短歌を始めてもう7年になる。
短歌をはじめて3年経った頃、先輩の結婚祝いの動画としてCOWCOWの「あたりまえ体操」のネタ(替え歌)を作ったことがある。
私にあたりまえ体操のネタが作れるのか?と思ったが、あたりまえ体操の歌詞は「8・8・4」のリズムだと理解してからは、案外スムーズに作れた。先輩の苗字や勤務先の名前を取り入れながら作り、自分で言うのもなんだが好評だった。
そのときに、「短歌をやってきたおかげで、リズムに言葉を合わせるのは得意になったのかも」と思った。
それから4年、たくさんの短歌を作ってきた。あの頃以上に、私の「リズムに言葉を合わせる」技術は上がっているはずだ。
きっと今の私なら作れる…
SKET DANCE(スケットダンス)の「ファルケン」の読み札…
「黄歌(ウォンカ)」を!!!
以下、短歌歴7年、黄歌歴0日のなべとびすこがお送りします。
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
通販 鍋ラボ公式通販
自選短歌
ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない
5・7・5・7・7に慣れてる歌人ならSKET DANCEの黄歌(6・3・4・5・4・5)も作れる説
黄歌(ウォンカ)とは?
「黄歌(ウォンカ)」は週刊少年ジャンプで連載されていた篠原健太先生の漫画「SKET DANCE」の18巻「燃えろファルケン!」の回に登場する架空の詩型だ。
「SKET DANCE」は人助けをする高校の部活動「スケット団」を描いた学園モノだ。ギャグ要素が多いものの感動する回やシリアスな回もある名作漫画でアニメ化もされた。
SKET DANCEには架空のゲーム(クソゲー)にスケット団が興じる回が複数ある。スケットダンスのクソゲー回はどれも面白い。
18巻でスケット団が興じるのが「ファルケン」だ。作中では<ファルケンは平たく言うとカルタです>と紹介されている。見た目もほとんど百人一首の札のようだ。
しかし、読み札は5・7・5・7・7の短歌ではない。6・3・4・5・4・5という独特なリズムで構成される黄歌だ。
今回はその黄歌を作ってみようと思う。
5・7・5・7・7という定型に言葉を乗せるスキルのある歌人なら6・3・4・5・4・5の黄歌も作れるはずだ!
黄歌を分析しよう
黄歌を作る前に、黄歌のリズムと内容を簡単に分析しておきたい。
黄歌のリズムについて
黄歌は6・3・4・5・4・5からなる合計27音を基本として構成されている。5・7・5・7・7で31音の短歌より4音少ない。
当時は短歌を始めていなかったため気づかなかったが、改めて見ると黄歌は思ったより短歌から遠いリズムではないように感じた。
作中で最初に出てくる黄歌はこれだ。
春来たりて響く浮かれた笑い声全員死ねばいい
作中で紹介されている歌の意味:
新学期でクラス替えをして新しい友達ができたりしてみんな浮き足立ってるけど一人だけタイミング失って取り残されたオレはどうしたらいいの?
「春来たりて響く浮かれた笑い声」までで一旦内容が切れている。他の歌も同様に6・3・4・5のあとに切れ目がくるパターンが比較的多い。
6・3・4・5を短歌で言う上の句、4・5を下の句として捉えて良いだろう。つまり、黄歌の上の句はほとんど初句6音の短歌の上の句と似たリズムになっている。
下の句の4・5という圧倒的な字足らず感にだけ気をつければ、歌人の私は黄歌のリズムを乗りこなすことができるだろう。
黄歌の内容について
短歌をうまく作りたい!と思ったとき、すでにある名歌をしっかり読むことはひとつの鍛錬になる。たくさん読むうちに短歌のリズムが自然と身につくし、自分が詠みたい歌の方向性もわかるだろう。
そのため、まずは黄歌をたくさん読まなければいけない。ということで、作中に出てくる黄歌を全てノートに写経しながら分析した。
スケットダンスに出てくる黄歌は全10首。その中で黄歌の特徴として語られているのは以下の3点だ。
- 切ない歌
- 辻ヒデキの歌
- 動物をモチーフにした歌
1.切ない歌
せっかく黄歌にはじめて挑戦するのだから、王道の歌を詠んでみたいと思った。作中でも黄歌は<圧倒的に切ない歌が多い>と明言されている。
最初に紹介した<春来たりて響く浮かれた笑い声全員死ねばいい>の歌に対して、スケット団のボッスンは「『死ねばいい』とかって短歌っぽくないじゃん」と言っていたが、「死ねばいい」という内容は「短歌っぽくない」とは思わない。短歌は喜怒哀楽のすべてを詠める。短歌を始めた頃の私はほとんど怒の短歌しか詠んでいなかった。
つまり、内容的には短歌と近いものを黄歌で詠んでも問題が無さそうだ。
2.辻ヒデキの歌
次に黄歌の特徴として挙げられるのが「辻ヒデキ」の存在だ。
君の為に書いた手紙を菜箸で持たれた辻ヒデキ
かなしばりに今日も昨日もかかったとぼやくは辻ヒデキ
辻ヒデキは「黄歌」の名物キャラクターで、何度も登場する。歌の全文は読まれていないものもあるが、辻ヒデキは以下のエピソードが語られている。
- 君のために書いた手紙を菜箸で持たれる
- 「今は本気を出してないだけ」と言う
- かなしばりに2日連続でかかる
- 生徒指導室で怒られる
- いやらしい妄想にふける
どうやら、辻ヒデキは思春期の男子で、「残念」な部分が多数ありそうだ。
つまり、いつまでも精神が思春期の中学20年生の私=辻ヒデキと言えるだろう。私のエピソードを辻ヒデキに託して短歌を作ることもできそうだ。
3.動物の歌を作る
もうひとつ黄歌に多いのは「動物をモチーフにしたほのぼのとした歌(と言いつつほのぼのしていない)」だ。
虎が最期に守ったのは小さなウサギの子
その毛皮は黒と黄色のしま模様私は悪ウサギ
動物をモチーフとした短歌も多い。短歌と黄歌は相性が良さそうだ。企画を始める前は不安と楽しみがごぶごぶだったが、楽しさの配分が多くなってきた。
①切ない歌 ②辻ヒデキの歌 ③動物をモチーフにした歌 の3種類をしっかり抑えて詠んでみよう。
黄歌を作ろう!
作中では「切ない歌」と記載されているが、黄歌の内容を見るとどちらかといえば「残念」な歌に思えた。つまり、私の「残念」エピソードを洗い出せば、おのずと黄歌にしたい内容が出てくるはずだ。
〜私の「残念」エピソード〜
- 神戸の町で「歩き焼き芋」をしていたら、親子のイノシシに囲まれた、母イノシシに背中を突かれまくり、買ったばかりのモッズコートを破られる。
- 臨時休業の遭遇率がとにかく高い。臨時休業をおそれて焼肉屋が空いているか電話で確認のうえ、地元の焼肉ランチに他県の友達をわざわざ連れて行ったが「肉が売り切れました」と言われて断られる。
- 通り雨にあたり、ビニール傘を買ってライブ会場で存分にライブを楽しんだが、2時間前に買ったばかりのビニール傘を盗まれる。
- 自販機に千円札を入れたが、お札が吸い込まれたのに商品は出てこなかった。
- 19歳まで「つ」が発音できなかった(※探偵ナイトスクープに依頼して完治)のにTSUTAYAの面接に行ってふつうに落とされる。でもTSUTAYAじゃなくても落とされたと思う。就活80社落ちたし。
こんなところだろうか。この内容を黄歌にしてみよう。
黄昏時 街でコートを破られるイノシシ親子の圧
焼肉屋の肉は売り切れ辻ヒデキそれから誘われず
さっき買った傘をあいつに盗まれる開いたデスノート
千円札吸った自販機 僕の手になんにも残らない
「つ」を発音できた僕でも面接は落ちるよ80社
/なべとびすこ
作ってみると、うまく辻ヒデキや動物(イノシシ)も組み込んで5首作ることができた。ここまで黄歌生活1日目にしてスピーディーな進化と言えるのではないだろうか。芸能人格付けチェック!でGacktが「本物の黄歌」と「素人が作った黄歌」を見間違えるレベルを目指せるのでは?
せっかくなのでさらに黄歌の内容を見てもう少し作りたいところだ。
造語を取り入れる
作中で出てくる黄歌には架空の単語が入ったものがある。
メラパンフェを食べてごきげん本当においしいメラパンフェ
ヒメコに「意味のわからん食べ物」と言われているメラパンフェだが、絵札を見ると明らかにメロンパフェっぽい見た目をしている。
つまり、「メロンパフェ」という言葉が「黄歌」の世界のなかでは微妙に変化して、それが絶妙な異世界感を生み出しているのでは?
メロンパフェがメラパンフェになるには、以下の変化を経ていると考えられる。
母音に注目すれば、
ロン→ラ on→a
パンフェ→パフェ ane →ae
の変化が起こっているはずだ。
この変化に言葉を対応させて黄歌のなかに取り入れたい。これまでは内容から黄歌を作っていったが、言葉から歌を作ってみる試みだ。
on→a、ane →ae のルールを元に言葉を変化させるとこんな感じになる。
シェンロン→シェンラ
ロンリー→ラリー
アンネの日記→アネの日記
エステサロン→エステサラ
ロングTシャツ→ラグTシャツ
オンラインサロン→アラインサラ
これを使って作った黄歌は以下だ。
アラインサラ入会の辻ヒデキ生徒は君ひとり/なべとびすこ
辻ヒデキも取り入れてオンラインサロンに入ったものの仲間がいなかったというストーリーができた。残念感もあって、黄歌の王道っぽいものができたのではないか。
知らん固有名詞を入れる
作中にはこんなイレギュラーな歌もある。
柏原と多田と松木と宮嶋と来生と堀之内
集合写真の絵札に知らない固有名詞が並んでいる。鈴木や佐藤のようなよくある名前ではなく、絶妙な名前のチョイスである。
ということで私も固有名詞を並べてみた。
北恩加島泉尾小林新千歳鶴町三軒家(きたおかじまいずおこばやししんちとせつるまちさんげんや)/なべとびすこ
地元を走るバスの停留所名をひたすら並べてみた。知らん人は知らんが地元の友達(ホーミー)は大ウケ間違いなしである。
ここまで順調に黄歌づくりが進んでいる。過去に俳句に挑戦したときよりスムーズかもしれない。(そのあと反省して毎週「プレバト!」を見るようになった。)やはり黄歌は短歌と相性が良いのだろう。
名曲のサンプリングをする
作中の黄歌で私が最も好きだったのはこの歌だった。
寄せたおでこ甘い香りに誘われた私はカブトムシ
これはaikoのカブトムシのサビの一部をまるまる引用した黄歌だ。しかし、絶妙なのはサビの中途半端な部分を切り取っている点だ。
少し背の高いあなたの耳に寄せたおでこ甘い香りに誘われた私はカブトムシ
(カブトムシ/aiko)
サビ頭の「少し背の高い」が無いだけでこんなにピンと来ないものかと思う。
結句の「カブトムシ」でヒメコの「なんでaikoやねん!」のツッコミが入ってようやくaikoだとわかるのも最高の構成だ。
このように名曲サンプリングをしようと、1週間、名曲かつフレーズが印象的なJ-POPを何十曲と聴いてみたが、6・3・4・5・4・5にぴったりおさまる曲を見つけることができなかった…。1日で5首黄歌を作ったくせに1週間で何も見つけられなかったのは予想外だった。毎日、明日がある…明日があるさと思いながら名曲を聴きまくったのに…。
しかし、おジャ魔女カーニバル!!/MAHO堂 のAメロの「ドッキリドッキリDON!DON! 不思議なチカラがわいたら どーしよ?(どーする?)」の部分が4音の連打になっていることに気づいたり、サビで七五調になっている曲が多いと気づくなど、名曲のリズムのよさを改めて感じることができた。
そして黄歌の定型にはおさまらなかったが、以下の有名な歌詞の冒頭が3・4・5のリズムであることに気づいた。
あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったから
(ラブ・ストーリーは突然に/小田和正)
つまり、3・4・5の部分を引用して黄歌に取り入れられるということだ!
小田和正「あの日あの時あの場所で」僕にはない未来/なべとびすこ
こんな感じだろうか。それよりも、この歌のように3・4・5で頭韻(あの日あの時あの場所で)を踏んでリフレインさせるとおもしろいリズムが作れそうだ。
私は重大な勘違いをしていたのかもしれない。
歌人の私はどうしても短歌に寄せて考えて、初句6音の上の句を作ろうと思ってしまっていた。ちゃんと黄歌の定型を活かす方向で考えることこそが、黄歌を作る意味なのでは?
いまの私はTANKANESS編集長ではなく、黄歌見習いライターなのだから…。
短歌にはない、黄歌にしかない3・4・5のリズム。ここで頭韻を踏めばグルーヴ感を出せそうだ。
これこそが黄歌という定型の魅力を活かす形……!!
頭韻の3・4・5か…
なんかこれポケモンとかの進化系でありそうでは?
ピチューピカチュウライチュウ…みたいな…
…これだと脚韻だし音が合わない…というかピチューだけチューの表記ちゃうんかい…いま気づいたな…表記ゆれでは…?でもピチュウって書くとたしかになんかキショ…まあいいや。
ニョロモニョロゾニョロボン…おお、これは惜しいな…リズムが3・3・4になっちゃった…
あ!!!
ヤドンヤドランヤドキング!
これでいける!!!!!
ん…?ヤドキング……?
あったあった!!ヤドンヤドランヤドキング ハマちゃんのヤドキング/なべとびすこ

「ハマちゃんのヤドキング」のGoogle検索結果
ハマちゃんのヤドキングは「劇場版ポケットモンスター ルギア爆誕!」でヤドキングの声優を担当したダウンタウンの浜田雅功=ハマちゃんが独特の画風で描いたポケモンカードのことで、ウチはこのおまけのためにコロコロコミック買ったんや!!!
ヤドキングから記憶の引き出しがすごい勢いで開いて、がっかりさせない期待に応えて素敵に楽しいいつもの俺(おい)らを捨てて取り乱してしまった、すみません。
素敵な思い出をありがとうハマちゃんのヤドキング……今日はトリニクって何の肉か考えながらチキンライスを食べて人気者で行きたいところである。
結果発表〜!
ということで、ハマちゃんのヤドキングで話はそれたが、約2週間で9首の黄歌を作ることができた(※ほとんどはJ-POPのリズム分析をしている期間)。
このままハマりすぎてTANKANESSがWONKANESS(ウォンカネス)になってしまうといけないのでこの辺で終わりにしようと思う。
5・7・5・7・7に慣れてる歌人ならSKET DANCEの黄歌(6・3・4・5・4・5)も作れる!!!
昨年SKET DANCEアニメ版の配信が始まったので、SKET DANCEの漫画やアニメ、この機会にぜひチェックしてみてください。
この記事を書いた人
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
通販 鍋ラボ公式通販
自選短歌
ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない