2019年1月某日、当サイトのボスである歌人・なべとびすこさんから緊急極秘指令がくだった。
「短歌のワークショップに参加して記事を書いてください」
え、わたくし短歌とかやってないし、短歌と俳句と川柳の違いなんか焼き飯とチャーハンとピラフくらいわからないんですけど誰かと間違えてませんか。
しかし、くわしく聞けば「短歌をやったことがない人が短歌のワークショップに参加してどうだったかをレポートしてほしい」とのことだった。
おお、そういうことならおまかせください。短歌初心者の代表として参加し、ちょっとウイットに富んだ短歌を詠んだところ、偉い人たちから「短歌界のスーパーノバや!」と喝采を浴びるところまで想像できました。と、脳内で虚勢を張り、ガッチガチに緊張したまま参加することとなった。大丈夫だろうか。
■もしも短歌がつくれたら
開催地は大阪の谷町六丁目にある複合文化施設「萌」。「もえ」と読みたい気持ちをぐっとこらえて「ほう」と読む。
今回の短歌ワークショップはその一室にある「往来」というコワーキングスペースで行われている。
もはや後戻りはできない。意を決して門をたたいた。
実際は門とかないので引き戸を引いて「こんばんは」と言った。
ワークショップ名は「もしも短歌がつくれたら」。その名からイメージできる通り、短歌初心者向けのワークショップである。よかった。
本日のメンバーは8名。そのうちガチ初心者は私を含め2名。まずはそれぞれの自己紹介があり、なごやかな雰囲気で会がはじまった。
まるで学校の授業のようにすらすらと説明されていく。
参加者の質問にもよどみなく答え、台本があるんじゃないかってくらい歌人の名前や短歌がするすると出てくる。
これはえらいところに来てしまったんじゃないか。
ほうほうと解説を聞いていたら短歌のことをずいぶんわかったような気になった。
そうか、短歌は自由なんだな(拡大解釈っぽいが本当にそう言っていた)。
「知っている歌人はいますか?」の問いに沈思黙考した末、「なべとびすこさん」と答えてしまった。知っているもなにも目の前にいる人だ。
その後に俵万智さんの名前が出た。サラダ記念日の人だ! そうか、あの人も歌人だ。
ひとしきりそんなやりとりをして、いよいよ創作タイムに突入する。
■小説をつくる
しかし短歌を作るにあたり、素人にいきなり詠んでくださいと言うのもむちゃな話である。もじもじしているうちに夜が明けてしまいました! ということになりかねないので、まずは元になるみじかいお話(小説)を書きましょう、とのこと。
なるほどなるほど、小説の情景や感想を短歌として詠むならちょっとできそうな気がして…いやいやちょっと待ってください。その小説も自分で考えるんですよね。それってハードルの高さは変わってないですよね。なにを言っているんですか。
だがよくよく話を聞くと、キーワードが書かれた紙を2枚引いて、その言葉を使って小説を考えるらしい。創作でもいいし、昨日今日とかにあったできごとにからめたりしてもいいと。
おお、ハードルが2センチくらい下がったぞ。
キーワードが書かれた紙をくじ引き形式で選ぶ。
こういう時っていつも「いいの引いてやるぞ」と息巻くけれど、いいのを引いたためしがない。そもそも今回は「いいの」の基準がわからない。
そんなことを考えていたら「あたり」を引いてしまった。これはいわゆる「いいの」じゃないか。いったい何があたったのか。米10kgとかだったら持って帰るのたいへんだな。
もう一枚には「馬」と書かれていた。
キーワードが「あたり」と「馬」だと競馬しか思い浮かばない。それって普通すぎやしないか(普通でいいんだぞ)。
あとは流鏑馬かなと思ったが、なじみがなさすぎて話が作れない。
それならばもう1枚引きなおそう。
そうなのだ、ピンとこなければ何度でも引きなおしていいシステムなのである。10,000回ダメでも10,001回目は何か変わるかもしれないのだ。
結果、馬と帰り道になった。競馬のままでよかったんじゃないか。
まわりを見ると、もうみんな書きはじめている。いつまでもここでふにゃふにゃしているわけにはいかない。よっしゃ、これで書くぞ!
まずい、なーんも思い浮かばない。
となりをちらりと見ると紙の裏面まで使っていた。オーマイガー。
もうひとりの初心者の方も順調に書き進めている。
小学校のころに作文が書けず、泣きながら「ぼくは、」とだけ書かれた原稿用紙を提出した思い出がフラッシュバックした。
なんやかんやで一旦書きはじめると、するする書けるものである。
ちょっとでもいい言葉が出るように東京大学のボールペンを持ってきてよかった。もちろん母校ではない。
書いた内容は以下の通り。
あれは中学二年の冬だった。いつものように部活を終え、友達とたわいもない話をしながら帰路についていた。時刻は午後七時。わりと田舎の方なので、あかりといえば電灯がぽつぽつとあるくらいだ。いつもの角で友達と別れるとあとは一本道。あゆみを速めていくと前方に光が見えた。二つだ。近づくにつれ、気配も感じた。「あ、馬だ!」と気づいた瞬間、馬がいなないた。ヒヒーン!
ここで時間切れだ。
いくら田舎だとしても道端に馬がいる状況ってあるのか。
あくまで創作なので、そのへんは深掘りしないでほしい。
次は各自、順番に文章を読み上げていく。
ひとり読みおえるごとに感想を言い合う。
否定する言葉がまったく出ない、みんなが褒めて褒められるやさしい世界だ。今までの不安と緊張が雲散した。
ただ、小説ができたことでうっかり満足してしまったが、ここまでは準備段階である。
これからその小説をもとにして短歌を詠むという本日のメインイベントが待っている。
■いよいよ短歌
ここで短歌の作り方をざっくりと説明してもらえる。
上の写真は、文中にある5文字と7文字のかたまりを並べたら短歌になった例。超簡単!
さらにファシリテーターである牛さんが、それぞれの文中にある短歌に使えそうな言葉をピックアップして「この言葉いいですね」とか「この単語は使いたいですね」みたいなアドバイスをくれる。
短歌が作れるかまだ正直不安だったが、これにより道筋が照らされた。めっちゃありがたい工程である。
しばらくのち、できあがった人から短歌を発表していく。
ホワイトボードに書き出して、みんなで感想を言ったり、ここはこうしたほうが良くなるんじゃないかと添削したりする。
単語を変えたり、表現を変えたり、順番を変えたり。これだけでびっくりするほど良くなる。
あ、これが編集か!すごいな編集!
短歌を発表する時と、みんなであれこれ言っている時がいちばんの盛り上がりをみせた。
歓声、唸り、笑いが渦巻く。ちょっとしたフェスティバルだ。短歌ってこんなにおもしろいコンテンツだったとは…!
全員の分を紹介するのもアレなので代表して私の短歌を発表したい。
暗闇で気配に気付く「あ、馬だ」ぼくが叫んで馬がいななく
これが添削でこうなった。
暗闇で近づく気配「あ、馬だ」ぼくが叫んで馬がいななく
「気配」だけで気付いたことがわかるので、その部分の表現を変更したことにより流れが良くなった。これを言われた時、ぞくぞくした。この心境こそ「マジ卍」だと思う。人生初のマジ卍がここで出た。おい、短歌が詠めたぞ!めっちゃ楽しいぞ!
かくして、はじめての短歌ワークショップはおひらきとなった。
ずっと参加者の顔が写らないように撮影してきたが、最後に全員顔出しOKということが判明した。
せっかくなので記念撮影をして終わりとしたい。
ありがとうございました!
■まとめ
はじめは「つくれなかったらどうしよう」という不安があったが、ワークショップの流れに身をまかせていたら、いつの間にか短歌ができていた。
できるかなと不安に思うより、実際体を動かしてみれば案外なんとかなるものである。そんなことわざもあったっけ。
ちょっと楽しすぎたので取材とか関係なく本気でまた参加したい。
■後日談
「また参加したい」と言って実際は参加しないのが世の常であるが、1ヶ月後、本当に参加した。それくらい楽しかったのだ。
あとちょっとだけ書かせてほしい。
1回目と同じ流れで、引いたキーワードは「エアコン」「コンタクトレンズ」。
小説を書いて、できた短歌がこちら。
エアコンとコンタクトのコンいっしょかないっしょじゃないかないっしょじゃないな
「IQ2の短歌ですね」との賛辞をいただいた。バカの短歌ができたと思っていたのでうれしい。
これが添削によりこうなった。
エアコンとコンニャクのコンいっしょかないっしょじゃないかないっしょじゃないな
英語の「con」はもしかしたら深いところで語源がいっしょかもしれないので、片方を日本語にしたらいいんじゃないか。というやりとりがあって、コンタクトがコンニャクになった。
ほら、IQ2の短歌にもこんなに真摯に向き合ってくれるワークショップって最高じゃないですか?
もしも短歌がつくれたら
https://ourai.jimdo.com/himakatsu/tanca/
コワーキングスペース往来
https://ourai.jimdo.com/
この記事を書いた人
高下 龍司(koge)
「まあいっか」「わかっちゃいるけどやめられない」「他力本願」を心のクリーンナップに据える会社員。隙あらばアルコールを摂取するので基本電車か徒歩移動。
Twitter @kooooge
自選短歌
エアコンとコンニャクのコンいっしょかないっしょじゃないかないっしょじゃないな