こんにちは!図書館で働く傍ら歌人として短歌を詠んでいる小田切拓と申します。
「短歌の最初の一歩を踏み出そう!」という連載も、いよいよ最後の3回目を迎えました!
1回目は短歌を作ったことのない人向けに、「基本的なルールや用語の説明」に関する記事を書きました。
2回目の記事では「短歌の作り方の基本」で、作り方の幾つかについて「短歌あるある」を交えながら紹介しました。 基本的には、これまでに書いた内容と名作と言われている短歌を参考にすることで、歌を詠んでいってほしいと思います。
今回は、プラスαの応用実践編です。僕が例題として、拙い一首ですが詠んでみました。その短歌を推敲することで、作歌について少しでもヒントになればと思います。この項目を読んで、少し深みのある作歌活動につなげてみて下さい。
素直過ぎない感情や行動のほうがリアルで深い
少しでもあなたと一緒にいたいから遠回りして帰り道へと
上記は僕が作ってみた短歌です。今回はこの短歌をいろんな視点から改稿していきます。
どんな感想を持ったでしょうか?「好意を持っている「あなた」との帰り道。ちょっとでも一緒にいたいがために、家への最短ルートを選ばず少し遠回りして帰り道を選ぶ」という意味を込めた歌です。定型どおりの言葉で恋心を捉えた、という意味では良い出来かもしれません。
しかし、強いてダメ出しをするとしたら、どこか無難な印象も否めません。それは何故か?人は心を、常に素直かつストレートに表現できる訳ではないからです。「好きだから伝えた」よりも、「好きなのに伝えられない」という感情のほうがリアルなのです。
「ありがとう」と言いたい相手に憎まれ口を叩くとか、悲しくて打ちのめされているのにお腹は空いてしまうなど、人間は多面的です。そこに注目すると、作る歌も色んな顔を持つことが出来ます。
予定調和を避けて上記の短歌を改稿してみましょう。
少しでもあなたと一緒にいたいから遠回りして帰り道へと
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少しでもあなたと一緒にいたいのに「用事がある」って言って手を振る
「せっかく帰り道で二人きりに慣れたのに、緊張に耐えられなくなって「用事がある」と嘘をついてその場から離れてしまう」。これだと、一瞬「え?」と思ったあとに「でも、あるかもしれない」となるわけです。もちろん、好きな人とちょっとでも長く一緒にいようとする人もたくさんいます。
でも短歌を詠む際に是非挑戦してほしいのは、矛盾した感情と行動です。合理的に割り切れない感情にはリアリティがあります。入り組んだ心の屈折に触れることで、歌はその分、深みを増すのです。
2,一枚の絵面か、心に焼き付いた景色を歌に
1で扱った「少しでもあなたと一緒にいたいのに」という歌、今度はこの歌をさらに推敲していきましょう。この歌に足りないものはなにか。
例えば「この歌を1枚の絵にしなさい」。そう言われたら、あなたはどう思いますか?そう、上記の歌は「情景」が浮かんでこないのです。
もちろん第1章 短歌の基礎知識&基本ルール編で前述した通り、短歌で抽象的な言葉遣いの名作がいくつもあることは事実です。ただ、短歌を初めてからずっと「絵面の浮かばない」歌ばかり詠んでいると、発想が煮詰まってそこから抜け出せなくなってしまうことがあります。
では、具体的にはどうすればいいか。まず、1枚の絵か写真を用意する、スマホで撮った写真でも構いません。実際に絵や写真を用意しなくても、印象に残った景色や街ゆく人など、ちょっとした光景を覚えておければ尚良しです。
忘れないようにメモやスケッチをしてもよいのですが、記録せずとも心に焼き付いた「景色」は、あなたの感性に強く訴えかけているので歌にしやすいはずです。
そして、その1枚の景色を見て思ったこと、そこから連想されること、色々書いてみて下さい。7音か5音で成り立っている言葉を探して推敲し、組み合わせていきましょう。
言葉が浮かばなかったら辞書を引いたり、「〇〇 類語」とネットで検索してボキャブラリーを増やしてみても良いと思います。
上記を踏まえて先ほどの短歌を改稿してみました。
少しでもあなたと一緒にいたいのに「用事がある」って言って手を振る
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(少しでも一緒にいたい!)と裏腹にぼっちの私を照らす夕焼け
少々説明を強引に省略しましたが、「一緒にいたい!」と裏腹、つまり自分の意志で「ぼっち」になった私を夕焼けが慰めるように照らしてくれる、という歌です。もしかしたら、何も言えないまま一人でひっそり帰ったのかも、とも思わせる内容ですね。少し読みづらいぶん多義的になったと言えるのではないでしょうか。
冒頭のかっこを丸かっこにしたことで、一緒にいたい気持ちを心の声にすることも出来ました。
(少しでも一緒にいたい!)と裏腹にぼっちの私を照らすコンビニ
帰りの夜道で通ったコンビニが私を照らす。状況設定を夜にすることで、時間設定が遅い時刻でより切実にもなります。
ここまで添削してきましたが、最初の歌のほうがストレートで良い、1回推敲した程度でとどめておいたほうが良かったのでは…という方もいらっしゃると思います。
短歌とは三十一文字の限定された表現方法です。なにかを選ぶと、なにかを捨てなくてはなりません。そういった取捨選択も含め、推敲は短歌の命と言っても過言ではないです。ぜひ時間をかけて楽しんでください!
まとめ
全3回の連載「短歌の最初の一歩を踏み出そう!」もこれにて完結です!
至らない点もたくさんあったと思いますが、短歌の魅力が少しでも伝わっていればいいなと思います。 「短歌はマイナーで古風で、作るのが難しい」と思っていた人もぜひ、これを読んだのを機に、一首詠んでみて下さい。
この記事を書いた人
小田切拓
92年生まれ。「かりん」所属。18歳の時、手に取った雑誌で短歌投稿コーナーを見つけ、歌を詠み始め楽しさを知る。友人が引くほどのサッカーオタク。第29回現代学生百人一首入選。第42回かりん賞受賞。第66・67・68回角川短歌賞予選通過。
Twitter:@rKGlC6f6HEUiU2r
note:https://note.com/takuan12/
自選短歌
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