短歌のターニングポイント<2>〜はじめて結社の全国大会に参加した日〜

エッセイ

現在、短歌結社「かりん」に所属する小田切拓が結社に入会してから体験したこと、その後挑戦してみた新人賞のことなどをシリーズにして話していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

*「短歌結社とは」?
短歌の掲載誌を発行したり歌会などの活動を行う集団。主に主宰者と他の選者などの方が中心となって活動する。その人に合う結社選びをすると、自作の成長や豊かな人間関係にもつながる。

前回のはじめて結社の見学に行った日の話はこちらから。

 

 

短歌結社「かりん」に入って最初の7月、僕は短歌結社の初めてのイベント・全国大会に参加した。

全国大会とは、年に一度東京の中野サンプラザをいつもより多く借りて、普段は東京歌会に来れない方も参加し、1泊2日で泊まり込む大イベントである。

1日目に講演会やパネルディスカッションをする。2日目には3グループに別れて無記名の歌会をしたのち懇親会だ。

懇親会では、札をとってその番号の席に無作為に座り、同じテーブルになった人たちと親睦を深める。その後、立食パーティーのようになり、面識は無くとも誌面で気にかかっていた人と話せる時間がたっぷりある。

また、歌会で扱った歌に選者賞と投票制度を設けて表彰する。結社の新人賞・かりん賞、中堅からベテランの賞・かりん力作賞の表彰なども行われる。

最初の全国大会では、若手の集まり・若月会(みかづきかい)の皆で先輩方のお手伝いをした。主に、パネルディスカッションや歌会でのマイクの受け渡しや、懇親会の席案内などである。

もちろん、自分たちも参加する。歌会は作者の名前を隠す、つまり無記名で行われるのだが、僕の作品は癖が強かったらしく、歌会後に若月メンバーの仲間から「作者名がなくても小田切さんだって分かったよ!」と言われた。そしてそれがものすごく嬉しかった。

そして毎年かりん賞を受賞できず、同期がスピーチを行っているのを羨ましい気持ちで眺めていた。

かりん賞に関しては、次の記事で詳しく書こうと思う。

ある年、全国大会に応募し忘れた時に実行委員の方が「小田切さんは参加しないのかな?」と連絡をくださった。

そのおかげで全国大会に遅れながら申し込めたのだけれど、困ったのは歌会用の作品を用意していなかったことだ。

慌てて、「賛否両論になりそうだから」と今までお蔵入りさせていた歌を応募した。

インテリの イ の字は イチドモガッコウニカヨエナカッタ の イ と同じ文字

こういった刺激的な作風だったら、取り上げてもらえる機会も多いかもしれない。そんなちょっとした下心もあり応募した。

この歌は、インテリ層の人の「イ」も「イチドモガッコウニカヨエナカッタ」人の「イ」も同じ、どちらも同じ人間なんだよ、という意味で作った歌である。

「イチドモ……」をすべてカタカナにしたのは、「イ」の表記をどちらもカタカナにするだけではなく、学校に通えなかった環境で漢字を覚える機会がなかった、という意味も込めた。

今にして思えば、そうした比喩で比較したこと自体がある種差別的だったのかもしれないが、歌会では大議論が待ち構えていた。

どんな反応が来るかな、と気楽な心持ちで席に座った。すると、3対7と言っていいほどの賛否両論が巻き起こった。激論の的となる、というのは言葉にするとそれほど悪くないけれど、実際に体験してみるとかなりきついものだった。

取り上げて熱心に論じてもらえたことはうれしかった。でも、自分の歌でちょっとした渦が出来上がるとソワソワと不安な気持ちになる。新人賞を受賞する人たちの大変さはこの比ではないのだろう

そんな時にTANKANESSライターの貝澤駿一君がフォローしてくれて、この歌の意図と至らない部分まで解釈してくれた。若手同士のフォローに救われた瞬間である。

貝澤君の歌の意図がわかりづらいという感想が出た。

ライトからセンターに向け振りかぶる補欠の空はきっとまぶしい/貝澤駿一

僕も彼の意図を代弁した。

この、外野でキャッチボールする場面は、補欠の選手たちが試合前に出番の代わりに練習させてもらっている姿を映しているのだ。

これは、かつて僕自身もサッカー部で補欠だったから似たようなことがあってよく分かったのである。

こうして、若手同士でフォローしながら、世代の違う会員の方とのジェネレーションギャップを埋める作業も、得難い経験だった。

そして、前述した通り懇親会では、かりん賞、かりん力作賞などの選者賞に加えて歌会で扱われた作品の中から表彰がある。

馬場あき子先生や何人かの選ぶ選者賞と、最多得票賞もある。事前に、全国大会より前の号に全参加者の歌が掲載され、本番当日に投票する。

選者の方が選ぶ賞、みんなの最多得票の歌、それぞれが思ういい歌、そして賛否両論を巻き起こす歌……。「これが必ず一番!」という歌はない。

無記名で大所帯の歌会は、新たな発見があり、投票も行い表彰するため、万人受けする歌とコアに評価される歌の違いもわかる。

そして全国から集った歌人の懇親会で、僕にも全国大会で初めて会って交流が生まれた人が数多くできた。

若手にとっては、同期との設営や二次会で親睦も深まる良い機会でもある。ここで、新人歌人で結束の強化に一役買っていることも全国大会の大きな効果だ。

結社に入りたての僕にとって、たくさんの人と触れ合いたい時期に橋渡しをしてくれた会だった。

 

(続く)

 

この文章を書いた人

小田切拓

92年生まれ。「かりん」所属。18歳の時、手に取った雑誌で短歌投稿コーナーを見つけ、歌を詠み始め楽しさを知る。友人が引くほどのサッカーオタク。第29回現代学生百人一首入選。第42回かりん賞受賞。第66・67・68回角川短歌賞予選通過。

Twitter:@rKGlC6f6HEUiU2r

note:https://note.com/takuan12/

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短歌のターニングポイント<1>〜はじめて結社の見学に行った日〜

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