサイト。編集長はなべとびすこ。2019年~
- うたの日:毎日歌会が実施される短歌投稿サイト。管理人はのの。2014年~
- flipper:短歌の雑誌。編集人はうえだ。2020年~
- たにゆめ杯:短歌連作の公募コンテスト。主催はたにゆめ商事。2020年~
- 覆面短歌倶楽部:匿名の短歌応募企画。中の人はあの井。2020年~
- うたそら:隔月発行短歌誌。編集鳥は千原こはぎ。2021年~
- うたらば:短歌と写真のフリーペーパー。発行人は田中ましろ。2010年~