家電量販店は楽しい。
最新のパソコン、冷蔵庫、洗濯機。
使い込んだ家電にももちろん愛着はあるけれど、やはり最先端の機能には驚かされる。
そして、店頭での配置やキャッチフレーズなど、売り方を観察するのもおもしろい。
では、その楽しさを短歌に詠んでみたらどうなるだろうか?
私は短歌初心者だ。日常的に31文字を生み出しているわけではない。2カ月前にやっと一首詠んだぐらいである。
しかし、こんな短歌ビギナーでも、お外に出かけて新たな刺激を受ければ、おもしろい短歌が詠めるかもしれない。
そこでヨドバシカメラ新宿西口本店に出向き、さまざまな家電を見てきた。店内でわき上がった楽しみや驚き、疑問を短歌に詠む試みである。
現地ですぐに詠めた歌もあれば、帰宅後数日かけて出来上がった歌もある。初心者なので「その場で詠むこと」にはこだわらないことにした。
なお、数ある家電量販店の中から、ヨドバシカメラを選んだ理由は2つある。
ひとつは、店内撮影OKであること。
ヨドバシカメラ店内は自由に撮影してOKです。
お好きな商品や気になるものをスマートフォンで撮って、ツイッターやフェイスブックにどんどんアップしましょう。
きっとたくさん「いいね!」がつきますよ。
写真のアップにはヨドバシフリーWi-Fiをぜひご利用ください。— ヨドバシカメラ【公式】 (@Yodobashi_X) February 4, 2017
もうひとつは、7文字であること。
雲を降りヨドバシカメラ新宿に雷様のねぐらそびえる/フクイチ
さっそく一首詠めた。
※以下、全てフクイチの短歌です。
フクイチ
本名「岩佐 福一」です。平日はプログラミングを仕事とし、休日はプログラミングなんぞにうつつを抜かしております。短歌は座って詠む派です。
Twitter@happy_first
自選短歌
ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師に似てたらいいな
到着
先ほど「ヨドバシカメラ新宿西口本店」と軽く紹介したが、これは非常にざっくりとした呼称である。
なぜなら新宿西口本店は、
こんなにあるからだ。マップの赤い建物が全部それ。
新宿を支配する気だヨドバシはほら攻略度こんなに真っ赤
「すみませんヨドバシカメラどこですか」「どのヨドバシですか」「どのって何」
今回はマルチメディア館北館(マップのN)をめぐることにした。掃除機やテレビなど、身近な家電が集まっているところである。
1階 パソコン
「身近な家電」のはずが、初手からして魔境だった。
くぅ、最新モデルはかっこいい。
精細なディスプレイ、おしゃれなキーボードに引き寄せられる。「DIVE to 沼!!」とは今の私を的確に表現した言葉だ。
私は蛾明るい窓にさそわれて予算は無い蛾買いたくなる蛾
しかし、画面が妙に縦長なのが気になる。店員さんに聞いてみた。
今まで多かったのは画面比率16:9なんですけど、最近3:2のモデルが増えてますね。特にSurfaceは全部3:2になってますよ。
へー、そうなんですね。知らなかった。
この特長はですね、ExcelとかPowerPointを操作するとき、リボン(上部にあるメニュー)が見えやすいんですよ。
ほんとだ、作業しやすいですね。ところでこれ、YouTubeを全画面表示したらどんな感じになるんですか?
あー、YouTubeは横長なので、たぶん画面の上下に黒い帯が入ると思いますね。ちょっとやってみましょうか。
YouTubeを検索する店員さん。
まあ、何でもいいんですけど…
お客さんアンチだったらどうしようポチッとこぼし乃木坂映す
2階 洗濯機
生活感を求めて階段を上がってみた。まずは洗濯機。
最新式の機能が、あの手この手でインパクトを与えてくる。
日立の洗濯機はネーミングで攻めてきた。
な、ナイアガラビート洗浄!よくわからないが強そうだ。中はどんなことになっているんだろう。
ナイアガラビート戦場耐えるんだ日なたは近いあと20分
一方、こちらはシャープの洗濯機。
シャープの洗濯機は槽に穴が無い。
これがカビの防止や水の節約に効果的だという。いいことずくめじゃないか。考案した人はさぞかし出世しただろう。
完璧だ穴が無いとはこのことかって言われたくてデスクでニヤリ
店員さんに聞くと、今の洗濯機は洗剤の自動投入など当たり前になっているらしい。
投入口に洗剤を満たしておけば、洗濯物の量に応じて洗剤が自動で投入される機能である。キャップの目盛り線をにらんで「多すぎたか…ちょっと戻すか…」と白髪が増えそうになる作業を、洗濯機が代わりにやってくれるのだ。
そんな進化した投入口の近くに、なぜかアンパンマンが置いてあった。
国民的ヒーローも興味深そうに見つめている。
濡れちゃった顔は新品すぐ届くそれよりマント洗濯したい
2階 冷蔵庫
ロフトの鏡コーナーかと思った。よく映る。
店頭の冷蔵庫、中身はどうなっているんだろうか。我が家以外の冷蔵庫を開けられる数少ないチャンスだ。
冷蔵庫中身確かめ選ぶとき人は必ずヨネスケになる
それぞれの段に鍋や野菜が置かれ、スペースの広さをアピールしている。
ほうほう、温かい鍋をそのまま入れられるのか。懐が広いぞ。
…待てよ。一番上にあるのは何だ?
すごい!ヱビスビールとキリン淡麗が一緒のケースに入ってる!そんなんあるのか!
メーカーを超えた大胆なコラボだ。スーパーで見つけたら即買ってツイートするだろう。
淡麗が好きだったよな思い出すあつらえ向きのセット見つけて
ふと横を見ると、「冷蔵庫選びのポイント」の説明が。
ドアタイプにはどんなものがあるのか。
右開き、左開き。
そして、えっそれフレンチドアって言うの?「観音開きタイプ」でよくない?
観音様もフランス留学したことがあるんだろうか。
宮殿は100LDK南向き後光良好ですよ借ります
昼食
このあたりでちょうどお昼時である。
カツカレー専門店「新宿カレー」。
カツカレー専門というからには、カツの専門でありカレーの専門でもある。
天は二物を授けてしまうのか。これは期待できるぞ。
しかし、注文した直後に壁を見やると、予想だにしなかった事実が。
え!明日閉店するの?(撮影日は3月14日)
驚きのあまり、店員さんに確認してしまった。
チキンカツカレーお待たせしました~
…あの、ここ、明日閉店なんですか?
…はい…そうですね…
返答に困る質問なぜ聞いた書いてあるのに追い打ちかけて
3階 掃除機
テンション上げてくぞ!
ルンバ登場だ!
アイドルのようにステージ駆け回る今日はルンバのワンマンライブ
最前だ柵の向こうに手を伸ばし憧れだったブラシにタッチ
間奏で \ ルンバ!/ \ ルンバ!/ 煽ってるオタクいいからステージ見ろよ
あっという間にルンバで熱くなった。
おや、あれは何だ?
なんだか変わった形の掃除機だが、これが面白かった。
上に引き上げるとコンパクトな掃除機になり、
手前に引くと長い掃除機になる。
2通りの使い方ができるだけならよくあるが、変形機構が洒落ている。「変な形」と甘く見たのが間違いだった。
パッと見はトロンボーンみたいだけど吹くんじゃなくて吸うんだ俺は
3階 炊飯器
ここが一番すさまじかった。
こちら、象印の炊飯器。
かまどの中で炎が揺らぐ様子を再現したという、その名も炎舞炊き(えんぶだき)!
必殺技みたいな炊き方である。
しかし、他のメーカーも黙っちゃいない。
タイガーが「ご泡火炊き」(ごほうびだき)を繰り出せば、
東芝が「炎匠炊き」(ほのおたくみだき)で応戦し、
パナソニックの「Wおどり炊き」が炸裂する!
書体がいちいちかっこいい!
釜の中戦火が止まぬ米の陣ふりかけを手に決着を待つ
ちなみに、象印の炎舞炊き炊飯器をよく見ると、
隣にマグロアボカド丼が展示されていた。
サンプルにマグロアボカド丼を推す彩りじゃないただ好きだから
3階 たこ焼き器
そんなコーナーあるのか。ヨドバシカメラの守備範囲よ。
ひっくり返すためのピックやソースを塗る刷毛など、たこ焼きの必須アイテムも近くに完備。ヨドバシカメラでたこ焼き発作が出ても安心だ。
…などと思ってたら、
なんか違うのがいた。間違って買う人いたりしないのか。
東京のたこ焼きは細長いのよお店で解けた母の冗談
2階 エアコン
再び2階に降りてみる。
かなり歩き回った。エアコンコーナーでも見て気持ちを整えよう。
全然整わない。なんだこの値札ラッシュは。
主張が激しすぎて、どれが値段かすらよくわからなくなっている。そして肝心のエアコンはどこなんだ。
宣伝に埋もれて顔が見えないと熱い溜息冷たい吐息
ところで、皆さんのおうちのエアコンは何色だろうか。
ここにあるのは大半が白だったが、
ひとつだけ黒のエアコンがいた。
しかし、色が違っても周囲の白い仲間と共存している。現代社会もこうあってほしい。
黒ひとり白の世界に降り立ったこころよい風むかえてくれた
店外 ガシャポン
最後に立ち寄ったのが、店外のガシャポンコーナー。
どれだけ技術が進んで家電が高性能になっても、ギリギリとダイヤルを回す楽しさは変わらない。ヨドバシカメラの陰の主役と言ってもいいんじゃないだろうか。
店外で稼ぎ頭がStand by買うまで中身わからないのに
三枚で子ども心がFly high買うまで中身わからないから
おわりに
ヨドバシカメラを見て回ることで、生まれた短歌は23首。初心者としてはまずまずではないだろうか。
ただし、詠むのに全部で1週間ほどかかってしまった。いい言葉がもっと早く出てくるようになりたいな。
短歌を作る目線でヨドバシカメラを眺めると、おのずと視点を変えてみたくなる。
家電を作った人になったり、家電を売る人になったり、家電そのものになったりする。単に欲しい物を探すときとは全く違う頭の使い方だ。
何より「家電量販店」という、短歌のイメージが無い場所で短歌を詠むのはおもしろかった。これからも意外な場所で詠む企画に挑戦してみたい。
ちなみに、この日私がヨドバシカメラで購入したのは、
ガシャポンで出したすみっコぐらしフィギュアである。
短歌のすみっこを伝えるWebマガジン「TANKANESS」に、はじめて寄稿させて頂きました。
この記事を書いた人
フクイチ
本名「岩佐 福一」です。平日はプログラミングを仕事とし、休日はプログラミングなんぞにうつつを抜かしております。短歌は座って詠む派です。
Twitter@happy_first
自選短歌
ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師に似てたらいいな