新年あけましておめでとうございます!
2020年の元日には、TANKANESSライターによる「ちょっと短歌が気になってきた方に読んでほしい本」をご紹介しました。
今年はTANKANESSライターの皆さまに「2020年に読んだおすすめ短歌本」をお聞きしました。歌集や短歌入門書、短歌エッセイなどのジャンルは問わず、同人誌も含めたすべての短歌に関する本の中で、ライターたちのおすすめをご紹介します。
今年は短歌の本を読んでみたいな〜と思っている方はぜひ参考にしてみてください!
TANKANESSライターによる「2020年に読んだおすすめ短歌本」
のにしさんおすすめ本『短歌の詰め合わせ』東直子 著
のにし
気の向くままに歌会やイベントに出没しています。趣味は古本屋巡り。詰まった本棚を見ると、ときめきます。
Twitter @no_nonishi
自選短歌
心には大きな鳥が飛んでいて横切るたびに木々がざわめく
クッキー缶の蓋を開けた時のような表紙がかわいくて、思わず手に取りました。
詰め合わせというタイトルにも心惹かれました。コンピレーションとかオムニバスとか色んなアーティストがぎゅっと一つになっている媒体がお得感があって大好きなのです。
簡単に内容を紹介すると、身近な八つのテーマ(食べ物など)に沿った短歌の紹介と読みどころ・穴埋めクイズ・歴史・コラムなどなど…初めて短歌に触れる人に向けて作られているようです。
紹介されている短歌には、若井麻奈美さんのかわいらしいイラストがそっと寄り添っています。このイラストがまた短歌に深みを与えているように優しい。
この本は短歌の入り口になり、短歌を知る人にとってはさらに短歌の世界の広さ感じる、そんな一冊だと思います。
何から読んだらいいか悩んでいる人、もっと色んな短歌を知りたい人におすすめです。
あなたのお気に入りの短歌がきっと見つかるはずです。
なべとびすこさんおすすめ本『天才による凡人のための短歌教室』木下龍也 著
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
通販 鍋ラボ公式通販
自選短歌
ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない
『天才による凡人のための短歌教室』木下龍也 著(ナナロク社)
短歌の入門書は世の中にたくさんあります。私も短歌を始めた頃に入門書を数冊読みました。短歌を始めてからもスランプになるたび入門書を読んでいて、今年は4冊読みました。
そのなかで2020年秋に発売されたばかりのこの本は、これから短歌を始める人、すでに短歌を詠んでいるけどもっと上手くなりたい人にもオススメです。
目次を見ただけでもわかりますが、何をするべきかが明確な点が魅力です。第2章の「定型を守れ。」「助詞を抜くな。」などは、歌会などで指摘されることもあるかもしれません。それぞれ「なぜそうしなければいけないのか」明確な理由が述べられているので参考になります。
いろいろなアドバイスもありますが、上達するためには「たくさん短歌をつくること」が必要だと分かってきます。「たくさんつくれ。」の項には、たくさんつくる方法も書かれているので安心してください。
私たちはどうしても「才能」や「センス」という形のないものに惑わされてしまいます。そんなとき、この本は正しく努力するためのガイドになると思います。
また、第1章のおすすめの歌集リストも役に立つと思います。短歌を始めたけどまだ歌集を買った(読んだ)ことがない人は参考にしてみてください。
橋爪志保さんおすすめ本『文鳥』よしおかえり 著
橋爪志保
2013年に作歌を始める。京大短歌を経て、現在は同人誌「羽根と根」所属。第二回笹井宏之賞にて永井祐賞受賞。2021年4月に第一歌集『地上絵』上梓。Twitter @rita_hassy47
note https://note.mu/ooeai
通販 https://hassytankashop.booth.pm/
自選短歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
『文鳥』よしおかえり
*この本はすでに完売しています。
作者のよしおかさんはネットプリントを出されたりツイッターで短歌を発表されたりなどしていらっしゃいますので、Twitterアカウント(@bunchobookshelf)のほうをぜひご確認ください。
歯磨きを見に来てくれる鳥がいてお伽話に日常が勝つ
今回ご紹介するのは、シルバー文鳥の「久蔵」と暮らしている著者のよしおかえりさんが、文鳥との日々の暮らしを短歌にし、それを一冊にまとめた同人誌『文鳥』です。上記の歌は、自分が歯磨きをしていたら、飼っている鳥がそばまで近づいてきたのでしょう。「見に来てくれ」たとすることで、鳥への愛が存分に込められていますし、下の句の力あるフレーズはなんとも魅力的です。
肩にいるきみをよろめかせてしまう 思いがけない笑いの中で
臨場感のある一首です。「笑い」という人間にとってはささやかな動作にも、小さい鳥は「よろめ」いてしまう。けれど、その小さな命に思いをはせるひと時は、とても大切なものに思えるのです。
夜というおやすみカバーに覆われて、ひとりまたひとり眠りゆく街
おやすみカバーというのは、文鳥が寝るときに鳥籠にかける布のようなものと想像します。鳥という生き物を通して世界の見方が少し変わる瞬間を、見届けたような気がします。
自分のすきな対象をとことん見つめて楽しく短歌にするという姿勢、すきな対象を通して世界を捉えなおす姿勢が、この本からはひしひしと伝わってきます。癒しだけでなく、学ぶところの多い本ではないかと思います。
高下龍司さんおすすめ本『クリーン・ナップ・クラブ』谷じゃこ 著
高下 龍司(koge)
「まあいっか」「わかっちゃいるけどやめられない」「他力本願」を心のクリーンナップに据える会社員。隙あらばアルコールを摂取するので基本電車か徒歩移動。
Twitter @kooooge
自選短歌
エアコンとコンニャクのコンいっしょかないっしょじゃないかないっしょじゃないな
たとえば短歌に対して「楽しい、感動する、かっこいい、おもしろい」みたいな種類があって、どれかひとつ選べと言われれば私は「おもしろい」を選びます。
この本を開くとまさに一首一首「おもしろい!」と声に出したくなるのですが、それと同時に「この短歌は自分が詠みたかったけど、こんな表現や言葉選びは自分では到底思いつかないな」とくやしい気持ちが湧いてきます。ベクトルは同じ方を向いているのに、谷じゃこさんははるか向こうで点になっているのです。
犬のこと、猫のこと、鯖のこと、野球のこと、たんぽぽのこと、なるほど好きだからこそそういう視点で詠めるのだなと、あとがきを読んで思いました。
話すような関西弁も特長で、まあ私が関西人ということもあるのですが、とても雰囲気や居心地がいい空間になっています。
で、ごちゃごちゃ書いたなと思いながら今歌集を読み返したんですが、ちょっとまちがってましたね。
最初に「おもしろい」って書きましたが、いちばんしっくりくる感情は「うれしい」でした。今読み終えてうれしくなりましたから。
ということで、この歌集はうれしくなりたい方におすすめです。よろしくお願いします。
篠田くらげさんおすすめ本『しょんぼり百人一首』天野慶 著
篠田くらげ
2007年、偶然聞いたラジオ番組をきっかけに短歌を始める。「未来短歌会」所属。「アポロ短歌堂」「嶌田井書店」メンバー。普段は短歌を詠んだり、書評を書いたり、文学フリマに出たりしています。
Twitter @samayoikurage
自選短歌
縞馬は沈む夕日に気づかない待っているからポストに入れて
『しょんぼり百人一首〜それでも愛おしい歌人たち〜』文:天野慶 絵:イケウチリリー
明けましておめでとうございます。新年ということで新しい趣味を始めようかなとお考えの方も多いかと思います。ここを読んでくださっている方は「ちょっと短歌おもしろいかも?」と思ってくださっているのではないでしょうか。
そんな方に、天野慶さんの『しょんぼり百人一首~それでも愛おしい歌人たち~』(幻冬舎)をおすすめします。歌人の天野慶さんが、百人一首の歌を詠んだ歌人たちの「しょんぼり」エピソードを紹介しています。
平安時代の歌人というと優雅に景色を眺めながら短冊に筆で短歌を書く……というイメージになってしまうのですが、仕事の失敗、失恋、人間関係の悩みなどは現代と同じなんですよね。
この本の一番いいところは「歌人を教科書の偉人としてではなく人間として扱っている」ところだと思います。それから「こういうことされたらしょんぼりするよね」「これはせっかくの気持ちだとしても嬉しくないよね」のような、天野さんの思い入れがたくさん語られているのも魅力的です。読めば百人一首の世界、そして短歌の世界が親しく感じられること間違いなしです。
ぜひお手に取ってみてください!
*TANKANESSの連載「しょんぼり百人一首」書籍化の際、天野慶さんにインタビューを行った記事はこちら
貝澤駿一さんおすすめ本『石川啄木』ドナルド・キーン 著
貝澤駿一
1992年横浜市生まれ。「かりん」「gekoの会」所属。2010年第5回全国高校生短歌大会(短歌甲子園)出場。2015年、2016年NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)。2019年第39回かりん賞受賞。
Twitter@y_xy11
note:https://note.com/yushun0905
自選短歌
まっさらなノート ピリオド そこにいるすべての走り出さないメロス
TANKANESSで啄木について書こう!と思ったとき、まっさきに思い浮かんだのがこの本でした。
稀代の日本文学研究者が最後に残した啄木研究は、単なる一歌人の文学的足跡を追うだけにとどまらず、啄木の生きた明治後期という時代をも映し出す、すぐれた近代日本研究でもあると思います。その人物の研究が、その人物の生きた時代の研究にもなるという文学者は、たとえば世紀末のヴィクトリア朝を駆け抜けた文豪オスカー・ワイルドなどが代表格ですが、啄木はそれに匹敵する人物だということですね(ちなみに啄木はワイルドをよく読んでいたといわれています)。
近代自体には苦手意識のあった僕も、啄木を中心に考えることで時間軸や縦横の関係などが整理できるようになりました。
何よりも、この本がきっかけで「教科書に載っている歌人の作品を読んでみよう!」の記事を書き、それにたくさんの反応をいただけたことが、自分にとってはとても大きなことでした。
近代短歌に興味がある人や、近代短歌の勉強をしてみたいけど何から始めたらいいかわからないという人は、まずはこの本で啄木から始めてみるといいのではないでしょうか。
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以上です!
気になる本があれば、ぜひ書店等でチェックしてみてください!
それでは、2021年も短歌を楽しんでいきましょう!今年もTANKANESSをよろしくお願いします!