月吠え歌会 – 新宿ゴールデン街のプチ文壇バー『月に吠える』に行こう

レポート

 短歌初心者のCooley Gee(くーりー・じー)です。

 

 前回、『大阪の短歌ワークショップ「もしも短歌がつくれたら」に、東京から乗り込んだ話』という記事をTANKANESSで書いた。そのとき、関東周辺にも歌人が主催する初心者さん大歓迎なワークショップはないだろうか……? とボヤいておいたら、さっそく情報をいただいたゾ!

 新宿ゴールデン街にある、日本一敷居の低い文壇バーこと『月に吠える』にて、歌人の伊波真人さんを迎えた『月吠え歌会』が開催されると。かれこれ過去5回ほど歌会をひらいているそうだが、およそ2年間、音沙汰がなかったところ再び浮上! 我ながらナイスタイミングな「引き」である。

 

 『月吠え歌会』は、その日の気分でふらっと立ち寄れるわけではない。

 ① peatixアプリでチケット代(500円)を事前に支払って参加表明をする。

 ② 提出期限までに「宿題」をきっちりメール送信する。

 この2点が揃ってはじめて参加が受理されるしくみだ。

 

 今回、課された宿題は2つあった。

 「夏」をテーマにした短歌を一首、自由なテーマでの短歌を一首を詠むことだ。それらの作品を、提出の締め切り日までに主催者宛てメールを送っておけばOK。あとはイベント開催時刻に『月に吠える』の席で待機していればよい。なお、どんな人がくるか、どんな作品にふれられるかは当日になってのおたのしみ。

新宿ゴールデン街の出入口にあるマップ

 7月某日、午後3時前という、まだ空の明るいときに新宿ゴールデン街へと足を踏み入れた。

 実は、わたしとしてはめったにくることのない場所である。お酒がひじょうに弱く、本の虫でもなく、骨太な経験談を語れるわけでもないじぶんには用のない場所と決めつけていたせいだ。でも、そんなことはないのかもしれない……。なぜなら、

 ① 『月に吠える』は、日本一敷居の低い文壇バーを自称するところである

 ② 『月吠え歌会』は、「未経験~初級者の方、歌会が初めての方も歓迎!」である

 

 「怖がらずに来てみなよ!」と、手招きをされている感じがしたのだ。

 いやあ、うれしいっ……! 「スキ」とか、「語りたいキモチ」があれば誰でもその独特な空気を味わえるってことでしょう? わたしだって、行っていいんだ。

プチ文壇バー『月に吠える』の玄関先

 約10分前の到着。バーの玄関をくぐると、すでに何名か席についていた。

 よしよし、いい感じだ。この、「少人数イベントどれくらい前にログインしておくか問題」だが、わたしはいつもそれくらいの塩梅を保っている。みなさんはどうだろうか。30分前じゃ早すぎるし、20分でも手持ち無沙汰、15分だと席の譲り合いとかで悩みそう、5分だとギリギリで焦る、なので10分。こういうささいなチョイスの仕方ですら短歌のネタになりそうっておもっちゃう。

 

 カウンターに並ぶ本を手にとり、読んでいるふりをしながらそんなことばかり考えていた。

 正直、こういう場で落ち着いて文字を追うのって、むちゃくちゃ苦手なのだ。歌会のように、「今は、そういう時間ですよ!」と雰囲気を作ってもらわないと言葉に集中できない。ひとりで黙々と読みふけっちゃって本当にいいのかな? と、おもってしまうのだ。これも、わたしが個人的にブックカフェや文壇バーで本を片手にまったりするという発想になりにくい理由の1つかもしれない。

 

  そうこうしているうち、わたしの次に来店した男性が、入ってすぐの席についてすぐこう言った。

 「あれ? 歌会をやる日でいいんですよね。みなさんそうですか?」。そうですよ、と返した。珈琲を淹れてくれているバーテンダーに、マスターがまだ来てないんですね、もう時間だけど間に合うのかなとか言って場を和ませてくれている。きっと、バーの常連さんなのだろう。

 そして、わたしが持っていた短歌ムック『ねむらない樹 vol.1』(書肆侃侃房)を見て、「あっ、その本。今日くる歌人の伊波真人さんが載ってるヤツですよね」と。へえ、そうなんですねと返し、インタビューのページをひらくと、どこかで見た顔。どこで見たんだっけ。心がざわざわするなか、どうにもおもいだせずにいたとき、マスターが到着した。

午後3~5時のあいだ貸し切りで歌詠みイベント

 さあ、『月吠え歌会』のはじまりだ。

 8つの席は、すべて埋まっていた。それどころか、さらに訪問者が。ひとり座れなくなるのでは? となったとき、先ほどの常連とおもわれる男性が「あっ、じゃあぼくが立ちます、カウンターのほう行きますね。いちおう進行役なので」と言うではないか。

 

 その瞬間、ようやく気付いた。

 先ほど、どこかで見た顔とおもっていた男性は、彼本人(伊波真人さん)だったのだ……と! 

 

 ビビるというか、わらってしまった。わたしだけ、「あなたのことは存じ上げておりませんが歌会まで来ちゃいました」というのが完全にバレてしまったのだ。あーあ、わたしってそういうヤツだよ。そのまま息つく間もなく『月吠え歌会』がスタートを切っちゃったので、むしろ緊張感が爆下がりした。とりつくろうものなど何もなかったけれど、本当にまっさらな状態で挑めるなあ、と。

短歌ムック『ねむらない樹 vol.1』(書肆侃侃房)の表紙

 歌会にはいくつかのルールがあるらしいが、伊波真人さんがエスコートする『月吠え歌会』は、以下の手順で進められた

 ① 全員があらかじめ作品を詠んでくる

 ② 提出作品を、歌会でそれぞれが熟読する

 ③ 各テーマごとに「良い」と思う一首を選ぶ

 ④ 選んだ作品について感想や意見をのべる

 

 「初心者」というくくりでも、わたしのように本当に今まで何もしてこなかった「未経験者」寄りの人もいれば、ふだん詩をよんでいるけれど短歌にも興味を持ちはじめたという人、毎日のように読む習慣はついているけれど経験は浅いという人など、「実践の度合い」には多少の幅がある。ただ、みなさんこうやって歌会に集まってきた同志なので、驚くほど話が弾む。わたしの場合、人見知りが発動する前に「ええい、どうにでもなれ!」状態になっちゃってたわけだけれども(笑)。

 他人が詠んだ短歌への評は、伊波さんから「どうおもいますか?」と名指しで訊かれたり、「何か言いたくなっちゃった人は?」と問われたりするなかで、「わたしはこう感じた」というのをどんどん口にしていった。まわりの視点が新鮮で「なるほど、そういう捉えかたもあるか!」と、ふむふむ首を上下するリズムが止まらなかった。あれは、本当に楽しい!

『月に吠える』の看板デザインかわいい!

 プチ文壇バー『月に吠える』では、『月吠え歌会』に限らずさまざまなイベントが行われている。

 日によってカウンターの中に立つ人が変わるらしい。だから、どの曜日に行くかで馴染みのお客さんも少し変わってくると聞いた。同じ文壇バーなのに、「人」や「行事」によって集まってくる顔ぶれが変わるというのがすごい。

 今回のような短歌を詠んで評する「歌会」というと、なんとなく渋くて大人びた感じがする。もしかすると、若い人は寄り付かないのでは……? なんて勝手なイメージを持ってしまう。しかし、この度の『月吠え歌会』で、未成年者から大学生、社会人(10代~40代程度)まで年齢にはバラつきがあった。

 詠まれた歌で「人となり」をみようとすると、実年齢なんて本当に意味のないものにおもえてくる。わたし自身、30代後半だけど、なんだかいちばん人生経験の浅そうな短歌だったと思う。とっさのおもいつきを、ただ5・7・5・7・7にあてはめちゃったというのが実のところで、熟考した跡のないあたりがまさに未熟者って感じだなあ、と。

メガネがお似合いです!と伝えるとにっこりの伊波さん

 先に伝えておくとわたし、『月吠え歌会』では、伊波さんやマスターを含め誰からも「良い一首」で取り上げてもらえないくやしさを味わった。「誰にも引っかからなかったものを評する役目を担った人」は、これをどう処理するんだろう? と、他人事ながらドキドキさせられるという、居心地のわるい思いもした。それでも、声に出して詠んで評価がグッと上がるものもあると分かったし、どこでどうひっくり返るか分からない。それに、「歌を詠む人々」に何かを言ってもらえることそのものが刺激的で、クセになりそうだ。

 

 さて、わたしの作品はこちらだ!

 ① 「夏」がテーマの短歌

 「変身」のシーンがダダ漏れてしまうのSNSの夏の罪だな

 月吠え歌会の皆さんからは、以下のようなコメントをいただいた。

・特撮戦隊モノの変身シーンや、おんなのこがメイクで変わるところを思い浮かべた

・なにが「罪」につながるのか分からない

・もしかすると、カフカの「変身」と関係があるのでは?

 わたしが想定していたイメージとは違っていたが、あとで意図を伝えるとはじめて「アァー!」と納得された。

 

 そして、実際に、わたし伝えたかったことはこちら。

 実は、わたしは1980年生まれで、小学・中学・高校のあいだはインターネットがない時代を生きてきた。「夏休み」になれば、部活が一緒だったり、なかよくしている友だちでもない限り、そう何度も顔をあわせることはない。それが普通だった。だから、30日間以上ある夏のあいだ自分にどんな「変化」があったかを、9月になって初めて目の当たりにする人のほうが多かった。ほどんどの人には知られず驚くべき「変身」を遂げる、それが一種の快楽でもあった。しかし、今はどうだ。SNSの到来で、他人のようすが刻一刻と流れてきてしまう。もちろん、そこに情報を求めず、自分もネタを流さなければいいのは分かっている。ただ、ちょっとでも触れたらすべてがみえてしまうこともある今の状況を作っちゃったのは、「SNSの夏の罪」なんじゃないかな、と。

 意図を伝えると、

 「そういえば、夏休み明けに茶髪になってる子とかいましたね」

 「いましたねえ!そういう変身を解くのを忘れていて、先生に怒られたり」

 と、30代くらいの人がけっこうワイワイ反応してくれた。いまや、SNSによって分単位で他人の行動や変わりゆくさまを簡単に目にしてしまえる時代なので、その過程がダダ漏れになっているのがあたりまえの現状に、少しさみしさのようなものを感じる、と。

『月吠え歌会』で飲めた珈琲メニューの一覧

 負け犬の遠吠えのようになるけれど、「重み」や「深み」ばかりが短歌のいいところではない……、とは思っている。さらっとさくっとふわっとした感情をスパーン!と表現し得るところも魅力のはずだ。まあ、それができて共感を得ていればエンゲージメントの高い短歌になっていたのだろうけれど。くそう。

 

 ……さて、わたしの作品はこちらだ!

 ② 「自由なテーマ」の短歌

 国民のみなさんわかってくれますか「推し」を押すワケ。はい、リツイート

 月吠え歌会の皆さんからは、以下のようなコメントをいただいた。

Twitterをネタにしているのが現代風である。

SNS関連ワードが登場しやすくなっていることに時代を感じる

「推し」というとアイドルを思い浮かべる。

熱い想いよりも、さっさとリツイートしてほしいというなげやりな感じがある。

選挙の投票日が近いので「国民」と関係あるかも。などなど。

 

 そして、実際に、わたし伝えたかったことはこちら。

 まさに皆さんのおっしゃる通りで、自分の言いたいことだけが拡散されたらそれで満足とでもいいたげな人たちのことを詠んだ。なるべくなげやりに、棒読みでダラッとログが流れるように読んでほしい。

 「国民」と大きな対象でくくったのは、嫌味である。個人かつ匿名の発言内容が誰にでも広く散布されて当然だとおもっているさまをみるとちょっと苦笑してしまう気持ちを伝えたかった。「みなさんわかってくれますか」のところだけ漢字をひらいて読みやすくしたのは、中身のなさをビジュアルで訴えたつもり。

 くうーっ、説明がむなしい。精進します……ただ、「何を言っているのか、伝えたいのかまるで分からない」という評でなかったのは、とてもうれしい。

 

 はじめからおわりまで、わたしはことあるごとに、「また歌会をひらいてくださいね!」と、伝えていた。

 もちろん、自分がここにくることになったきっかけが、TANKANESSという短歌のWebマガジンにあることもしゃべってきた。特に、大阪のコワーキングスペース『往来(おうらい)』で行われた短歌ワークショップ「もしも短歌がつくれたら」と同じような取り組みをしている東京の歌人がなかなかいない、という点を強調しておいた。伊波真人さんには、ぜひ『月吠え歌会』を継続&定期開催してほしい!!

 ……と、思っていたところに朗報である。

 201997日(土)1519時に、またもや『月吠え歌会』がひらかれるそうだ。プチ文壇バー『月に吠える』のTwitterリンクを貼っておくので、気になるかたはぜひ参加してほしい! 

この記事を書いた人

Cooley Gee

フィールドワークの途中で迷子になるひと。
さんぽの横歩きをしている。
ビリヤニとカレーをよく食べる。
座右の銘「好奇心が足りまへんなあ」

ブログ:note「502」

Twitter ID @CooleyGee_ff14

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