短歌のターニングポイント<4>〜はじめて学生向けの新人賞を受賞した日〜

エッセイ

現在、短歌結社「かりん」に所属する小田切拓が結社に入会してから体験したこと、その後挑戦してみた新人賞のことなどをシリーズにして話していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

*「短歌結社とは」?
短歌の掲載誌を発したり歌会などの活動を行う集団。主に主宰者と他の選者などの方が中心となって活動する。その人に合う結社選びをすると、自作の成長や豊かな人間関係にもつながる。

前回のはじめて結社内の新人賞を受賞した日の話はこちらから。

 

結社に入った翌年、「現代学生百人一首」に応募して、入選100首と、その中の優秀歌15首に選ばれた。

この賞は僕の母校、東洋大学が主催する、全国の学生向けに作られた短歌コンクールである。その時偶然、同大学に在籍していた。

応募要項は、学生であれば年齢不問だ。小学生、中学生、高校生、大学生、専門学生だけでなく、予備校生など「学生」と名がつけば誰でも応募可能である。

何首か応募して、以下の歌が選ばれた。2015年度のことだった。

落ち込んで「辛い」とぼやく僕の手を祖父が黙ってギュッと握った
/東京都 東洋大学(大学院)  1年 小田切 拓

応募総数56,972首(小学生部門も含む)の中から100首に選ばれて、その中でも優秀な15首にも入ったことになる。NHKラジオでも朗読して貰えたらしい(聴きそびれた)。

受賞、分かりやすさ、歌壇の人からの感想。全ての人を満足させる一首なんてあり得ないし、僕の歌は「わかりづらい」と賛否両論になりがちだ。

そんな自分にとって、これほど多くの人に受け入れてもらった「幸せ者」な歌を作れたことは他にない。

この歌は、頭から尻尾まで、事実である。ちょうど応募する時期だった10月のこと。長野から来てくれた祖父と家族皆で近所を散歩していた。オレンジ色の夕焼けに包まれながら。

僕はしょうもないことで悩んで「辛い」とか「もう無理」とか「耐えらんないかも」とか撒き散らしていた。

祖父は苦労人で、そのぶん社交的で、一代で校長先生になるくらいの人だ。そして、いつも孫思いで優しいおじいちゃんである。

それでもこんなに情けない僕の姿を見たら、甘えるな!と叱り飛ばすことも、くだらないなと笑い飛ばすこともできたはずだ。

お喋りが上手で太陽みたいなムードメーカー。そんな祖父が黙って近づいてきてギュッと手を握った。僕は黙って握り返して、自分を恥じた。

あの時に握ってくれた手の感触は流石に覚えていない。でも、そうやって祖父が励ましてくれたことはずっと忘れないだろう。

こんな愛情で包んでくれたおじいちゃんのことを詠んだ歌なんだから、愛されないわけない!そんな不遜な自信を持ちたくなってしまうような、思い入れの深い歌だ。

祖父は、90をとうに過ぎた今も長野で元気でいてくれている。その祖父との記念写真を、後から活字で撮ったみたいな歌である。

学生の賞以外にも、若者が多く応募する賞は沢山ある。

例えば、連作(複数の短歌の連なり)に慣れてきたら、15首で応募する「近藤芳美賞」に出してみるのもおススメだ。TANKANESSライターの貝澤駿一君は、近藤芳美賞受賞から、短歌の三大新人賞に入選するという活躍を果たしている。

短歌の世界では、角川短歌賞・短歌研究新人賞・歌壇賞が三大新人賞とされている。

ただ、角川短歌賞は50首、短歌研究新人賞と歌壇賞は30首の連作でないと応募できない。

いきなり30首以上の歌を応募するのは量の上でハードルが高いので、1首単位・15首以内の連作を探して応募してみて欲しい。それに、短歌の目的は決して受賞では無い。作りたくなったときに連作を作るだけで一つの挑戦だ。今は同人誌やネットの企画なども盛んなので、自分に合った連作作りの場を探すと、より創作の世界は広がるだろう。

(続く)

 

この文章を書いた人

小田切拓

92年生まれ。「かりん」所属。18歳の時、手に取った雑誌で短歌投稿コーナーを見つけ、歌を詠み始め楽しさを知る。友人が引くほどのサッカーオタク。第29回現代学生百人一首入選。第42回かりん賞受賞。第66・67・68回角川短歌賞予選通過。

Twitter:@rKGlC6f6HEUiU2r

note:https://note.com/takuan12/

自選短歌

落ち込んで「辛い」とぼやく僕の手を祖父が黙ってギュッと握った

 

短歌のターニングポイント バックナンバー

短歌のターニングポイント<1>〜はじめて結社の見学に行った日〜

短歌のターニングポイント<2>〜はじめて結社の全国大会に参加した日〜

短歌のターニングポイント<3>〜はじめて結社内の新人賞を受賞した日〜

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