みなさんこんにちは。TANKANESSライター兼・見習いポケモンマスターの貝澤駿一です。
ライターとしては「教科書に載っている歌人を読んでみよう」という記事を中心に書いていますが、今回は、2021年に企画して大好評だった「ポケモンで短歌作って歌会してみた!ダイパリメイク編」に次ぐ第二弾となります。よかったら最後までお読みください。
さて、2022年11月18日に発売された「ポケットモンスター スカーレット/バイオレット(通称SV)」みなさんはプレイしましたか? 僕にとっては前回の「シャイニングパール/ブリリアントダイヤモンド」を久しぶりにプレイして、ポケモン熱も高まってきたところでの完全新作。個人的にはとても楽しみにしていました。そんななか、編集長のなべとびすこさんから「今回もポケモン歌会をやりましょう!」とのありがたいお誘い。これはもう、やるしかありませんね!
メンバーは前回のダイパ歌会と変わらず、この二人に後輩の郡司和斗くんを加えます。では、1年ぶりの集合となった歌人兼ポケモンマスターたちの気合の入った歌会の様子をご覧ください。
ルールは以下の通りです。
ポケモン吟行歌会
・参加者はソフトが届いた日から、3つ目のジムをクリアするところまでを目安に冒険を進める。
・それまでに立ち寄った町や出会ったポケモン、イベントのなかから印象に残ったものを短歌にして発表する。一人三首。
・歌会は作者を明かした状態で、それぞれコメントしあう。
前回に比べると、発売日から歌会まで少し余裕があったので、ゲームを中盤まで進めることができました。また、事前の情報でオープンワールド(特にクリアの順番の指定がない、自由な展開のゲーム)であることがわかっていたので、目安のジム3つにとらわれず進められるだけ進めましょう、となりました。
それでは、僕たちが作った9首のポケモン短歌を、本編の名場面(?)と、歌人の目線からのわりとガチなコメントと共にお送りします。
ポケモン吟行歌会
参加者
貝澤駿一
ポケモン金銀・ルビサファ世代。今作は選んだクワッスが最終的にかくとうタイプになったので、パーティ全員かくとうタイプ+かくとうタイプにテラスタルするエクスレッグで冒険しました。めざせかくとうタイプのジムリーダー。スカーレットをプレイ。
なべとびすこ
ポケモン赤緑世代。前回のダイパが楽しかったので意気揚々と購入したものの、方向音痴のためオープンワールドの移動で苦戦。昔からの憧れだったミニリュウを今作で初めてゲットした。スカーレットをプレイ。
郡司和斗
ポケモンダイパ世代。だけどレーティングをやりこんでいたのはXY世代。最近はカヌチャン関連のツイッター漫画を集めている。チャンプルジムの注文を適当にやったら一発で突破した。バイオレッド・スカーレットの両方をプレイ。
歌会スタート!
バズらないと挑戦(コラボ)をさせてもらえないジムリーダーのギザ歯を愛す/郡司和斗
な:ジムリーダーのナンジャモさんですね。改めて〈バズらないと挑戦(コラボ)をさせてもらえない」と短歌で書かれると、人気者ハラスメントみたいに感じて、違和感が面白いと思いました。ギザ歯も特徴的だったので、確かにそうだなと思いながら読みました
貝:大きいポケモンマスターの欲望が全部形になったようなキャラクターですよね
な:確かに(笑)
貝:こういうのが欲しかったんでしょっていうのをすごく具現化したような……。ストーリーとしては3番目のジムリーダーで、やっとゲームに慣れてきたところで登場するのがよく考えられていますよね
な:私は道に迷い過ぎて、最初のジムとスター団をスルーしたので、私にとっては2番目のジムでした。そういえば、バトル中にヒカキンっぽい名前の人がスパチャを送っているシーンがあって、ポケモンの世界にもそういうのがあるんだなって。……短歌に対してじゃなくてナンジャモさんに対してのコメントばっかりですね
貝:いやー、そうですよね。歌は別に……特にひねったところもないので……ただ、普通の歌だと〈〇〇を愛す」っていう結句は独りよがりになって失敗しやすいけど、これは「みんなどうせ愛しているんでしょ!」っていう呼びかけなのであまり嫌らしさがないですね
な:フィクションのキャラクターで、チャーミングポイントが明確だからこそ、すっと入るのかもしれない
郡:あのキャラはわざとらしいくらいで、案の定釣られますよね。気持ちよく釣られてあげましょう、みたいな。正面から「お前らこういうのが好きだろ?」って来たから、「はいわかりました、愛します」、って
じゃれついたつもりで君を傷つけたマリルの涙はすぐにかわいて/なべとびすこ
郡:視点が一瞬わからなかったんですけど、どう思いました?
貝:マリルの視点じゃないですかね
郡:マリルがトレーナーにじゃれついて……
貝:トレーナーでも、好きなポケモン(?)でもいいですけど……。じゃれつくは強い技で、ドラゴンタイプも一瞬で倒してしまう
郡:メインウェポンですね
貝:マリルからしてみれば、じゃれているだけだったのに傷つけちゃった感じかな。教員をやっているとこういうことはよくありますよ。じゃれているつもりだったって言って傷つけちゃう子供。相手の子との距離感がわからなくて
郡:前半は一人称っぽくマリルの視点になった後で、下の句は三人称的な感じで引いたところからマリルを見ているのか
貝:そうじゃなかったとしたらどうだろう。〈私〉がマリルにじゃれついているのかな
郡:〈私〉もマリルで、〈君〉もマリルで、じゃれつきあっているのかも
貝:そうすると、〈マリルの涙はすぐにかわ〉くという現象が、普遍的なものとして存在するということですね
郡:すぐにかわくのは、あんまり気にしないよっていうことなのかな。わけを話したら、じゃあいいよってすぐに許してくれたみたいな
な:〈私〉がいて、〈君〉がいて、〈マリル〉がいるっていう読みですよね?
郡:はい。誰かが〈じゃれつく〉をやって〈君〉を傷つけたんですよね。だから、最初は自分の感情を吐露するのに、後半は〈マリルの涙はすぐにかわいて〉という神の視点が出てくるから、そこで定まらなくなっている
な:私は〈じゃれついたつもりで君を傷つけた〉が全部マリルにかかるつもりで作ってました
郡:あー、なるほど
な:そこで切れるか切れないかで読みが分かれてしまいましたね。図鑑にマリルは撥水性の毛を持っているって書いてたんです。ピカチュウとかもそうですけど、アニメを見ているからつるっとした感じに見えるけど、実際には毛があるんだと思って。そういう情報を入れてみたかった
飛ぶカイデン落とす勢い グルトンもおだてりゃ木に登る ニャオハ舌/貝澤駿一
な:ポケモン世界あるあるで、ことわざがポケモンになっていますね。それのバラエティセットみたいな(笑)。カイデンは鳥で、グルトンはブタ、ニャオハは猫のポケモン
郡:ポケモンことわざって、今回も作中にありましたっけ
な:いくつかありましたよね。ジムリーダーのハイダイさんが〈まな板の上のコイキングじゃねえか!〉って言っていたような……
郡:スラングっぽいですよね
な:〈ポッポ肌(鳥肌)〉とか
郡:そういうスラング的な、ずらしたおもしろさってありますよね。〈飛ぶカイデン落とす勢い〉って変なことが起きていておもしろい。〈飛ぶ鳥を落とす勢い〉の言いやすさとかテンポの良さが殺されて、〈飛ぶカイデン……〉って音も増えているし(笑)
な:全部2音のところが、(ポケモンに代わることで)4音になっている
郡:そういうところで生まれる謎の違和感がおもしろい
貝:〈飛ぶカイデン落とす勢い〉はナンジャモさんが言っていますね。あとの2つは勝手に作りました
な:グルトンはブタですけど、ブタポケモンって初めてですよね
貝:グルトンはイベリコ豚だから、木の近くにいる印象がありますね。だから、本来の〈豚もおだてりゃ木に登る〉のイメージに近い
な:〈ニャオハ舌〉も絶妙ですね
郡:〈ニャオハ舌〉だけ明らかにクオリティが低くて、これが最後にあるのがオチっぽくなっている。〈飛ぶカイデン落とす勢い〉の頑張りはどこへ行ったの? みたいな
一同:(笑)
わざマシン、わざマと略しどこまでも わざマ、言っている場合じゃない/郡司和斗
な:これはいわゆるサンプリング(本歌取り)の短歌ですよね。もとの歌は(エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ/初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』書肆侃侃房:2018年)。初谷さんの歌はしっとりとした終わり方。この歌では〈言っている場合じゃない〉と、何か重大なことが起こっている
貝:なんで〈言っている場合じゃない〉のかがわからないけど
な:〈言っている場合じゃない〉のになんで言ったのかもわからない(笑)
貝:わざマシンを集めるのが大変だったなというのはわかる。どこに何があるかわからないし、作ろうと思ってもなかなか素材が集まらない。わざマわざマ言っている場合じゃないから早く集めなきゃ、みたいな
な:本編で〈わざマ〉って略されているんでしたっけ
郡:実は略されているんですよ。ナンジャモさんも〈わざマ〉って言うし、スター団のピーニャも。いや〈わざマ〉とか言っている場合じゃないでしょって(笑)
な:ところで、〈言っている〉ってわざわざ書くのは少し違和感があります。全体的に口語なら〈言ってる場合じゃない〉のほうがいいのかなって思ったんですけど
貝:僕と郡ちゃんでも感覚がだいぶ違うので、難しいですよね。この歌は会話体と自然な文章体が混ざっていて、〈言っている〉と〈場合じゃない〉で話し言葉と文章語に分かれている。〈言っている〉だけが文章語ですよね。そういう使い方はあまり見たことがない
な:〈言ってる場合じゃない〉か〈言っている場合ではない〉の二択ってことですか
貝:ふつうはそうですよね。ただ、一瞬不自然に見えてもたぶんこれが作者のなかでは一番自然な言語感覚だと思うから、それは尊重してもいい
郡:自然だと思っていたのでびっくりしました(笑)。それいいねーみたいな発話のときに、あえてそれ「よいねー」って言うみたいな。ちょっと強調するときに文章語でしゃべる。そういうミックスって個人的には自然な感覚でした
な:関西だと〈ゆってる〉とか〈ゆうてる〉になるから、〈言ってる〉ってそもそも言わないかもしれません。そういう地域差もあるかも
ジャンプして海へ飛び込んでもちょっと慌てれば陸に上がれてしまう/なべとびすこ
郡:ライドを使わないで崖から落ちると、画面が真っ暗になって〈慌てて陸にあがった!〉って出てくるやつですよね。オープンワールドだから一回はやってみたくなる。で、やってみたらゲームの進行上のご都合があって、陸の上にあげられる(笑)。落ちて死ぬことはないよなーというおもしろがり方
貝:メタ的な歌ですよね。ゲームの中ではそういうことは普通に起こるけれども、現実世界もだいたいそんなものだっていうおおらかさ。ちょっと慌てればすぐに戻ってこられるというのは、ゲームの世界でも現実世界でもきっと同じだろうと考えている。僕はもうライドポケモンに乗っている状態だと思いましたが
郡:なみのりをおぼえちゃうとそのままダイブしますよね
貝:ダイブしたあとにジャンプとかすると陸に上がれてしまう。僕は真面目なプレーヤーなのでちゃんと歩いていたから(笑)、この画面が出たことがなくて。スマホロトムに助けてもらったことはあるけど
な:え、どんな状況ですか
郡:崖から海じゃなくて陸の方へ飛び込むと、スマホロトムがパラシュートみたいなことをしてくれる
な:それはやったことなかったです。私の場合はライドポケモンに乗っていて、道に迷いまくったときに、ワンチャン向かいの岸まで飛べるかなってところでジャンプしては落ちて真っ暗になってたんですよ。ちょっと慌てるとかいうレベルじゃない高い崖でも戻れる。リアルなら私は20回くらい死んでいるはず
郡:〈上がれてしまう〉という違和感がおもしろくて、普通は溺れるより陸に上がれた方がいいけど、なんかそれって筋じゃないと思ってしまいますね。そういうゲームのご都合を斜めの目線から見ている
な:このゲーム内では絶対に神の力が働きますからね。オープンワールドの限界みたいな意識はありますね
サンドイッチは絆の証コライドンきみは終わりなき旅を信じる?/貝澤駿一
郡:サンドイッチを食べさせたりピクニックをしたりするの、よかったですよね。ペパーがかわいいのかウザいのかよくわからない立ち回りをしていて、でも実は相棒のマフィティフを回復させてあげたいという物語がある。で、マフィティフにも、コライドンにもサンドイッチを食べさせてあげる。
伝説のポケモンってこれまではパッと出てパッとマスターボールで捕まえられる、雑に強いやつとしか扱われてこなかったけれど、今回は旅の仲間だったのがよかったと思いました。〈きみは終わりなき旅を信じる?〉は、ちょっと青臭いセリフだけど、コライドンとの旅にも実は終わりがあることがわかっている。少しだけ大人な目線ですよね
な:絆の最初のシーンとしてサンドイッチがあるから、〈絆の証〉という言葉は納得感がありますね。〈終わりなき旅〉については、ペパーとネモと校長に詰め寄られるシーンを思い出しました。これまでのポケモンはチャンピオンロードを目指すなかでいろいろなストーリーがありましたが、今作はチャンピオンロード、ヌシ探し、スター団を倒すという3つの目標がありましたよね。色々あるけれど、最終的にはあなたが決めることですよって全員に言われる恐ろしさ。各々に誘導されつつ、実際は自由ですよ、〈終わりなき旅〉ですよって提示される。
でも、実際はチャンピオンロードもいつか終わるし、ヌシもスター団もいつか倒すし、図鑑もいつか完成する。だから本当に〈終わりなき旅〉を信じていいのかという疑問がある。ただ、「終わりなき旅」というとMr. Childrenの名曲がどうしても浮かびすぎて(笑)、若干それでいいのかと思いつつ、説得力がありました
貝:ふつうの歌会だったら出さないけど、ここならいいですよね
郡:これくらい正直で軽い作りのほうが、元ネタありきの歌会のときは話していて盛り上がる。この歌は好き勝手に代入してしゃべれるから(笑)
貝:たまたま持っている食べ物を、たまたま弱っている者にあげたら懐かれるっていうのは、冒険物の基本中の基本ですよね。それくらい単純な方がかわいくていいなと思いました。
下句は、ゲームをやっている我々も〈終わりなき旅〉を信じられるかどうか試されている感覚ですね。オープンワールドと言ってもある程度の推奨ルートはあるし、僕は対戦もしないし図鑑もコンプリートするほどやりこまないから、クリアしたら終わってしまう。でもそれを信じるか信じないかは結局プレーヤー次第だから、純粋に〈終わりなき旅〉を信じることができれば、もっと面白いゲームになるだろうなとは思う
郡:皮肉っぽくも読めますよね。今回のポケモンって宝探しというか課外授業ですし
な:宝探しという体でね
郡:しかも海に囲まれた島で、すごく閉塞感があるのにオープンワールドというダブスタにもなっている。教育機関の箱庭の中で想定通りのお宝をさがすだけだから、実はこれまでのポケモンよりスケール感は小さいですよね
貝:僕はそうは思わないけど……(笑)
ミライから来たドンだからミライドン うん? ミライドンその稻妻の眼よ/郡司和斗
な:これ初読で笑いました。まず〈ドン〉って何、と思って
貝:ふつうに言うと、「静かなるドン」とか、「経理のドン」とか
な:今回バイオレットを選ぶと「ミライドン」、スカーレットを選ぶと「コライドン」が相棒になるんですよね。スカーレットしかやってなくてミライドンの存在をこれで知りました。コライドンの場合、古来から来たドンだからコライドンになるんだけど、ミライドンのほうがおもしろいですよね。コライドンだと、ただの長生き(笑)
貝:ミライドンのほうが〈ドン〉っぽいですよね。ミライドンはシュッとしていて、子供に人気がありそう。「ぼくが考えたさいきょうポケモン」みたいな。コライドンはもう少しチャーミング。だから、ミライドンはクールな性格なのかなって想像する。で、「未来から来たドンだからミライドンなの?」って声をかけて、「うん?」って反応が返ってくる。そうしたら稲妻の目が光って、ああ、やっぱり伝説のポケモンだなあっていう流れの歌
な:急に収束していく感じがおもしろいですね。確かに見比べるとミライドンのほうがシュッとしている
貝:僕はずっとコライドンに乗っていたから愛着がわいているだけかもしれないけれど、コライドンはサンドイッチをもらった瞬間に懐いてくれるかわいらしい、人懐っこい印象で、ミライドンはクールにだんだん絆が深まっていく感じなのかなと。でんきタイプだからちょっとツーンとしているけれど、背中には乗せてくれる。懐かない猫がだんだん懐いてくれるイメージですね。あとコライドンは単純に人を乗せているけれど、ミライドンは未来から来たから電気自動車みたい
な:コライドンだけなら〈ライド〉から来たのはわかるけど、ミライドンもいると、実際はミライとコライが対比になっているのかって気づきました
郡:まあ、全部ノリですね(笑)。最初はやっぱりミライドンとコライドンだから、ミライのドンとコライのドンと思うじゃないですか。あえてそのままボケておきつつ、そのボケに対する自己批判がある
な:自問自答だった
郡:いったん〈うん?〉って言った後に、チープな感じで終わらせる。小2ぐらいのカッコよさでおさめるっていうノリの歌ですね
な:〈稲妻〉じゃなくて〈稻妻〉なのが気になってたんですけど、たしかに小2だったら稲妻の〈稻〉は難しいほうを選ぶのはわかりますね
ふるいたてる ふるいたてる ケンタロスはもう誰にも止められないほどに/なべとびすこ
貝:今作はモチーフがスペインなので、このケンタロスは闘牛をイメージしている。これは野生で出てくるとめっちゃふるいたててきて、でも攻撃しないんですよ。モチーフがスペインと分かった時点でこのケンタロスが出てくる展開を予想できなかったのは悔しかった
郡:永遠にふるいたてるということは、逆説的にそうまでしないと攻撃できないくらい、もともとおくびょうな性格なのかも。ケンタロスの意外な一面が見えますね。あと知らなかったんですけど、スペインなんですね、今回
な:それは私も知らなかったです
貝:え、そうですか。オープンな知識かと……
な:赤緑は名前のまんまカントー(関東地方)でしたし、それ以外も毎回モデルの地方があるんですよね。それが今回はスペインなんですね
貝:随所にスペインなんですよね。ケンタロスもそうだし、さっき出てきたグルトンはイベリコ豚で、あとオリーブ転がすやつ(ボウルタウンのジムチャレンジ)とか
郡:そういえば学校(主人公が通うアカデミー)の建物って、サグラダ・ファミリアぽい
な:道をまちがえたせいで、ケンタロスの群れのところにけっこう弱い段階で行ってしまったんです。すぐ目の前にポケモンセンターがあるのに、ケンタロスの群れが永遠に突進してくる。戦闘が終わった瞬間に次のケンタロスが出て、「ふるいたてる」を使ってきて、永遠に攻撃力を上げつづけるんですよ。もちろんこっちも攻撃するんですけど弱いからあまり効かないし、いつ攻撃されるかびくびくしてました。こういう恐ろしい状況になったから詠まないといけないと思いました。
あと、初代(赤緑)だとケンタロスってサファリパークにしかいなくて、しかもかなり歩き回らないと出会えないから、あんなに群れになっているのが感慨深いって思ったけど、スペインって聞くと初代では野生のケンタロスはいないのは納得ですね
貝:こっちのケンタロスが原種なのかもしれませんね。ただ、実際にパルデア地方の人たちがこのケンタロスで闘牛をしている姿は出てこなかった。闘牛は文化遺産ではあるけど、いろいろな問題があって大っぴらにできるものではないですからね
強くなって敗れて悔しさを知って宝探しってこういうことか/貝澤駿一
な:全体を総括するような歌ですね。〈宝探し〉という今回のモチーフの中で、勝つことだけがすべてじゃないという。私は道に迷ったおかげでケンタロスのひどい目にもあったし、ジムもいきなりかましてくるなと思ったりもした。でも、強くなってからもう一回挑むのがポケモンの醍醐味なので、今作の〈宝探し〉という要素も入れつつ、すべてのポケモンに当てはまる短歌だなと思いました
郡:今回って〈宝探し〉をやたら強調してくるけれど、結局〈宝探し〉ってこういうことだっていうまとめはなかった記憶がありますね
な:スター団のセリフで、「僕にとっての宝は仲間」みたいなセリフはあった気がします
郡:本編は、あなたの宝は自分で意味づけしてねって、ふわっとした感じで終わる。プロセスが大事なんですよね。これが自分の宝だって気づけることよりも、それまでの道中が結局楽しいから。宝が何かというより、そこに至る過程がすごく重要なんですね
貝:公式が言いたかったのはそういうことですよね(笑)
な:ただ私たちはそれをわかりつつ、「まあ落ちても死にませんけど」とか言って
貝:でも僕、クワッスを選んだんですけど、水タイプのくせに炎のスター団(メロコ)に負けてしまって
郡:強いからなー、メロコ
な:メロコの主人公感もやばかったですね。その前に経験値を積むためにホゲータでシキジカを焼き尽くしていた自分が恥ずかしくなりました……
貝:ほかのゲームをやっていても、あんな中盤で苦戦することってないから、素直に悔しいなと思って。でも結果じゃないんですよね
な:道に迷ったことで思わぬポケモンに出会うとか、そういうのも含めて〈宝探し〉だったんだよということですね
~歌会を終えて~
郡:今回、テラスタル(ポケモンごとに固有のテラスタイプがあり、戦闘中に一度だけそのタイプに変更できる)の歌がなかったのがちょっともったいなかったですね
な:貝澤さんはサンドイッチを入れたり、宝探しを入れたり、メインテーマをきちんと使っていたけれど、私は全然でしたね。サンドイッチは考えたけど作れなかった。技名を入れたりメタ視点で詠んだりと作り方が前回と似てしまいました
貝:そうですけど、この歌会に反省いらなくないですか?(笑)
な:そうですね(笑)でも確かにテラスタルはあってもよかったかも
郡:使いやすくはないですよね。テラスタル
な:全体的には、ジムリーダーの歌があったり、ポケモンことわざがあったり、ミライドン/コライドンが詠まれたり、いろんなパターンが出ましたね。ミライドン/コライドンは全員が詠んでいる
郡:今回僕のテーマは「読みやすい」で、パッと読んでおもしろい歌を目指しました
な:〈わざマ〉の歌はいいですよね、サンプリングが
郡:これはサンプリングのサンプリングですからね。公式の〈わざマ〉と初谷さんの歌の形を借りているだけなので、僕の要素が何もない
な:<「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智> をサンプリングした <この味がいいねと僕が言ったのにオリーブオイルをかけるもこみち/泳二>っていう短歌を思い出しました
郡:でも楽しいですよね、サンプリング
貝:ミライドンの〈うん?〉も、初谷むいさんの<イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く>か、<カーテンがふくらむ二次性徴みたい あ 願えば春は永遠なのか>みたいだなって
郡:それは関係ないですね(笑)
貝:間投詞がある感じが初谷さんぽい
な:わざマの歌と並んでいたからそう見えたのかもしれないですね
……
全体を振り返ってみると、「ポケモン」という大衆的なテーマでも、それぞれの歌人に特徴的な作風が出るのがおもしろかったです。メタ的な要素を取り出すのが上手いなべとさんに、サンプリングや破調などトリッキーな技法を使う郡司さん、そしてなぜか公式に忠実な僕……。むしろこうした大衆性の高いテーマだからこそ、それぞれの歌人の「素」が出たのかもしれませんね。
というわけで、ポケモンSVをプレイして楽しかったという人は、ぜひゲームの中の思い出を短歌にしてみてください。ひとつひとつの作品が、みなさんの大事な宝になりますよ!
ということで、今回の記事は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう!
この記事を書いた人
貝澤駿一
1992年横浜市生まれ。「かりん」「gekoの会」所属。2010年第5回全国高校生短歌大会(短歌甲子園)出場。2015年、2016年NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)。2019年第39回かりん賞受賞。
Twitter@y_xy11
note:https://note.com/yushun0905
自選短歌
まっさらなノート ピリオド そこにいるすべての走り出さないメロス
参加した人
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
通販 鍋ラボ公式通販
自選短歌
ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる町 でもふるさとを他に知らない
郡司和斗
1998年茨城県生まれ。元二松学舎大学松風短詩会会員。歌誌「かりん」、俳誌「蒼海」所属。読書ブログ「詩歌の焚火」。第62回短歌研究新人賞、第39回かりん賞受賞。大学院では不登校研究。
Twitter:@gun_ji_wowowo
ブログ:遠い感日記
自選短歌
片思いのままいくつかの片思い 冬の桜の木をかいでいる