TANKANESSライターによる「ちょっと短歌が気になってきた方に読んでほしい本」

企画

新年あけましておめでとうございます!

平成最後の日、2019年4月30日にTANKANESSが始まって約半年、微力ながらいろんな情報を発信してきました。
TANKANESSをきっかけに短歌が気になってきた方がいれば嬉しいです。

新年ということで、新しいことに挑戦したいと思っている方もいるのではないでしょうか。新たに短歌を始めたい! 短歌の本を買ってみたい! と思っている方のために、今回はTANKANESSライターの歌人6名による
「ちょっと短歌が気になってきた方に読んでほしい本」のレコメンド企画を行います

気になる本を見つけてくださいね!

かつらいすおすすめ本『食器と食パンとペン』

かつらいす

なべとびすこさん主催の「短歌ど素人の会」をきっかけに、2014年から短歌をつくり始めました。知れば知るほど広がってゆく大きな海のような短歌の世界を、これからもゆるゆると旅していきたいです。

Twitter @v_vTitiu

note https://note.mu/v_vtitiu

自選短歌

目を閉じて私の髪は赤毛って想像したら少し楽しい

『食器と食パンとペン』安福望(キノブックス)

「短歌は夢に似ているような気が最近していて、しかもその夢は自分の夢ではなく、全く知らない他人の夢なので、見るものすべてが新鮮です。」(作者あとがきより)

この本は、短歌をひとつずつじっくり味わいたいかたや、いろんな歌人の短歌を読んでみたい、というかたにオススメです。

本の副題には「わたしの好きな短歌」とあり、すでに発表されている短歌のなかから、作者の安福望さんが好きな短歌を取りあげ、それにイラストを描いています。

やさしいタッチのイラストは、ただかわいいだけでなく、短歌の言おうとしていることを深い部分まで感じ取って描かれているように思います。

短歌がひとつずつ載っているので、はじめのページから順番に読んでもいいし、その日の気分で好きなページから読んでもいいところも魅力です。

巻末には、短歌の引用元が記載されているので、この本で好きな短歌が見つかったら、その歌人の本を探してみるのもいいでしょう。

ひみつの宝箱のような『食器と食パンとペン』を読んで、ぜひ、あなたの好きな短歌を見つけてみてください。

 

橋爪志保おすすめ本『桜前線開架宣言』

橋爪志保

2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/

自選短歌

I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる

『桜前線開架宣言』山田航 編著(左右社)

『桜前線開架宣言』は、主に若手世代を中心にした、さまざまな歌人の作品を集めたアンソロジーです。この文章は短歌に興味を持ち始めた方を対象に書いていますが、「はじめたて」の頃って独特のやる気というか、熱量みたいなものがあってとにかくいろんな価値観や作品をぐーんと吸収したくなる時期だと思うんです(私もそうだったので)。

この本はとにかくたくさんの歌、しかもほとんどが今も生きている歌人の歌が載っているので、「短歌のイマってどんなだろう?」という漠然とした疑問にも素直に答えてくれる本だと思います。

また、この本は、著者の山田航さんの解説やコラムもあり、非常に「わかりやすい」本ともいえます。しかし、もちろん短歌はひとりひとりの読者がどのように読んでもいいものです。解説に書いてあることを鵜呑みにせずに、自分の心にまかせて歌を楽しむことも大切です。いろいろな歌人の歌を読み比べながらじっくり鑑賞しつつ、時には既存の評に疑ってかかる。そんな姿勢を初心者段階から身につけることも重要なのではないかと私は考えます。

何はともあれ、短歌はとても楽しく面白いもの。気負わずページをめくってみて下さい。

篠田くらげおすすめ本『短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために―』

篠田くらげ

2007年、偶然聞いたラジオ番組をきっかけに短歌を始める。「未来短歌会」所属。「アポロ短歌堂」「嶌田井書店」メンバー。普段は短歌を詠んだり、書評を書いたり、文学フリマに出たりしています。

Twitter @samayoikurage

自選短歌

縞馬は沈む夕日に気づかない待っているからポストに入れて

『短歌という爆弾―今すぐ歌人になりたいあなたのために―』穂村弘(小学館)

初心者にとっての短歌の難しさは作ることではなく、読むことにあると思います。最初は読んでもどこがいいのかわからないんです。短歌を始めたころ歌人が「この歌はこういうところがいいんです」とコメントするたびに「なんでそんなのわかるの?」と驚愕しました。そういうわけで「読み」の指南書がどうしても必要です。

本書は「歌人の読みの凄さを味わう」ために最適の本だと思います。まず、いわゆる「歌人」ではない人の歌を読むところが載っています。初心者~中級者の歌を歌人の穂村弘と東直子が読んでいくので、「なんで歌人ってこんなに『読める』の!?」という感覚を知ってもらえるはずです。それから歌人の歌を穂村弘が読んでいくところもあります。剛速球を完璧な打撃でホームランにするような爽快さがあって、歌人の凄みを知ることができるはずです。

初心者と呼ばれなくなっても、短歌を読む難しさは実は消えてなくなることがありません。他の人の読みを聞いて「なんでそんなに『読める』の!?」と思い続けています。それが短歌の楽しさです。今度は歌会でお会いしましょう。

 

なべとびすこおすすめ本『はじめての短歌』

なべとびすこ(鍋ラボ)

TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。

Twitter @nabelab00

note https://note.mu/nabetobisco

通販  鍋ラボ公式通販

自選短歌

ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない

『はじめての短歌』穂村弘 監修(河出文庫)

歌人の穂村弘さんによる短歌入門講座をもとにした本です。講座が元になっているからか、語り口調で書かれているので読みやすく、でも内容は非常に奥深い本です。

この本に限らず、穂村さんは既存の短歌に「改悪例」を挙げることで、もとの歌の良さを解説することがあります。これが短歌を始める前に読んでもわかりやすいのです。 この本ではたくさんの短歌が挙げられます。そのなかで次の短歌に関する穂村さんの解説を読み、「あ、短歌やってみたいな」と思いました。

わたくし は日本狼アレルギーかもしれないがもう分からない/田中有芽子

「私は日本狼アレルギーかも」って、会社で上司に言ったらやばいやつと思われる内容なんですが、短歌の世界では素晴らしくなる。短歌の世界は、私たちが生きる社会と価値が逆転している、ということがこの本では繰り返し書かれています。「仕事ができないことも、コミュニケーションが苦手なことも、短歌にして良いんだ」と思うと、勇気が湧いてきたのです。

この本に限らず、入門書の良いところは、いろんな人の良い短歌を、解説とともに読めることです。好きな短歌や好きな歌人が見つかれば、ぜひ次は歌集に手をのばしてください。

 

杉田抱僕おすすめ本『短歌の詰め合わせ』

杉田抱僕

短歌と読書と好きなものを布教することが好き。推し歌集は『しんくわ』(しんくわ/書肆侃侃房)です。この歌集を読んで短歌が面白いと全人類に気づいてほしい。

Twitter @hoboku_57577

自選短歌

日焼け痕一つもなくてペンギンに遠い体で秋を迎える  『ぺんぎん暮らし』

『短歌の詰め合わせ』文:東直子 絵:若井麻奈美(アリス館)

初めて読む短歌の本は何がいいかと聞かれたら、「短歌と解釈が一緒に載っている本」と答えます。自分が短歌に慣れていなかった頃、短歌だけを読んでは「わからないけどわからなくちゃいけない」と焦っては疲れていた記憶があるのですが、誰かの解釈が一緒なら、その解釈に反応しながら自然と短歌を読めていたからです。

『短歌の詰め合わせ』は2019年に出たばかりの短歌入門書で、アンソロジーの側面が強いのが特徴です。「食べ物」「動物」「家族」など8つのテーマに沿って、東直子さんの「読みどころ」解説と若井麻奈美さんのイラストとセットになって短歌が紹介されます。紹介されるのは、たとえばこんな歌。

永遠は三角耳をふるわせて光にのって走りつづける/加藤克巳『球体』

いま「わからない」と思った人こそ『短歌の詰め合わせ』を読んでみてください。誰かの解釈に「なるほど」とか「何か違う気がする」とか反応しながら「わかる」に近づいていくのはとてもエキサイティングです。

またコラムでは短歌の作り方や歴史などについて紹介されているのも魅力的です。「読む」「作る」「知る」のどれでも選べる『短歌の詰め合わせ』を相棒に、短歌を始めてみませんか?

大庭有旗おすすめ本『でも、ふりかえれば甘ったるく』

大庭 有旗

93年生まれ。文章を書いたり、短歌を詠んだり、お酒を飲んだりします。お金がない。

note: https://note.mu/gustrongerr
twitter @gustrongerr

自選短歌

「自殺率」コメンテーターの解説を分母で息をしながら聞いた

『でも、ふりかえれば甘ったるく』エヒラ ナナエ,ery,伊藤 紺,いつか 床子,こいぬま めぐみ,mao nakazawa,生湯葉 シホ,西平 麻依,菅原 沙妃,渡邉 ひろ子/西川 タイジ (PAPER PAPER/シネボーイ)

僕が紹介するのは、女性10人がそれぞれの「幸せ」について想いを綴ったエッセイ集『でも、ふりかえれば甘ったるく』です。

大好きな友達と、思いがけず普段話さないことまで話し込んでしまった帰り道。友達が発したふとした言葉がなんだか無性に気になって、だけど少しでも、ほんの言葉尻ですら、友達の言葉を変えてしまったらその想いが壊れてしまいそうで、ゆっくりと丁寧に、なぞるように、心の中で反芻してしまう夜。この『でもふり』を何度も読み返してしまうのは、そんな感覚に近いような気がします。

中でも、伊藤紺さんの「ファミレスのボタン長押しするように甘く」では、エッセイの中に伊藤さんが詠んだ短歌が差し込まれています。エッセイと一緒に読むことで、伊藤さんが短歌という限られた文字数の言葉に閉じ込めた想いが、心の中でじわじわと温度を持って広がっていくのを感じることができます。

また、生湯葉シホさんの「永遠には続かない」では、短歌をきっかけとして始まったある出会いのお話が綴られています。僕も大好きなある有名な短歌が登場するのですが、このお話の中で初めてその短歌と出会えることを、とても羨ましく思います。

 

 

以上です!

気になる本があれば、ぜひ書店等でチェックしてみてください!

それでは、2020年も短歌を楽しんでいきましょう!

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