短歌のターニングポイント<3>〜はじめて結社内の新人賞を受賞した日〜

エッセイ

現在、短歌結社「かりん」に所属する小田切拓が結社に入会してから体験したこと、その後挑戦してみた新人賞のことなどをシリーズにして話していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

*「短歌結社とは」?
短歌の掲載誌を発行したり歌会などの活動を行う集団。主に主宰者と他の選者などの方が中心となって活動する。その人に合う結社選びをすると、自作の成長や豊かな人間関係にもつながる。

前回のはじめて結社の全国大会に参加した日の話はこちらから。

 

かりんには、若手の新人賞「かりん賞」、中堅〜ベテランが対象の「かりん力作賞」がある。僕は前者の賞を昨年受賞した。

どちらも4月〜翌年3月までの1年度にかりん誌に掲載された12ヶ月分の歌の中から30首の連作を作り、結社の本部に応募する。

それを、編集委員(結社のまとめ役となる人々)の中から5人の審査員がえらばれ、その方々の協議の結果受賞者が決定する。

総応募数は30〜40篇で、その中から10人前後の候補を選び、更に4人前後の最終候補に絞られる。そしてその内の、1人〜2人が受賞となる。

選考結果は、例年全国大会での表彰を終えた後の9月号の結社誌面で詳細に語られる。受賞者も、候補の作品も。

この賞の応募者の主な利点としては、

①トータルで自分の歌を連作という視点で意識する習慣がつく

②毎月出すモチベーションがより高まる

③自作の短歌全体の強みと弱みが分かる

④毎年の成長と、そこから見える波を連作という形で記録出来る

などといった点が挙げられる。結社全体にとっても、違う時期に入会した人たちが同じ目標を目指すことで良い伝統と共通の登竜門が生まれる。

僕にとっては③の効果が大きかった。感性、抒情性、技巧は褒められたものの、心構え、精神的な成熟度の反映、社会性が足りないとの指摘がこれまで多くあった。

短歌とは怖いもので、作者の人間性が作品に鏡のように映りこんでしまう。それは時として辛かったけれど、貴重な体験だった。毎月10首送る、それを1年間続ける、その中から作品を構成して送ることがどれだけ成長につながったか。

僕は2016年から2020年度まで、6年ほど連続で最後の10人もしくは4人に入った。しかし、なかなか欠点が直っていないのは自分でもよく分かっていた。

そして、自分なりに吹っ切れたかな、と思えた昨年2022年提出(応募作は2021年度)の連作30首「あと一行言葉に出来ず」で第42回かりん賞を受賞することが出来た。

欠点はまだ完全に克服したとは言えないけれど、審査委員の梅内美華子さんの選評に「自己肯定感を探し出そうともがくひたむきさや切実さがある」と書いてもらえたのが嬉しかった。「厳しさが足りないところもあるのではという意見が出た」という変わらない欠点に向き合う張り合いもより強く出てきた。

そして、結社で多くの時間を共にした人々から祝福の言葉をもらった。長年候補になりながら、同じ課題を乗り越えられない姿を結社の皆が見守ってくれていたことを再確認した思いだった。

また、多くの結社賞受賞者にはこんなご褒美がある。角川出版が発行する短歌総合誌『短歌』に「結社賞受賞歌人大競詠」という特集で掲載されることもあるのだ。毎年と決まっているかはわからないけれど、例年は9~10月号にその特集がある。

なかなか掲載されないメジャーな一般書店に置かれる雑誌に自作が掲載される機会も貰える。でも個人的には、受賞までの成長と賞に結実したことが本質で、そのあとに来るものはボーナスステージかな、と思う。

でも、今年ももし例年通りに特集があったら、と思うと、あの『短歌』誌に歌が掲載されるかもしれないことがとても楽しみでソワソワしてくる。ものすごいボーナスであることは言うまでもない。

成長に加え、総合誌に歌が掲載され多くの人に読んでもらえるチャンスがある機会があるかもしれない。言わば、結社が歌人を紹介してくれるわけだ。

今年の発表はまだされていないので自分にそのお鉢が回ってくるかわからないが、もし原稿依頼をもらえたら少しでも良い歌を詠みたいと思う。その年の自分は、結社の代表でもあるのだから。

 

(続く)

 

 

この文章を書いた人

小田切拓

92年生まれ。「かりん」所属。18歳の時、手に取った雑誌で短歌投稿コーナーを見つけ、歌を詠み始め楽しさを知る。友人が引くほどのサッカーオタク。第29回現代学生百人一首入選。第42回かりん賞受賞。第66・67・68回角川短歌賞予選通過。

Twitter:@rKGlC6f6HEUiU2r

note:https://note.com/takuan12/

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落ち込んで「辛い」とぼやく僕の手を祖父が黙ってギュッと握った

 

短歌のターニングポイント バックナンバー

短歌のターニングポイント<1>〜はじめて結社の見学に行った日〜

短歌のターニングポイント<2>〜はじめて結社の全国大会に参加した日〜

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