「あなたの29年間は」企画 <2>のつちえこさん、御殿山みなみさん

企画

「あなたの29年間は」企画、第2回です。

この企画は、平成2年(1990年)生まれの歌人が、「自分自身の29年間を振り返る短歌を詠む企画」です。

・自身の29年間を振り返る境涯詠(短歌20首連作)
・ミニエッセイ

を隔週月曜日に全6回で連載いたします。

第1回目はこちら

第2回目は、のつちえこさん、御殿山みなみさんの短歌をご紹介します。

のつちえこ

『三千世界』

 

風つよく私の咽喉のみどつらぬいてどうにも熱く青葉が薫る

 

まなうらに包みこまれる青葉闇、節づくぶっだんさらなんがちゃーみー

 

ウンのとこおもしろいからふざけてたソワタヤウンタラタ カンマン

 

麻原の名前にわが名の文字多く幼き心に険しく残る

 

芳一のごとく守りてパナウェーブ隈なき白の迎え討つ敵なし

 

そこここに入信のススメおわします(あるときはふわとろたこ焼き売るお姉ちゃん)

 

選ばれし(人だと教わり)私を誇ったらハブ。まあどうってこと

 

独り生まれ独り死ぬこと独り来て独り行くこと ひとり、教室

 

布施包む袋薄きを一瞥し 愛も救いも乞わねばならぬ

 

世を捨つることのはるけさ思いやる観音菩薩とまぐわう夢に

 

神社より二度の求人情報ありミッションスクールわが学び舎の懐深し

 

烈々の就活さまよい祈らるるはてに入社す宗教法人

 

アイドルのライブにて舞う不可思議を末の末まで語り継げるよ

 

「タロットに詐欺って出たんよ」とう人に使いこまれしわがひゃくまんは

 

射るような光のごときまなざしもああちちははは神でなかった

 

お気持ちを受け取りながら善く死ねるための教えを静かに拒む

 

のうのうとえんがちょかまして生きたるよ信じんことには生きられぬ世を

 

拍子木のかーんかーんに続く列たゆたい歌いどこか懐かし

 

うたうって祈ることだと思ってる・本当かどうか考えている

 

自らを灯明として永らえる消しやすき火を胸にかかえて

信じよ、されど

そういう家系でもないのに、幼い頃から宗教が身近だった(それらが宗教と呼ばれることを知ったのはもっとあとのことだ)。いろんな仏様がいて、悪いことをすれば地獄に行くし、しかし天界へはなかなか行けない。それを聞き、なんだか注文が多いとも思ったが、欲を捨ていい子であればよいのだと微塵も疑わなかった。

しかしながら、勝手に信じてればいいものをなんで巻き込んだかなーと今なら思う。一方からは信じないという選択肢を与えてもらえず、もう一方からは怪しげな信仰に与することを批判された。どこで何を責められるか緊張しながら、次第に責められないための話術を身につけた。うまくやっていくのは、しんどいことだと学んだ。

とはいえ、一切を信じずにこの世を生きることは難しい。とかく〈信仰〉するからこそ成り立つ社会の仕組みがある。その上、生きづらさから救われたいという切実がある。そして私は、信じることは美しいと思っている。極々、無根拠に。

だからこそ、信じることを恐れる。私の在り処を、信仰することによって失わないか深く深く恐れ続ける。そして、信仰し熱狂さえしてしまうそのことを、注視し、ときに許すことが、これからも続く人生なのだ。

『三千世界』のつちえこ 作者紹介

「かりん」所属。ふと歌会@futokakai主催。オンラインで「でぃすこ歌会」もやっています。短歌ユニット「うるしのこ」の片方。一首評投稿ブログ「お題の歌で一首評」始めました。すぐに企画しがち。無宗教・無信仰です。
1990年6月22日生まれ。

ブログ:https://www.resume.id/notsuchi#

Twitter:@futokakai

自選短歌

いとおしむふいにこぼれる鼻唄の風に消えゆくその無防備を

 

御殿山みなみ

メルクマール

 

 

たぶん早くも人生最後の新世紀 ノストラダムスで嘘をおぼえて

 

アメリカの塔につっこむ飛行機とずっと休みになる土曜日と

 

帰ったらごみになるのもうれしくて修学旅行で買った木刀

 

中一の、MDウォークマンの、でも軽くってつられる足取りの

 

ベルリンの壁とバブルは教科書に生まれる前にこわれたものとして

 

ジャンプからヤングジャンプになるだけでこんなにえろいんやね星月夜

 

身長がとまってしまい電器屋で立って観ていたWBC

 

回文にきゅうにめざめて青春をさかさから読むのはむずかしい

 

七夕に飛び降りちゃった友だちの ちゃったんやおまえは ちゃうくても

 

大学にいうほどなじめない朝を季節のせいにしなおしたこと

 

難易度の高いまちがい探しってたとえばきのうまで未成年

 

震源の遠すぎてしかし在るときのこころは崩される震度2に

 

氷河期やからこんなに着るの ほどいたら夏のネクタイいやに湿って

 

ぎゃく向きに乗ってしまった電車から降りなかったら学校だった

 

増税で買わなくなったひとたちに泣く帰り道けちる菓子パン

 

仕事ができない人でひたすら検索をしつつ手にするマイナンバーは

 

立ち消えになった異動に切れ端はあったんやいつまでも握る手

 

大破した営業車にて震えつつ仕事以外にやりたいことがあるぼくはこのままじゃいられない

 

もう無理ですと告げて帰れば革靴の磨けば磨くほどぼくしだい

 

新品の普段着のまま恋人の地元にやってきて見る桜

 

ぼくしだい

小説の新人賞をとってデビューした人が、自分よりも若くないことを願うような人間だった。過去形で語れるということは、大人になったということなんだろう。今では若い方の活躍を見ると、当時の自分を思い返して、改めてその人をすごいなと思うようになった。

代わりに、自分はどこかで死ぬんだろうなと意識するようになった。死にたさはない。百歳をこえて生き延びる気満々である。ただ、外的要因は操作できないもんなという達観が身についた。そのきっかけは、遠く離れた東北の震災をテレビで見ていたときだっただろうし、同級生が突然死したときだっただろうし、不幸にも営業車で高速道路の外壁に突っ込んだときだっただろう。

若いうちに何かを、という焦りは、死ぬまえに何かをになって、ぼくを動かしていると思う。そういう二十九歳だから、これまでの二十年くらいを振り返って連作にした。

今、営業をもう無理ですと告げ、立ち消えになった異動が復活し、あたらしい地とあたらしい部署で働いている。二十代の終わり間際に、個人的に作品集を出そうかなとも考えている。

うまくいくかはぼくしだいだろう。でも、三十代のぼくしだいを、ぼくはよくしていきたい。

 

『メルクマール』御殿山みなみ 作者紹介

別名ひざみろ。無所属。短歌連作サークル「あみもの」編集発行人。1990年7月2日生まれ。

ブログ:短歌連作サークル「あみもの」

Twitter:
@1ookat2(個人アカウント)
@tanka_amimono (「あみもの」運営アカウント)

自選短歌

最後だけ百万点の問題になってあなたをささえていたい

次回予告

次回は10月14日(月)の公開を予定しています。

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