新年あけましておめでとうございます!
毎年元日には、TANKANESSライターの皆さまに前年に読んだ短歌に関するおすすめの本をお聞きしています。
今年も歌集や短歌入門書、短歌エッセイなどのジャンルは問わず、同人誌も含めた短歌に関する本の中から、ライターのおすすめの書籍をご紹介します。(「2022年に読んだ」だけで発売日は関係ありません。)
*これまでのおすすめ本企画
2020年:TANKANESSライターによる「ちょっと短歌が気になってきた方に読んでほしい本」
2021年:TANKANESSライターによる「2020年に読んだおすすめ短歌本」
2022年:TANKANESSライターによる「2021年に読んだおすすめ短歌本」
短歌の本を読んでみたい方はぜひ参考にしてみてください!
TANKANESSライターによる「2022年に読んだおすすめ短歌本」
貝澤駿一さんおすすめ本『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』枡野浩一 著
貝澤駿一
1992年横浜市生まれ。「かりん」「gekoの会」所属。2010年第5回全国高校生短歌大会(短歌甲子園)出場。2015年、2016年NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)。2019年第39回かりん賞受賞。
Twitter@y_xy11
note:https://note.com/yushun0905
自選短歌
まっさらなノート ピリオド そこにいるすべての走り出さないメロス
『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』枡野浩一
書籍のタイトルが著者の代表作、しかも、「全短歌集」と銘打っているのに収録されているのはたった355首。いかにも枡野さんらしいなと思いながら、このような形で枡野浩一という歌人の作品を読めるということに、大きな喜びを感じました。
枡野さんの作品には温かみと普遍性があり、誰の心にも届くものです。そして、こうした短歌を生み出すことは簡単そうに見えて、自分ではなかなかできないことだという実感があります。
色恋の成就しなさにくらべれば 仕事は終わる やりさえすれば
「がっかり」は期待しているときにだけ出てくる希望まみれの言葉
ロシア語教師の黒田龍之助さんは、酔っぱらって記憶を失っても話せる外国語は、生涯ロシア語だけだと言っています。僕が記憶を失っても、心にしっかりと刻まれている枡野浩一の短歌だけは口ずさむことができるかもしれません。
杉田抱僕さんおすすめ本『今日は誰にも愛されたかった』谷川俊太郎、岡野大嗣、木下龍也 著
杉田抱僕
短歌と読書と好きなものを布教することが好き。推し歌集は『しんくわ』(しんくわ/書肆侃侃房)です。この歌集を読んで短歌が面白いと全人類に気づいてほしい。
Twitter @hoboku_57577
自選短歌
日焼け痕一つもなくてペンギンに遠い体で秋を迎える 『ぺんぎん暮らし』
『今日は誰にも愛されたかった』谷川俊太郎、岡野大嗣、木下龍也
『今日は誰にも愛されたかった』は、詩人の谷川俊太郎さんと、歌人の岡野大嗣さん・木下龍也さんの三人による連詩「今日は誰にも愛されたかった」を中心とした一冊です。連詩とは〈五七五または七七の詩句を連ねる古典の「連歌」「連句」の流れを汲ん〉だ詩の形式とのことで、ここでは短歌と詩が交互に連ねられています。
短歌も詩も散文とは読むときのピントの合わせ方が違うと感じますが、短歌と詩にも差があるんだな、と初めて気づきました。だから短歌と詩とが交互に現れると遠近感がちっともつかめなくて、しかもその酩酊感にうっとりわくわくしてしまうのです。狂った遠近感は“意味”とか“分かる”をぼやけさせますが、むしろいろいろなイメージはぼやけた風景の向こうに無限に広がっていくようで、それを堪能していたらあっという間に読み終えていました。
短歌や詩って難しそうだなという人も安心してください。この“分からない”は、怖いどころかこんなにも豊かで愉快です。それでもどうしても不安なら、巻末には作者たちによる感想戦が収録されています。が、自分はそれを読めていないことをお断りしておきます。この“分からなさ”にもう少し浸っていたくって。
小田切拓さんおすすめ本『ここからはじめる短歌入門』坂井修一 著
小田切拓
92年生まれ。「かりん」所属。18歳の時、手に取った雑誌で短歌投稿コーナーを見つけ、歌を詠み始め楽しさを知る。友人が引くほどのサッカーオタク。第29回現代学生百人一首入選。第42回かりん賞受賞。第66・67・68回角川短歌賞予選通過。
Twitter:@rKGlC6f6HEUiU2r
note:https://note.com/takuan12/
自選短歌
落ち込んで「辛い」とぼやく僕の手を祖父が黙ってギュッと握った
短歌の「入門書」を手に取りたいと思う時、あなたはその本に何を求めますか? きっと様々なことがあると思います。 しかし、何を置いても必要なのは「役に立つこと」と「心構え」の二つが明確に書かれていることだと思います。 そうした視点から見ると、本書の構成は非常に潔いと言えるでしょう。
前半には「生きることは歌うこと」と「短歌の技法」という二つの章があります。テーマに沿って、鑑賞やテクニックを和歌から現代短歌を使って読み解く「役に立つ」内容です。そしてその中で語られる著者の短歌との向き合い方が奥行きを生みます。
そして「間奏」を挟み、後半に「短歌を作り続ける」「二十一世紀の若者のために」の二章があります。 中でも心に響いたのは、「実生活と短歌」という項目。社会生活で歌詠みが困難な際は無理に両立せずとも、 〈生業が一段落したり、人生に余裕ができたりして、歌を作れる状態になったらまた復活すればいい〉 とエールを送ります。
刊行時(2010年)から既に大学教授と二足の草鞋を履いている著者の書く入門書は、忙しなく孤独な時代に生きる人々にとって、実用的かつ心を預けられる本です。その効果は、生きづらいと言われる現代においてより増しているように思えます。
なべとびすこさんおすすめ本『老人ホームで死ぬほどモテたい』上坂あゆ美 著
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
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自選短歌
ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない
2022年「一番HIPHOP」と思った歌集です。私は常々「短歌はHIPHOPでHIPHOPは短歌」と言っては周囲の歌人から「はいはい」という顔をされてきましたが、この歌集で「ほら!短歌はHIPHOPでしょ!」と思いました(そして実際に大きな声で言いました)。
HIPHOPで高く評価されている曲は、一曲だけで「その人の人生がわかったような気になる」ものだと思います。この歌集はまさにそうでした。それは、親や地元の空気感など作者のルーツがリアルに描かれているからだと思います。
子どもの頃の体験から、現在までの作者の人生の一部を追体験するように読める歌集です。
母は鳥 姉には獅子と羽根がありわたしは刺青がないという刺青
計三回婚姻履歴があるとされ前後の二人をわたしは知らない
無駄のない言葉選びとユーモアセンスで、一首単体でもパンチのある短歌がたくさんあります。私も最初はTwitterで一首単位で作者の短歌に触れていましたが、歌集という形でまとめて読むことができてよかったと思いました。
学生時代力をいれて生きてきた 生きていくんだたくさんの夜
丹花ヨムさんおすすめ本『春の幾何学』武藤義哉 著
丹花ヨム
2020年に作歌をはじめる。2021年Twitter短歌クラスタの存在に気づき歌会へ出るようになる。短歌ユニット「八朔」。
自選短歌
霧雨がさやさやと降るさむい朝ウルトラライトダウンがぬくい
短歌界は10代〜20代が注目されがちで、最近ではその若い人たちが歌集を発表しています。もちろん大人になってから作歌を始め、何十年も経ってから歌集を出す人もいて、 武藤義哉さんもその一人です。武藤義哉さんは社会人になってから作歌を始め、2022年に刊行された武藤さんの歌集「春の幾何学」は作歌を始めて20年余経っての第一歌集となります。
この歌集の収録歌は大きく分けて3つに分類されると思いました。
1.日常の歌
体育祭放送係が放送で流してしまった「お兄ちゃん勝った。」
2.家族の歌
生涯で初めてのこと ピーちゃんは身を横たえて一夜を眠る
3.世界の見方の歌
背後とは私を包む外界の優しい方の半分なのだ
このお歌は歌集の冒頭に掲載されています。この歌集の歌はすべて「優しい方の半分」なのです。
牛隆佑さんおすすめ本『ふりょの星』暮田真名 著
牛隆佑
1981年生まれ。フクロウ会議メンバー。
これまでの活動はこちら。
Twitter:@ushiryu31
blog:消燈グレゴリー その三
自選短歌
朝焼けは夜明けを殺しながら来る魚を食らう魚のように
まずは川柳句集として、一冊の文学の本としておもしろい。言葉を火薬にして世界を大胆にスクラップ&ビルドするような爆発力があります。
けれども、「おすすめ短歌本」としてこの句集を紹介する理由は「あとがき」にあります。 あとがきの〈川柳は私から何も聞き出そうとしません。〉からはじまる一節です。短歌をする私には、「川柳は(短歌とは違って)私から」と書いているようにどうしても思えてきます。
私たちは短歌を、ジェンダー、所属、人生、思想、価値観、系譜、美意識、によって読み解こうとしがちです。なぜなら、そうすれば言葉に安心できるから。また、しばしばそれらを土台にして短歌を作ります。なぜなら、短歌が安定するからです。 でも、もしかしたら短歌の言葉はもっと不安で不安定で良いのかもしれません。少なくとも、不安定であることの心地よさはかならずあります。そのことを短歌にも教えてくれる一冊なのではないでしょうか。
音がないところもあるが友達だ
のにしさんおすすめ本『五月病短歌集 再び会う』五月病 著
のにし
気の向くままに歌会やイベントに出没しています。趣味は古本屋巡り。詰まった本棚を見ると、ときめきます。
Twitter @no_nonishi
自選短歌
心には大きな鳥が飛んでいて横切るたびに木々がざわめく
『五月病短歌集 再び会う』五月病
(※私家版歌集。作者様のminneのショップに在庫がある場合はそちらから購入可能です。
はじめに、この歌集と出会った時のことを少し。 作歌のペースとモチベーションが落ち続けて1年ほど経ち、歌集を読んでは「歌いたかったことまさにこれだ」みたいな歌にいい意味でのボディーブローを受け、若干のスランプ状態でした。
そんな時に、いつもお世話になっている芦屋の風文庫さんで出会ったのがこの『再び会う』でした。 手のひらに収まるサイズ(縦横それぞれ10センチ未満)、静かなデザイン。連れて帰りたい…と一気に心を掴まれました。
雨上がりクレーンの首の伸びる午後欠伸ひとつが町にころがる
どの夜が一番好きか考えるプレイリストはいくつもの夜
季節や日常の過ぎ去ってしまう瞬間を切り取ったような歌たち。作者さんのアルバムを見せてもらっているような気持ちになりました。風景が浮かびます。 それでいて、誰かに宛てた手紙のような、ひとりごとのような。 時折ふと読み返したくなる、小さなお守りのような歌集です。
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以上です!
気になる本があれば、ぜひ書店等でチェックしてみてください!
それでは、2023年も短歌を楽しんでいきましょう!
昨年は半年間おやすみしてしまったTANKANESSですが、改めてよろしくお願いします!