「散歩をして町の見えているのに見えていないところを見るのが路上観察で、それを短歌や俳句にすればたちまち吟行となる」町中 歩(1875-1941)
という名言があるように、散歩(路上観察)と短歌(吟行)の親和性は高い。
そして私は当サイトに加え、サンポーという散歩に特化したサイトでも記事を書かせてもらっている。なんという偶然!それってコラボとかしたらいい感じちゃうのん?チョベリグ~!みたいな勢いで話が進み、このたび「散歩のサンポー」×「短歌のTANKANESS」のコラボレーションが実現した。
具体的にいうと「散歩して短歌を作った」ことをそれぞれのライターがそれぞれのサイトで記事にするのだ。
同じ素材で記事を書くのってどうしても比較されるんじゃないのかと不安を抱きながら当日を迎えた。
ちなみに冒頭の名言は私が2秒で考えたやつなので、よそで言わないように。
全員が今まで降りたことのない駅へ
タンカネスからはなべとびすこ、多賀盛剛、サンポーからはくーりー、そしてわたくし高下が参加することとなった。敬称は略。写真は雑。
吟行ということは最終的に短歌を詠まなければならないのだが、念のために言っておくとタンカネスの2人は言わずもがなバッチバチのタンカラーであり、サンポー側はズッブズブの素人である。
「初心者」という隠れ蓑をまとって、いざ行かん!
ということで2019年6月15日午後12時、一行はJR大阪駅に集結した。
ただ、前日の時点で天気予報は降水確率90%の雷雨。
メンバーの日ごろの行いの悪さがあからさまに出るかっこうになったのだが、集合時はなんとか雨が降っておらず、私が毎日積んでいる徳のおかけだなとひとりニヤニヤした次第である。
さて、どこで吟行するかであるが、「全員が今まで降りたことのない駅」で決定した。
結果、大阪メトロ今里筋線(オレンジ色の線)を攻めることになった。
大阪メトロ内ではいちばん新しい路線(2006年に開業)であり、沿線に住んでいないとなかなか乗る機会がない。
まず目指すは太子橋今市駅。 ここから終点の井高野駅までなにがあるか、どんな町なのか誰ひとりとして見当がつかない。
意気揚々と地下鉄・東梅田駅へ向かう。
1日に地下鉄で何度も移動する人のために…
エンジョイエコカードというものがある。
600円で地下鉄にくわえ、市バスも乗り放題というUSJの年間パスの1日版みたいなカードである。
なんかうまいこと言った風だが、年間パスの1日版って普通のスタジオ・パスだな。
東梅田から太子橋今市を目指す。 どちらの扉が開くかの表記が太鼓の達人みたいだドン。
「のえ、うちんだい!」みたいなアニメありそう。
対象がはてしなくニッチ。
太子橋今市散歩
目的の「太子橋今市」に到着。
ひらがなで書くとdisってる感が出るな。いまいちって。
いや、disってないっすよ。
路線図を見渡すと、長年大阪に住んでいても降りたことのないどころか通過すらしたことのない駅の多さにわなわなする。
すげぇ怒り肩。
「降りたことのない駅」だけあって、降りる人もわずか。 あえて選んだのに期待より不安が多いのはなぜ?
出口の案内ってもっと施設名とかランドマーク的なこと書いてなかったっけ。
なかったっけ??
熟考の末、5号出口から地上へ。
すごくいい天気!
…って、おい! 降水確率90%の雷雨じゃなかったのか。
日ごろの行い良すぎかよ。
せっかく長靴で来たのに。 足が蒸れる確率100%だ。
仏壇屋さんってこういう仏像置きがちだけど、どこかに目が光ったり口からスモーク吐いたりするのってないかな。
神殿って聞いたらパルテノン神殿とかダーマの神殿しか思いつかないんだけど、売ってるの? いつか起業して社屋を建てる時には神殿がいいな。
多角経営。
外国人観光客に「東京タワー」って言ったら信じるかな。
売上によって順位が変動する看板。古本市場がんばれ。
今里筋線側の出口がめちゃくちゃ目立つ。 逆にほかの地下鉄の駅の入口ってなんであんなに地味なんだろう。
東京タワーのふもとまで来た。
東京タワーじゃなかった。
もうゴミ捨て場にしちゃえば?
その横にはガードレールを飲み込む植栽が。
こちらは無になる直前の案内板。
絢香とコブクロが歌ってた道ってこれ?
看板が引っこ抜かれて、ささってた穴まで埋められていた。 親の仇だ。まちをきれいにした奴にやられたんだ。
「省力化」「オートメーション」と微妙に聞きなれない言葉が。とりあえず無駄を排除して省エネみたいなことか。
「銭湯だ」「いや工場だ」と殴り合いのけんかになった。
銭湯チームの勝利。工場チームはここで脱落~。
台凡のためなら仕方ない。
オレンジと黒ってさっきの今里筋線の配色といっしょだ。
え、これも?
窓の間隔がちょっと広すぎた。
Pの矢印が上向いてるのおもしろいかなと思って撮ったけど、後で見返したらその横の排水管のカラーリングのほうがすごかった。もう矢印とかどうでもいい。
とりあえず駅周辺をひと回りしたので、次の駅に向かう。
けっこう深いな。
町中歩さんの名言でも載せようかな。
さらに階段が。ちょっとしたダンジョンかよ。
三角定規みたいなヒザ。
かけこみ乗車は危険です(ささるから)。
次は二駅先の「瑞光四丁目」に向かうことに。
駅構内図あったけど、やっぱりダンジョンじゃん。
こことか時空歪んでない? エッシャー作?
瑞光四丁目散歩
あっという間に瑞光四丁目に到着。
ここの駅構内図は常識の範囲内。
しかし出口の案内はやはり参考にならない。
そしてどちらから出ても大阪経済大学にたどり着く。
ほんとこの出入口の存在感がはんぱないな。
お弁当屋さんのいいフォント。
首のところから顔を出すタイプ。
店主はキリンジのファンなのかな。
もちろん顔はハメる。
ちょっと狂気を感じる周辺地図。
街全体がエマージェンシーだ。
老若男女問わず「トシちゃん」といえば田原俊彦一択ですな。
どの出口から出てもたどり着くことでおなじみの大阪経済大学にもたどり着いた。
これで自転車と認識できるのすごい。
ここらへんで休憩も兼ねてカッフェに入り、とりあえず現時点での情報をまとめる。
自分だけクリームソーダを注文してしまい、バンドでフロントマンじゃないのに目立つメンバーみたいになった。
スピッツでいうと三輪テツヤであり、SEKAI NO OWARIならDJ LOVE。
さらに軽く食べとうと思ったサンドウィッチが予想以上にお得なボリュームだった。お腹いっぱい。
ざっくりまとめて、また歩き出す。
店に入る前と後で世界が変わったんじゃないかってくらい強い風が吹いていた。
あばれる髪の毛。
カツラじゃなくてよかった。
せっかくなんで風の強さを動画でどうぞ。
なんかいい感じの枝と石。
一瞬、SNOOPYかなと思ったろ?
素晴らしきかなタイポグラフィ。 瑞光四丁目さんぽはここで終え、次の駅を目指す。
中吊り広告がない電車ってめずらしくない?
ラスト、井高野散歩
先のふた駅よりも人がいない。というか人の気配がない。普通の終点ではなく、世界の終点のような感じがする。
井高野のはしっこは底の見えない崖とか滝になってるかもしれんな。(井高野に住んでる人、ごめん)
反対側の今里~蒲生四丁目あたりはまだなじみがあるんだけど。
ダンジョン度は低め。
やはり出口の案内は○丁目ばかり。
こうやって見たら、やっぱりダンジョンなんじゃないか。
もうこのカラーリングに目が慣れてきた。
駅を出たらすごく不穏な空模様になった。
遠くから見るとエアホッケーのゴールみたいだな。車とか吸い込まれそう。
植物に擬態するモンスター。近づいたらエンカウントするやつだ。
○の透かしブロック。
×の透かしブロック。 なにかの伏線だろうか。
直後に暗雲が立ちこめ、またたく間に豪雨となった。 だが、ちょうど来たバスに飛び乗り紙一重で難を逃れた。軽めのインディ・ジョーンズかよ。
実はこのまま西中島南方まで行こうと話していたのに、ウトウトしていたら終点の大阪駅に着いていた。
まあ本当は雷雨の予報だったけどもよ。
雨の中に見たトミーの長音符が浅草のうんこみたいだった。
大阪駅に着くと雨はあがっていた。今日はついてるな。
ここで店に入って短歌をつくってもよかったが、せっかくなので中崎町にある歌集・句集・詩集に特化した本屋さん「葉ね文庫」に寄ることに。
昼間と同じルートで東梅田駅を目指す。 バスで寝て起きたらまた数時間前と同じ道を歩いてるってデジャヴ感がすごい。
ひと駅乗れば中崎町。
通路のタイルがかわいい。
「もうゴールだな」という感じだが、まだ吟行中なので気を抜けない。
町のおもしろを採取するのだ!(おもしろである必要はない)
葉ね文庫に到着。教室みたいな店名プレートがかわいい。
ちょうどやってた展示イベントを見たり。
句集を買ったり。
店主さん、お客さんといろいろ話して散歩終了!
これから短歌を作って発表し、感想を言い合って感動のフィナーレを迎えるのである。
それぞれカレーを食べたりラッシーを飲みながら考える。
ひとり一首の予定が、全員二首作るというアグレッシブさよ。 それでは、それぞれの感想とあわせて発表したいと思う。
短歌発表
省力化された世界で迫害を受けた松岡修造といる/なべとびすこ
・「省力化」と「松岡修造」は対義語
・アニマル浜口も迫害を受けてるだろう
・「といる」ということは詠んだ人も熱量がすごいのか
・「迫害」って言葉がこわい
・しょんぼりしてる松岡修造が想像できない
蒲生四丁目に瑞光四丁目ホップステップジャンプの先へ/高下龍司
・距離が遠いからホップステップジャンプじゃ届かないってこと?
・一、二、三がホップステップジャンプで四だからその先ってことかと思った
・それだ!
・四丁目が優遇される路線
・地主が住んでる
木の板を看板にするための穴僕が人間であるための靴/なべとびすこ
・看板であるためのアイデンティティである穴を奪われたのか
・社会人として生活するのに靴は必須
・これが人間だと思うとつらくなってくる
・強い怨念を感じる
・姉さん、事件です
地下鉄、でた瞬間めちゃめちゃ晴れてたしかもうおぼえてへんまち。/多賀盛剛
・あんなに晴れてるとは思わなかった
・「雨降ってなかったらいいな」くらいの気持ちだった
・たしかに地上に出た瞬間がいちばんインパクトあった
・めっちゃ晴れてめっちゃ風吹いてめっちゃ雨降るとか演出が強すぎる
シロップを入れる?入れない?迷うポチャでも歩いたのぜんぶこのため/くーりー
・今日はいっぱい歩いたのでアイスコーヒーにシロップ入れてもセーフ
・「迷う」っていいながらすぐ「ポチャ」と入れてるからさほど迷ってないのでは?
・「ポチャ」の位置によって迷い具合が変わってくる
・「ポチャ」ってシロップを入れた音じゃなくて「ポッチャリさん」って意味なんです
・全員ミスリードしてた!
うとうとと、バスにゆられて寝る、さっき、あるいてたとこ、またあるきつつ。/多賀盛剛
・たしかにバスの中めっちゃ心地よかった
・全員寝てた
・バス降りて朝と同じ道を歩いて夢っぽさが強かった
・じつはバスで寝てる時にさっきの散歩の夢を見てたんです
・またミスリードだ
行ったことない駅めっちゃ多いやん大阪メトロ今里筋線/高下龍司
・標語みたい
・ネガティブキャンペーンじゃないか
・自虐ネタのポスターでありそう
・今年の3月までは大阪市営地下鉄だったので文字数が合わなかった
・今日だけで3駅降りたからもう今里筋線についてだいたい語れる
「ラスボスの世界メーカー」製の駅うねる階段あるく学生/くーりー
・ラスボスの世界にあるメーカーに発注したのか
・男子トイレに入ったつもりが女子トイレで手を洗っていた。そういうことか
・階段がねじれの位置にある
・それなのに学生がふつうに歩いている(当たり前だけど)
・よそ者か地元民か一発で見分けがつくな
まとめ
かくして新企画「サンポー × TANKANESS コラボ吟行 ~未開の地編~」はお開きとなった。
普段から路上観察と称して街歩きをしているが、同じスタンスで臨むことができた。 しかし、である。
そこから短歌を詠むとなるとまた別問題だ。
他の人の作品と比べると自作は平易な短歌だなと思った。もっと飛躍したい。
「初心者なもんで」という言い訳ができるうちにいろんな会に参加してスキルを上げてから初心者を脱却したいところである。
まあ10年くらい経っても「永遠の初心者なもんで」とか言ってそうだけど。
とにもかくにも初吟行、とても楽しいものだとわかったので大収穫である。
打ち上がるまでが吟行です。
*くーりーさんが書いたサンポーさんでのコラボ記事はこちら
この記事を書いた人
高下 龍司(koge)
「まあいっか」「わかっちゃいるけどやめられない」「他力本願」を心のクリーンナップに据える会社員。隙あらばアルコールを摂取するので基本電車か徒歩移動。
Twitter @kooooge
自選短歌
エアコンとコンニャクのコンいっしょかないっしょじゃないかないっしょじゃないな
ゲスト
Cooley Gee
フィールドワークの途中で迷子になるひと。
さんぽの横歩きをしている。
ビリヤニとカレーをよく食べる。
座右の銘「好奇心が足りまへんなあ」
ブログ:note「502」
Twitter ID @CooleyGee_ff14
自選短歌
初恋のひとの初恋のひとがイエロー、タイトスカート履きだしても「無理」
(「特撮短歌」より)
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
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自選短歌
ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない