ヨドバシカメラの楽しさを短歌に詠む

レポート

家電量販店は楽しい。

最新のパソコン、冷蔵庫、洗濯機。
使い込んだ家電にももちろん愛着はあるけれど、やはり最先端の機能には驚かされる。
そして、店頭での配置やキャッチフレーズなど、売り方を観察するのもおもしろい。

では、その楽しさを短歌に詠んでみたらどうなるだろうか?

私は短歌初心者だ。日常的に31文字を生み出しているわけではない。2カ月前にやっと一首詠んだぐらいである。

一首の短歌ができるまでを2000字弱で解説する|フクイチ
noteやTwitterでつながっている中に、短歌を楽しむ人がけっこういます。 おもしろそうなので、私も詠んでみました。 このnoteでは、一首の短歌ができるまでの製造工程をお届けします。 まずはテーマだな。何の歌を詠もう。 今日のおやつはドーナツだったから、ドーナツの歌を詠もう。 ドーナツ ド...

しかし、こんな短歌ビギナーでも、お外に出かけて新たな刺激を受ければ、おもしろい短歌が詠めるかもしれない。

そこでヨドバシカメラ新宿西口本店に出向き、さまざまな家電を見てきた。店内でわき上がった楽しみや驚き、疑問を短歌に詠む試みである。
現地ですぐに詠めた歌もあれば、帰宅後数日かけて出来上がった歌もある。初心者なので「その場で詠むこと」にはこだわらないことにした。

なお、数ある家電量販店の中から、ヨドバシカメラを選んだ理由は2つある。
ひとつは、店内撮影OKであること。

もうひとつは、7文字であること。

雲を降りヨドバシカメラ新宿に雷様のねぐらそびえる/フクイチ

さっそく一首詠めた。
※以下、全てフクイチの短歌です。

 

フクイチ

本名「岩佐 福一」です。平日はプログラミングを仕事とし、休日はプログラミングなんぞにうつつを抜かしております。短歌は座って詠む派です。

Twitter@happy_first

note:note.com/1s100million

自選短歌

ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師に似てたらいいな

 

到着

先ほど「ヨドバシカメラ新宿西口本店」と軽く紹介したが、これは非常にざっくりとした呼称である。
なぜなら新宿西口本店は、

こんなにあるからだ。マップの赤い建物が全部それ。

新宿を支配する気だヨドバシはほら攻略度こんなに真っ赤

 

「すみませんヨドバシカメラどこですか」「どのヨドバシですか」「どのって何」

今回はマルチメディア館北館(マップのN)をめぐることにした。掃除機やテレビなど、身近な家電が集まっているところである。

 

1階 パソコン

「身近な家電」のはずが、初手からして魔境だった。

 

くぅ、最新モデルはかっこいい。
精細なディスプレイ、おしゃれなキーボードに引き寄せられる。「DIVE to 沼!!」とは今の私を的確に表現した言葉だ。

私は蛾明るい窓にさそわれて予算は無い蛾買いたくなる蛾

しかし、画面が妙に縦長なのが気になる。店員さんに聞いてみた。

今まで多かったのは画面比率16:9なんですけど、最近3:2のモデルが増えてますね。特にSurfaceは全部3:2になってますよ。

へー、そうなんですね。知らなかった。

この特長はですね、ExcelとかPowerPointを操作するとき、リボン(上部にあるメニュー)が見えやすいんですよ。

ほんとだ、作業しやすいですね。ところでこれ、YouTubeを全画面表示したらどんな感じになるんですか?

あー、YouTubeは横長なので、たぶん画面の上下に黒い帯が入ると思いますね。ちょっとやってみましょうか。

YouTubeを検索する店員さん。

 

まあ、何でもいいんですけど…

 

お客さんアンチだったらどうしようポチッとこぼし乃木坂映す

 

2階 洗濯機

生活感を求めて階段を上がってみた。まずは洗濯機。

最新式の機能が、あの手この手でインパクトを与えてくる。

 

日立の洗濯機はネーミングで攻めてきた。

な、ナイアガラビート洗浄!よくわからないが強そうだ。中はどんなことになっているんだろう。

ナイアガラビート戦場耐えるんだ日なたは近いあと20分

 

一方、こちらはシャープの洗濯機。

シャープの洗濯機は槽に穴が無い。
これがカビの防止や水の節約に効果的だという。いいことずくめじゃないか。考案した人はさぞかし出世しただろう。

完璧だ穴が無いとはこのことかって言われたくてデスクでニヤリ

 

店員さんに聞くと、今の洗濯機は洗剤の自動投入など当たり前になっているらしい。
投入口に洗剤を満たしておけば、洗濯物の量に応じて洗剤が自動で投入される機能である。キャップの目盛り線をにらんで「多すぎたか…ちょっと戻すか…」と白髪が増えそうになる作業を、洗濯機が代わりにやってくれるのだ。

そんな進化した投入口の近くに、なぜかアンパンマンが置いてあった。

国民的ヒーローも興味深そうに見つめている。

濡れちゃった顔は新品すぐ届くそれよりマント洗濯したい

 

2階 冷蔵庫

ロフトの鏡コーナーかと思った。よく映る。

 

店頭の冷蔵庫、中身はどうなっているんだろうか。我が家以外の冷蔵庫を開けられる数少ないチャンスだ。

冷蔵庫中身確かめ選ぶとき人は必ずヨネスケになる

 

それぞれの段に鍋や野菜が置かれ、スペースの広さをアピールしている。
ほうほう、温かい鍋をそのまま入れられるのか。懐が広いぞ。

…待てよ。一番上にあるのは何だ?

すごい!ヱビスビールとキリン淡麗が一緒のケースに入ってる!そんなんあるのか!
メーカーを超えた大胆なコラボだ。スーパーで見つけたら即買ってツイートするだろう。

淡麗が好きだったよな思い出すあつらえ向きのセット見つけて

 

ふと横を見ると、「冷蔵庫選びのポイント」の説明が。

ドアタイプにはどんなものがあるのか。

右開き、左開き。

そして、えっそれフレンチドアって言うの?「観音開きタイプ」でよくない?
観音様もフランス留学したことがあるんだろうか。

宮殿は100LDK南向き後光良好ですよ借ります

 

昼食

このあたりでちょうどお昼時である。

カツカレー専門店「新宿カレー」。
カツカレー専門というからには、カツの専門でありカレーの専門でもある。
天は二物を授けてしまうのか。これは期待できるぞ。

しかし、注文した直後に壁を見やると、予想だにしなかった事実が。

え!明日閉店するの?(撮影日は3月14日)
驚きのあまり、店員さんに確認してしまった。

 

チキンカツカレーお待たせしました~

…あの、ここ、明日閉店なんですか?

 

…はい…そうですね…

 

返答に困る質問なぜ聞いた書いてあるのに追い打ちかけて

 

3階 掃除機

テンション上げてくぞ!

ルンバ登場だ!

アイドルのようにステージ駆け回る今日はルンバのワンマンライブ

 

最前だ柵の向こうに手を伸ばし憧れだったブラシにタッチ

 

間奏で \ ルンバ!/ \ ルンバ!/ 煽ってるオタクいいからステージ見ろよ

あっという間にルンバで熱くなった。

おや、あれは何だ?

なんだか変わった形の掃除機だが、これが面白かった。

上に引き上げるとコンパクトな掃除機になり、

手前に引くと長い掃除機になる。
2通りの使い方ができるだけならよくあるが、変形機構が洒落ている。「変な形」と甘く見たのが間違いだった。

パッと見はトロンボーンみたいだけど吹くんじゃなくて吸うんだ俺は

 

3階 炊飯器

ここが一番すさまじかった。

こちら、象印の炊飯器。
かまどの中で炎が揺らぐ様子を再現したという、その名も炎舞炊き(えんぶだき)!

必殺技みたいな炊き方である。
しかし、他のメーカーも黙っちゃいない。

タイガーが「ご泡火炊き」(ごほうびだき)を繰り出せば、

東芝が「炎匠炊き」(ほのおたくみだき)で応戦し、

パナソニックの「Wおどり炊き」が炸裂する!
書体がいちいちかっこいい!

釜の中戦火が止まぬ米の陣ふりかけを手に決着を待つ

 

ちなみに、象印の炎舞炊き炊飯器をよく見ると、

隣にマグロアボカド丼が展示されていた。

サンプルにマグロアボカド丼を推す彩りじゃないただ好きだから

 

3階 たこ焼き器

そんなコーナーあるのか。ヨドバシカメラの守備範囲よ。

ひっくり返すためのピックやソースを塗る刷毛など、たこ焼きの必須アイテムも近くに完備。ヨドバシカメラでたこ焼き発作が出ても安心だ。

…などと思ってたら、

なんか違うのがいた。間違って買う人いたりしないのか。

東京のたこ焼きは細長いのよお店で解けた母の冗談

 

2階 エアコン

再び2階に降りてみる。
かなり歩き回った。エアコンコーナーでも見て気持ちを整えよう。

 

全然整わない。なんだこの値札ラッシュは。

主張が激しすぎて、どれが値段かすらよくわからなくなっている。そして肝心のエアコンはどこなんだ。

宣伝に埋もれて顔が見えないと熱い溜息冷たい吐息

 

ところで、皆さんのおうちのエアコンは何色だろうか。
ここにあるのは大半が白だったが、

ひとつだけ黒のエアコンがいた。
しかし、色が違っても周囲の白い仲間と共存している。現代社会もこうあってほしい。

黒ひとり白の世界に降り立ったこころよい風むかえてくれた

 

店外 ガシャポン

最後に立ち寄ったのが、店外のガシャポンコーナー。

どれだけ技術が進んで家電が高性能になっても、ギリギリとダイヤルを回す楽しさは変わらない。ヨドバシカメラの陰の主役と言ってもいいんじゃないだろうか。

店外で稼ぎ頭がStand by買うまで中身わからないのに

 

三枚で子ども心がFly high買うまで中身わからないから

 

おわりに

ヨドバシカメラを見て回ることで、生まれた短歌は23首。初心者としてはまずまずではないだろうか。
ただし、詠むのに全部で1週間ほどかかってしまった。いい言葉がもっと早く出てくるようになりたいな。

短歌を作る目線でヨドバシカメラを眺めると、おのずと視点を変えてみたくなる。
家電を作った人になったり、家電を売る人になったり、家電そのものになったりする。単に欲しい物を探すときとは全く違う頭の使い方だ。

何より「家電量販店」という、短歌のイメージが無い場所で短歌を詠むのはおもしろかった。これからも意外な場所で詠む企画に挑戦してみたい。

ちなみに、この日私がヨドバシカメラで購入したのは、

ガシャポンで出したすみっコぐらしフィギュアである。

短歌のすみっこを伝えるWebマガジン「TANKANESS」に、はじめて寄稿させて頂きました。

 

この記事を書いた人

フクイチ

本名「岩佐 福一」です。平日はプログラミングを仕事とし、休日はプログラミングなんぞにうつつを抜かしております。短歌は座って詠む派です。

Twitter@happy_first

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自選短歌

ドーナツがココアに酔って歌う声米津玄師に似てたらいいな

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