TANKANESSライターによる「2021年に読んだおすすめ短歌本」

コラム

新年あけましておめでとうございます!

昨年の元日には、TANKANESSライターの皆さまに「2020年に読んだおすすめ短歌本」をお聞きしました。
そして今年も歌集や短歌入門書、短歌エッセイなどのジャンルは問わず、同人誌も含めたすべての短歌に関する本の中で、ライターたちのおすすめをご紹介します。(「2021年に読んだ」だけで発売日は関係ありません。)

*2020年の元日にはTANKANESSライターによる「ちょっと短歌が気になってきた方に読んでほしい本」をご紹介しました。

今年は短歌の本を読んでみたいな〜と思っている方はぜひ参考にしてみてください!

 

TANKANESSライターによる「2021年に読んだおすすめ短歌本」

牛隆佑さんおすすめ本『音楽』岡野大嗣 著

牛隆佑

1981年生まれ。空き家歌会管理人。フクロウ会議メンバー。

これまでの活動はこちら

Twitter:@ushiryu31
blog:消燈グレゴリー その三

自選短歌

朝焼けは夜明けを殺しながら来る魚を食らう魚のように

『音楽』岡野大嗣(ナナロク社)

ひとりごとのような短歌だなあ(そもそも短歌にはひとりごとの要素が多分にあるのだけれど)、『音楽』の短歌は特にそう思いました。ひとりごとを読めることを不思議に感じながら、「あかるくひろがってゆくひとりごと」というフレーズが浮かびました。

筆者第一歌集『サイレンと犀』(書肆侃侃房)には、もっと鋭利な社会批評の感性があったし、第二歌集『たやすみなさい』(書肆侃侃房)には、ポップとエンパシーの追求の面に、つい目がいきました。
けれども、第一歌集から、というよりもそれよりももっと以前から、作者が志向していたのは、この歌集の短歌だったのではないかと思わされます。短歌的なレトリックに依拠しない、他とは比べられない唯一の短歌を、この作者は手に入れたように感じます。

ときどきいろいろなところで、「岡野大嗣の短歌が広く受け入れられているのは、その分かりやすさのみが理由ではないんですよ」と言ってきましたが、『音楽』はいよいよそのすごさがはっきりと見えるようになる歌集なのではないかと思います。

 

のにしさんおすすめ本『たやすみなさい』岡野大嗣 著

のにし

気の向くままに歌会やイベントに出没しています。趣味は古本屋巡り。詰まった本棚を見ると、ときめきます。

Twitter @no_nonishi

自選短歌

心には大きな鳥が飛んでいて横切るたびに木々がざわめく

『たやすみなさい』岡野大嗣(書肆侃侃房)

 

まず、装丁のきらきらホログラムで思わず手に取りました。

『たやすみなさい』。知らない日本語だなあと言うのが第一印象でした。「容易い」を内包しているからかちょっと引っかかる。でもほとんどが「おやすみなさい」だから優しい祈りの様にも感じる。なんなんだろう、『たやすみなさい』。その意味は意外とすぐ見つけることができます。ぜひページをめくってみてください。

この歌集は、ぎゅっと閉じ込めた“その瞬間“がシャボン玉のように目の前で弾けて、まるでそこに居たような感覚になる、ライド・アトラクションに乗っている気分に似ています。

タワレコのやわい袋に押し込んで地元のパンをきみに持たせる/岡野大嗣

実体験はないけど、タワレコの袋の頼りないところとか地元のパンのかたちとかを私は知っている。だからいびつなかたちに膨れたタワレコの袋を渡している気分になってしまう。

追体験やノスタルジーというような言葉で済ましてしまうのがもったいない、なんだか記憶の引き出しの隅を突かれているようなこそばゆいような感覚です。少し不思議な短歌体験、いかがでしょうか?

 

丹花ヨムさんおすすめ本『恋人不死身説』  谷川電話 著

丹花ヨム

2020年に作歌をはじめる。2021年Twitter短歌クラスタの存在に気づき歌会へ出るようになる。短歌ユニット「八朔」。

Twitter: @yom_tanka

 

自選短歌

霧雨がさやさやと降るさむい朝ウルトラライトダウンがぬくい

『恋人不死身説』谷川電話(書肆侃侃房)

 

短歌をつくる勇気と元気が湧いてくる歌集です。

なんとなくきみの抜け毛を保存するなんとなくただなんとなくだけど/谷川電話

わたしが<きみ>なら、わたしの抜け毛はわたしのものだから勝手に取得しないでください、と言いたくなります。しかも、髪の毛ってうっすら気持ち悪いじゃないですか。

髪の毛が遺伝子情報載せたまま湯船の穴に吸われて消える/谷川電話

湯船に浮いた髪の毛がお湯を抜く際に排水口へ入っていくだけなのに、重たい発見があります。遺伝子情報が掲載されている、つまり髪の毛って本人なのです。それを取得して保存してしまうことを偏愛と呼ばずしてなんと言うのでしょう。

 

二種類の唾液が溶けたエビアンのペットボトルが朝日を通す/谷川電話

ミネラルウォーターを<きみ>と回し飲みをしたのでしょう。回し飲みをしたことを「間接キスをした」とはしゃがれても困りますが、「唾液が溶けた」と表現されると心に迫ってくるものがあります。

このように<きみ>が大好きなあまり執着を全開にした歌が掲載された歌集です。わたしはこの歌集を読んで、自分の持つシガラミとパートナーへの執着を表現していこうと決意しました。
新年に作歌への熱意を燃やす燃料になる歌集です。

 

なべとびすこさんおすすめ本『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』 瀬戸夏子 著

なべとびすこ(鍋ラボ)

TANKANESS編集長。短歌のワークショップをやったりボードゲームを作ったりしています。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」制作者。

Twitter @nabelab00

note https://note.mu/nabetobisco

通販  鍋ラボ公式通販

自選短歌

ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない

『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』瀬戸夏子(左右社)

 

私は短歌を詠み始めてわりとすぐ、2冊好きな歌集に出会うことができました。(『サイレンと犀』岡野大嗣(書肆侃侃房)『つむじ風、ここにあります』木下龍也(書肆侃侃房)
好きな歌集ができたことは短歌を作る大きなモチベーションになりました。しかし、誰もがいきなり好きな歌集に出会えるわけではないと思います。この本は、好きな歌集に出会うための道しるべになるでしょう。

この本はただのブックガイドではなく、2000年から2020年までに出版された歌集が「ここ20年の短歌の流れ」を踏まえて紹介されています。
私が短歌を始めたのは2014年。つまり、それより前の歌集は、歌集として読んだものはあっても当時の流れや評価はよく知りませんでした。そのため、この本を読んで、「自分の短歌はこの作者の影響を受けていたんだ!」「今は当たり前のこの手法ってこの人が先駆者だったんだ!」という気づきがたくさんありました。長い短歌の歴史の中でたった20年とはいえ、いろんな流れがそこにはあったんだと思います。

これから歌集を読み始めたい人はもちろん、ここ数年で短歌を始めて、歌集もそこそこ読んでいるけど昔の流れは知らない、という方もぜひ読んでほしいです。

 

貝澤駿一さんおすすめ本『岩田正の歌』 著

貝澤駿一

1992年横浜市生まれ。「かりん」「gekoの会」所属。2010年第5回全国高校生短歌大会(短歌甲子園)出場。2015年、2016年NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)。2019年第39回かりん賞受賞。

Twitter@y_xy11

note:https://note.com/yushun0905

自選短歌

まっさらなノート ピリオド そこにいるすべての走り出さないメロス

『岩田正の歌』田村広志(ながらみ書房)

 

2017年に93歳で亡くなった歌人・岩田正は、妻である馬場あき子と共に「かりん」を創刊し、迢空賞(2006年)、現代短歌大賞(2011年)などの受賞歴のある、名実ともに日本を代表する歌人の一人です。

本書では、そんな岩田の文学の真髄を、テーマ別に読み解きていきます。
弟子として傍で岩田の仕事を見てきた著者によるプライベートな部分の解説もあり、とても充実した内容になっています。

岩田正は、現在、若い世代の歌人にはあまり読まれていません。
93歳という年齢だけを聞くと、まるで大昔の歌人のように聞こえますが、実は岩田には作歌を中断し、しばらくのあいだ評論だけを書いていた時期があります。1992年に歌集『郷心譜』でおよそ30年ぶりの復活を遂げてから、遺歌集となった『柿生坂』まで、岩田の歌集はすべて平成の間に編まれたものです。

岩田は決して過去の歌人ではなく、わたしたちと同じ時代を生き、時代を見つめ続けてきた、同時代の歌人だと言えるのです。

基地反対せぬ愛国もあるといふかかる愛国わが辞書になし/岩田正『背後の川』

このシンプルな歌は、自らの信念を貫き通して歌う岩田正という人物の、もっとも強い部分を示していると思います。当たり前に思われていた社会の価値観が反転するこの時代に、わたしたちは何を歌わなければならないのか、それが問い直されているのです。

 

 

まとめ

以上です!

過去の記事も含めて、気になる本があればぜひ書店等でチェックしてみてください!

2022年も短歌を楽しみましょう。今年もTANKANESSをよろしくお願いします!

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