本ッ当に好きな短歌の本 教えてください〜toron*編〜

エッセイ

「おすすめの短歌の本を教えて」と言われたらどう答えますか?

相手の好みを聞いたうえで答えることもあるでしょうし、「好きだけど絶版だからこの歌集はやめておこう」「好きだけど個人通販でしか買えないから大きな書店で買える本をすすめよう」「有名すぎて知っているだろうからこの本はやめておこう」と思うこともあるかもしれません。

この企画はそういった条件は全く気にせず、とにかく「本ッ当に好きな 短歌の本」についての思いを書いてもらうリレーエッセイ企画です。

第12回はtoron*さんです。

 

短歌と出会った場所はTwitterだったのだけれど、正確にいうと「出会い直した」に近い。

フォロワーさんが自作の短歌をツイートしていて、面白そうだな、と思ったことがきっかけで短歌をつくりはじめた。でもそれは、それまで生活のなかで忘れていた短歌を、そのフォロワーさんのツイートをきっかけに思い出したからでもあった。

わが撃ちし鳥は拾わで帰るなりもはや飛ばざるものは妬まぬ/寺山修司

最初に寺山を知ったのは中学生の頃、彼の短歌が文芸誌に引用されていたからだった。当時のわたしは短歌を読んだこともなく、それまで興味を持ってこなかったジャンルで、要はまったく知らなかったのだけれど、一読して、自分のなかにすっ、と入ってきた。そしてなにより、その格好良さに絶句してしまったのである。

が、当時のわたしは彼の短歌を入口にしてその他の短歌に入って行くことはなく、単に彼の多方面にわたる「言葉」の仕事のファンになってしまった。

人間は、中途半端な死体として生まれてきて、一生かかって完全な死体になるんだ/寺山修司『両手いっぱいの言葉』

片思いも恋愛のひとつのかたちです。
相手は想像力です。/寺山修司『寺山修司少女詩集』

 

また、それ以外にもまた寺山は絶妙に中学2年生の嗜好をくすぐるタイトルをつけているのである。『棺桶島を記述する試み』『白夜討論』『地球をしばらく止めてくれぼくはゆっくり映画を観たい』などなど…。

と、タイトルを並べてみて気が付いたけれど、自分は言葉に対するフェティシズムがあって、かっこいい単語を見つけるとそれをノートに書き留めて、短歌もそのノートから言葉を組み合わせてつくったりしているのだけれど、最初に書き留めたのも寺山修司の言葉だった。

今だからこそ告白できるがぼくは本当は自分の生前を知っているのだ。だが、ことばなんかに教えてやることはできない/寺山修司『地獄篇』

寺山修司は俳句から短歌に入り、その後、詩や演劇、エッセイと多方面に活躍した作家、ということは彼の膨大な著作物を追い駆けてゆくうちに解ってきたことで、なので彼の短歌やそこで残した業績は知ってはいたけれど、出会いの入口だった短歌をわたしが思い出したのはそれから10年以上あとのTwitterで、だ。

だから、短歌と出会い直してから最初に手に取ったのは『寺山修司青春歌集』で、今も変わらず読み返している。自分にとっては短歌へのパスポートのような歌集かもしれない。

『寺山修司青春歌集』は寺山のこれまでの短歌作品のほとんどが収められた歌集で、それゆえに歌のトーンも幅広い。谷川俊太郎を彷彿とさせる、少年時代を詩的に歌い上げたものから、結婚直後の生活を詠んだと思われるみずみずしい短歌群と、そしてさらにもっとほの暗い、故郷や、自らの心象がオーバーラップされているとも感じられる、上京後の風景など、それらが集約されているのがこの歌集である。

どのトーンの歌もそのときどきのわたしの心情に寄り添って代弁してくれているように思えた(もしくはそう思わせてくれた)けれど、そのなかで自分が取り分け、どんな気分であるときも引き付けられたのは、「ほの暗い」方だった。

きみのいる刑務所とわがアパートを地中でつなぐ古きガス管/寺山修司『寺山修司青春歌集』

人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ/寺山修司『寺山修司青春歌集』

吸ひさしの煙草で北を指すときの北暗ければ望郷ならず/寺山修司『寺山修司青春歌集』

一首目、刑務所と自分の家のアパートのガス管が本当に繋がっているのかどうか、それは実際、知るすべはないはずなのだ。が、おそらくそれだけはせめて「きみ」と繋がっている

と信じることが重要なのではないだろうか。

二首目は海辺で誰かを見送った後のようなドラマを感じながら全体的にどこか箴言のような印象がある。三首目、「吸ひさしの煙草で北を指す」仕草はどこか書き割りのようで、だがそれゆえに自分が物語の主人公であると錯覚させるような陶酔感がある。

これらの歌に、わたしはまだそういった言葉を知る前ではあったけれど、「ピカレスク(社会の下層に位置する主人公・悪漢による冒険小説)」のような雰囲気を感じて惹かれたのだと思う。

まだ何者でもなかったけれども、今後何かになれる可能性もおそらくないに等しい、とそれだけは解った中学2年生の頃の自分に、それらの短歌は、違う世界にそそのかす少し危険なフレーズだった。

そのためだろう。たぶん、自分は今も中学2年生の頃の自分に向けて短歌をつくっているような気がするのだ。

無名にて死なば星らにまぎれんか輝く空の生贄として/寺山修司『寺山修司青春歌集』

 

この文章を書いた人

 

toron*

大阪府豊中市出身。塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。新鋭短歌シリーズより第一歌集『イマジナシオン』。

自選短歌

海の日の一万年後は海の日と未来を信じ続けるiPhone

 

今回紹介した短歌の本

 

「本ッ当に好きな短歌の本 教えてください」バックナンバー

第1回 榊原紘さん編

第2回 谷じゃこさん編

第3回 藤宮若菜さん編

第4回 虫武一俊さん編

第5回 志賀玲太さん編

第6回 武田ひかさん編

第7回 岡本真帆さん編

第8回 ショージサキさん編

第9回 鈴木晴香さん編

第10回 多賀盛剛さん編

第11回 永井駿さん編

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