「あなたの29年間は」企画 <5>夏山栞さん、山川築さん

お知らせ

平成2年(1990年)生まれの歌人が、「自分自身の29年間を振り返る短歌を詠む企画」、「あなたの29年間は」、今回で5回目です。

今回も、

・自身の29年間を振り返る境涯詠(短歌20首連作)
・ミニエッセイ

をご紹介します。

第1回 神丘風さん、嫉妬林檎さんの作品はこちら

第2回 のつちえこさん、御殿山みなみさんの作品はこちら

第3回 なべとびすこさん、継野史さんの作品はこちら

第4回 山下翔さん、西村曜さんの作品はこちら

夏山栞

『葛根湯ドリンクは甘いんだと思う』

 

 

はつ恋は強いて言うなら葛根湯みたいな味だった気がしている

 

上京をした日の写メの細すぎる眉毛がばかみたいで愛しい

 

あたらしい私のためにマツキヨではじめて買ったラメのきらきら

 

かわいいをあきらめきれずこの角度からの自撮りばっかり増えてく

 

ドーナツの輪をあっさりと破壊するやつらに理解されてたまるか

 

百円を節約してる日々だけど手相的には天下が取れる

 

あんな奴わすれちゃいなよサビ以外鼻歌になる洋楽みたいに

 

これだからゆとりは駄目と叱られるあいだも宇宙は拡がってるし

 

受付の永山さんは辞め私語をしないペッパーくんが残った

 

元カレの別にうまくもないギターで語られちゃったあれもまあ愛

 

千年後をかしみたいに教科書にえもいって載るのめっちゃエモいな

 

ドロケイのヒーローだった山本をこんな記事では見たくなかった

 

消える色ペンで書かれただれかからの寄せ書きだった余白のかたち

 

父ほどの年齢である非正規の森さんと食うしずかな牛丼

 

新人が会社を辞めて加湿器の水をあの子が替えてたと知る

 

悪役であれよ東京なんで今ちょっとやさしい目をしたんだよ

 

結婚のはなしされるのが面倒で架空の彼氏が五人ほど居る

 

地上波で省かれてしまうシーンだなわたしが悩んでいるとこなんか

 

たぶん楽しいんだと思う 葛根湯ドリンクは甘いんだと思う

 

来世ではケーキの上のいちごだけこっそり食う妖怪になりたい

 

狂騒の二十代 

人生どうですかと聞かれたら、楽しいですと答えるんだと思う。

大学進学とともに上京して、気付けば十年以上が経っていた。渋谷を迷わず歩けるようになったし、不安なく暮らせる給料は貰っているし、このまま独身だったら皆で一軒家買って老人ホームにしようなんて軽口を叩きあう友達もたくさん出来たし。伊勢丹で新作のコスメを買って、それをインスタに投稿して、ボーナスで旅行して。たぶん凄く恵まれていて、もしかするとちょっとキラキラしていて、きっと、なりたかったわたしに近づいているんだと思う。

ただ最近、ふと立ち止まりたくなることがある。二十九歳。来た道が正しかったのか、ゆく道が正しいのか確かめたいのかもしれない。

でもこれまでブレーキ機能のない生き方をしてきたから、止まり方がいまいち分からない。後ろからむなしさや後悔のようなものがすごい速さで迫ってきていて、立ち止まった瞬間のみ込まれてしまいそうな気がするのだ。

二十九歳。この前行った街コンではもうおばさんで、地元の友だちはとっくに子供を産んでいて、仕事ではまだまだ未熟な若造だ。むずかしいな、と思う。思いながら、取り敢えず走っている。むなしさに追いつかれない速さで。

明日もネイルを替えに行く。だから楽しいですと答えるんだと思う。

『葛根湯ドリンクは甘いんだと思う 』夏山栞 作者紹介

2017年頃よりインターネット上で短歌を詠みはじめる。無所属。ネット歌会『うたの日』を中心に作品を発表中。30歳になる前にやりたいことは魚卵と白子とビールを好きなだけ摂取するプリン体パーティー。
1990年11月15日生まれ。

Twitter @72yama_tanka

自選短歌

やさしくはないよ世界の右上に×があったらもう押してるよ

 

山川 築

列に加はる

 

 

双子として生まれしわれは三つ子として生まれしことを偶に夢想す

 

駐車場を潰して建つる家のごとわれのことばは訛りを帯びき

 

サイレンススズカの事故を宿題の日記につひに書きえざりけり

 

兄は金をわれは銀をぞもらひたる『ポケモン』発売日が誕生日

 

「ローリング・スッテンコロリン」ボーカルのミック・ジャガイモ化粧濃かりき

 

探偵より怪盗が好き刑務所に今もゐるのか二十面相

 

すさまじき音痴の男アメリカをメリケンと呼びし宮嶋くんは

 

嵐の日のスペースシャワーに映されし山本晋也と巨大ザリガニ

 

桃鉄の知識が役に立ちしこと高校入試唯一の記憶

 

自由律短歌読みつつ思ひ出す『容疑者Xの献身』論争

 

ムジカフィクタパレストリーナポリフォニー呪文のごとく聞き流したり

 

会場行きのバスの暑さにへたばりぬ大学入試唯一の記憶

 

じわじわと天気崩るる真つ昼間金沢カレー食ふ発作のごとく

 

個人練習みじかく終へて帰りたり車の音は雪に吸はるる

 

「タイムスリップ・コンビナート」を読みたれど望郷の念なにも浮かばず

 

退学の理由を問はれ口ごもる 自動扉に蝿がぶつかる

 

顔も名前も覚えてをらぬ同輩とおどおど話す閉店間際

 

大怪我も大病もなく過ごしきていま舌先がもぞもぞとせり

 

「建築の築と書きます」なめらかに電話口にて説明したり

 

しづやかに水廊を行く人々の列に加はる八月の夜

わたしと音楽

幼いころに聴いた音楽で最も記憶に残っているのは、アニメ『ポケットモンスター』のCDである。主題歌を集めたものよりも、悪役のロケット団を主役にしたものの方が好きだった。彼らのテーマソング「ロケット団よ永遠に」はいまだにセリフを含めてすべて歌うことができる。名曲である。

中学生のころ、音楽専門チャンネルを視聴するようになり、地上波のテレビやヒットチャート以外にもたくさんの音楽があることに気付いた。BUMP OF CHICKENを知ったし、GRAPEVINEにも出会った。中村一義、POLYSICS、ギターウルフといった人たちの音楽は、今までまったく聴いたことにないようなもので、面食らったことをよく覚えている。

高校二年生の春、合唱部に入った。ルネサンス時代の曲も歌った。古い音楽には古い音楽に合わせた演奏法があり、そのような指導もされたと思うけれど、当時はろくに考えもせず歌っていたに違いない。

最近は、定額ストリーミングサービスに加入して、よく音楽を聴いている。アニソンもあれば、日本のロックもあるし、ルネサンスの合唱曲もある。すばらしい。

『列に加はる 』山川築 作者紹介

三重県生まれ。未来短歌会所属。二〇一八年、第六十四回角川短歌賞を受賞。動物のお医者さんとMOTHER2が大好きです。1990年11月21日生まれ。

Twitter @Wonderful_Maze

自選短歌

東京は遠近感の乱さるる街と思へりビルを見上げて

次回予告

次回は11月11日(月)の公開を予定しています。

 

*「あなたの29年間は」連載、まとめて読むにはこちらから

タイトルとURLをコピーしました