短歌の「連作」ってどうやってつくるの? ~短歌連作ドラフトをやってみた~

企画

こんにちは。「かりん」の貝澤駿一と申します。(「かりん」というのは「結社」の名前です。タレントでいう「松竹の~」くらいに思っておいてください。)

ネット上では本名の下の名前だけを使っていることが多いです。よろしくお願いします。

 

さっそくですが、この記事をお読みの皆さんは、短歌の「連作」についてどのように思っているのでしょう。むずかしそう、私にはまだ早いかな。興味はあるけど30首も50首も短歌を用意できない…という意見もあると思いますが、そもそも「どんな風に連作をつくればいいかわからない」という疑問をお持ちの方が多いのではないでしょうか。

ちなみに、ここでは、「そもそも連作って何…?」という方のために、短歌の「連作」を、<複数の短歌作品をまとめて一つの作品として発表する>ものであると定義しておきましょう。

 

ぼくが短歌の初心者の方から受ける質問の多くは、この「連作の作り方」に関するものです。しかし、ぼくが思っている「連作の作り方」はとてもあいまいで、感覚的で、簡単に言語化できるものではなく、その質問に答えることはとてもむずかしいのです。

 

そこで、<実際に歌人が連作をつくっている場面をリアルに記録してみよう!>ということで、この「短歌連作ドラフト(略して連ドラ)」という企画を思いついたのでした。

短歌連作ドラフト

そもそも連作って…?

くりかえしになりますが、短歌の「連作」というのは、どのような形のものを指すのか、ここで確認しておきます。

連作という形式が、短歌史上に現れてきた話をすると、ぼくなんかではとても太刀打ちできない遠い話になります。しかし、ごく一般的なことを言えば、連作とは複数の短歌をまとめることによって、その作者独特の世界観やテーマ性を伝えるものである、となるでしょう。
(連作の短歌史的な「定義」を知りたい方は、短歌総合誌の特集記事や時評など、もっと詳しい文献を読んでみてください)。

 

新聞や雑誌、ラジオやテレビ等に投稿するときや、歌会で自分の歌を批評してもらうときは、その短歌1首の完成度で勝負しますよね。
しかし、連作はそれが20首、30首、50首…と積み重なって、その中での相互作用やテーマの統一性、文体、バランスなど、あらゆる要素が評価の基準となります。歌人としての総合力が試されているといってもいいかもしれません。各短歌総合誌が主催する新人賞や、結社内の賞などは、基本的にこの「連作」単位で設けられています。

 

すこしハードルが高くなってしまったでしょうか…。もっとも、「評価」にこだわらずに連作をつくることはとても楽しい作業です。最近では短歌連作サークル『あみもの』など、誰でも連作を投稿することができる媒体もありますし、作った連作をコンビニで出力できるネットプリント同人誌Twitter上で発表し、相互に読み合うことも容易になっています。

 

で、今回の「連ドラ」は、「連作をつくるときの歌人の頭の中をのぞいてみる」というコンセプトです。結論から言うと、「連作」をつくるにあたって考え方は二つ、「テーマ/物語重視」と「いい歌重視」という大きな軸足の違いがあるということが示唆されました。それでは、前置きが長くなりましたが、その様子を見てみることにしましょう。

短歌連作ドラフトスタート!

先行する実践があるかどうかはわからないので、今回はとりあえずぼくの判断で、以下のような手順を踏んでやってみることにしました。

<連作ドラフト>のルール

  1. 筆者が自作の短歌111首を用意し、リスト化して参加者に事前に配布する
  2. 参加者はリストの歌の中から、「これを指名して連作に使いたい!」という歌を10首選ぶ。表記を変えることはできない。
  3. 選んだ歌を1首ずつ発表し、被りがなければそれを獲得できる。被った場合は抽選を行い、外れた人はあたらしく歌を選びなおす。
  4. ③を10回くりかえし、全員が10首指名し終わったら、それらを並び替えて10首連作にする。表題(連作のタイトル)は指名した歌に使われている言葉の中から選ぶ。

 

プロ野球のドラフト会議と同様、欲しい歌はなるべくはやく指名しなければいけませんし、指名がかぶったり先に取られてしまったりした場合は、戦略の立て直しが求められます。みんな「結構頭を使う…」と終始うなりながらも、楽しそうに参加してくれたのが印象的でした。

なお、今回は記事にするということで、著作権の問題を避けるため、すべて本記事の筆者の短歌を使いましたが、「次はぼくの短歌も使ってほしい!」「私も!」という感想が多数出ました(笑)

気心の知れた仲間同士、歌を提供する人を変えて、くりかえしやってみるとおもしろいかもしれないですね。

 

白熱の上位指名

今回協力してくれたのは、「心の花」の月丘ナイルさん、「かりん」の郡司和斗さん、「未来」の田中翠香(あひるだんさー)さん、そして、文芸サークル「未言屋」で活動している奈月遥さんの4名です。

「心の花」「かりん」「未来」…というのは、冒頭でも少し出てきた「結社」の名前です(ほかにもたくさんあります)。「結社」についてもう少し説明すると…まあ、それも他の詳しい文献に譲るとして、ここでは「歌人が毎月自分の短歌作品を発表するための場所」とでもしておきましょう。

 

今回は、それぞれの結社で活躍し、連作を作り慣れている月丘さん、郡司さん、田中さんに、連作をあまり作ったことがないという奈月さんと、企画にとって大変興味深いメンバーに参加していただきました。ちなみにですが、このメンバーは全員が、東京で定期的に開かれている「わにたん歌会」の常連参加者です。互いに気心が知れた仲といえますね。

 

事前に候補リストは配っているので、さっそく1巡目指名に入ります。お互いにどんな連作をつくるつもりでいるのか、まだ手探りの状態…。そのなかでの1巡目というのは、「自分の連作にもっともふさわしいと思った作品」なわけですから、現場に緊張が走ります。

 

記事にするためにスマホをボイスレコーダー代わりに使っています

見切れているのが候補作のリストです。各自異なる色の付箋を使って指名を行います。頭を使うのでチョコレートなどの糖分が欠かせません

 

さて、1巡目指名は以下のようになり、重複(抽選)はありませんでした。

 

四限目のspeak spoke spoken春の廊下にひびきわたれり(田中)

(ここまで津波がやってきました)海風にさびついていくその掲示板(月丘)

嘘つきはマザー・グースのはじまりと嘯くきみにアール・グレイを(奈月)

そこにいるぼくらはただの影だった東京タワーのイルミネーション(郡司)

  

四者四様の歌が選ばれたので、この時点で互いの連作が示す方向性は何となく共有されたように思います。次の2巡目指名も見てみましょう。

 

ていねいに<生命>という文字を書く書写の授業のしずかなる海(田中)

知らなくていいけどきみがぼくを呼ぶその手の振りが鳥の手話だよ(月丘)(郡司)

海からの手紙によせてぼくたちの古いラジオの詩を伝えよう(奈月)

 

「鳥の手話~」の歌で月丘さんと郡司さんが重複し、初の抽選が行われました!

1巡目の歌と並べると、郡司さんの選択はよくわかる(どちらも相聞っぽい)のですが、月丘さんの選択は正直意外という気もしました。奈月さんは響きのいい歌を先に指名する作戦ですね。わかりやすいのが田中さんで、学校の歌を上位で2首選び、テーマを固めてきました。

抽選はタブレットのアプリを使って行いました

 

さて、ドキドキの抽選結果は……月丘さんの勝利! 郡司さんはがくっと肩を落とし(笑)、長考の末「猫というふしぎをきみが抱きしめてやがてひとひら降る春の雪」という歌を選びました。
すると、次の歌を選んでいた奈月さんから「えーっ!」という悲鳴が。抽選負けもキツいですが、欲しい歌を先に取られるのも同じくらいキツそうです。

 

個性の出る中位指名

5巡目くらいまで来て、順調なのは田中さんです。「チンパンジーに文化はあると説く教師チンパンジーを見るような目で(5巡目)」や、「ぼろぼろの本部テントに水を撒きひととき虹をつかんで放す(3巡目)」など、ストレートな学校の歌からそれを想起させるような歌まで、確実に指名しました。今後はもうテーマは固まっているので、あとは単調にならないようにスパイスをくわえていくという感じでしょう。

 

奈月さんも独自の路線で、「知ってるよこれから出会う人だっていずれは海を失くすだろうと(5巡目)」といったロマンチックな歌を確保(これは作者としては少しはずかしい歌だ……)。田中さんが学校なら、奈月さんは海の歌を優先的にとっている様子です。少なくともこの二人は指名がかぶることはなさそうです。

 

郡司さんと月丘さんは、互いの方向性が少し似ているのか、あるいは抽選を外して方針転換を迫られた郡司さんが少し寄せてきているのか、読後感の似ている歌をとっていきます。
街じゅうの太郎と次郎ねむりゆく積もる予報をかみしめながら(4巡目)」を月丘さんが獲得すれば、郡司さんは「ルーベンスで死ねるネロではなかったと上野の空を仰ぐ真冬に(5巡目)」を選んできました。どちらも冬の歌で、かつ読みこなすのに少し知識が必要なところが似ています。当然、連作で使う場合も固有名詞がハードルになってきそうです。

 

二度目の抽選は意外な二人が…

中盤以降、最初に抽選を外した郡司さんの長考が目立ちます。やはり核になりそうな歌を外したのが大きかったのでしょう。そんななか、6巡目の指名で意外な重複が発生します。

 

星空に願うこれから行く場所に昇る朝日もきれいであれと(田中)(奈月)

スウェットを着たまま過ごす一日にヘミングウェイをひとつ読み切る(月丘)

聴きあきた歌を海辺に捨てに行くジグソーパズルの風景になる(郡司)

 

なんと、絶対に交わることがないと思っていた田中さんと奈月さんの二人が同じ歌を指名! にわかにおもしろくなってきました…。
これはあらかたテーマ性の高い歌を指名し終えた田中さんが、いわゆる「地の歌」を狙ってきたからでしょう。そこでたまたま奈月さんと被ってしまったわけです。抽選の神は奈月さんに微笑みましたが、田中さんはあまり迷うことなく「胸いっぱいのブルーベリーを抱きしめてまだ空のこと考えていた」を選びました。後で出来上がった作品を見てみると、実はこの外れ指名が連作の出来を決定付けるファインプレイであったことがわかりました。

歌人はよく、連作には「地の歌」が必要ということを言います。大ざっぱに説明すると、「地の歌」というのは、「どんな連作に入っていても違和感のないわかりやすい歌」という意味です。あるいは「地味(だけど味わいのあるよう)な歌」といってもいいかもしれません。ちなみにぼくは「地の歌」をつくることが苦手で、今回の歌の候補を選ぶときもとても苦労しました。

 

調整の下位指名、そして…

7~10巡目の指名は、各自自分の足りないところを補いつつ、連作全体のバランスをとるために使われました。体言止めが多かったり、あまりにも同じタイプの歌がならんだりすると、読者は退屈してしまいます。「連作にはメリハリが必要」、これは今回の参加者だけではなく、連作をつくったことのある方は誰でも考えることなのではないでしょうか。

 

学校が舞台の連作をつくっている様子の田中さんですが、下位指名では「ゆるゆるときみの微熱を抱いている風の吹かない正午の丘は(9巡目)」をまたしても奈月さんとの抽選の末獲得し、恋愛要素も取り入れる柔軟ぶりを見せつけます。一方、あまりぶれなかった奈月さんも、最後は「菜の花のパスタ今年も苦かった 小さな後悔ばかりしている(10巡目)」を選択。これは相聞の連作の中でも、「地の歌」として機能しそうです。

 

月丘さんは「ハローワークに十二時の鐘鳴りひびき見上げる人のみな無職なり(7巡目)」を選んできました。連作には必須の「場面を確定させる歌」をここで獲得します。さらに「側溝に月が映った その月を拾おうとして手からこぼれた(10巡目)」では郡司さんとの抽選に勝利。ほかの参加者よりも少し暗めの歌をとっているように思えます。

 

ところで、連作には「場面」が必要といわれるのは、「連作」はそれを通じて作者の人間性や人生観、置かれた状況が見えてくるものでなければならないという一種の考え方があるからです。やみくもに歌を並べるだけではなく、「場面」の中でそれをつくった作者の存在が背後に感じられるような連作を、いい連作であると評価する風潮が根強くあります。

 

月丘さんの選んだ「ハローワーク」の歌はまさに、その一語から作者の置かれた厳しい立場や社会情勢が見えてくるという意味で、連作には必要な作品であるといえるでしょう。もっとも、「場面」は限定しすぎると読者を置いてけぼりにする危険性もありますし、「場面」にとらわれすぎるとかえってよくわからない作品になってしまうこともあるので、そのあたりもバランス感覚が重要だとぼくは個人的には思います。

 

そして、序盤の抽選失敗以降、苦悩が見える郡司さんですが、「「横顔が正岡子規と言われます」深夜ラジオのお悩み相談(8巡目)」は興味深い指名でした。こういうギャグ調(?)の歌もうまく使えばアクセントになりえます。これもまた連作のメリハリの付け方としてはありえる手法でしょう。

 

1時間半ほどかけて、ようやく4人が10首を選び終えました。いよいよ選んだ歌を並び替えて、それぞれの連作が完成します。

奈月さんは手書きで、歌を並べる順番を決めていました

 

ドラフトにより連作が完成!

完成した作品① 田中翠香「ブルーベリーを抱きしめて」

 

胸いっぱいのブルーベリーを抱きしめてまだ空のこと考えていた

四限目のspeak spoke spoken春の廊下にひびきわたれり

ぼろぼろの本部テントに水を撒きひととき虹をつかんで放す

世界一くだらないこと教えたいサニーレタスに似合う歌とか

チンパンジーに文化はあると説く教師チンパンジーを見るような目で

自転車のサーチライトが照らし出す十四歳の風景と地図

ゆるゆるときみの微熱を抱いている風の吹かない正午の丘は

「中学生しんどい」とだけ書いてある日記をそっと心にしまう

ていねいに〈生命〉という文字を書く書写の授業のしずかなる海

暮れてゆく空のすべてを引き受けた 遅くならないうちに帰ろう

 

中高生くらいの若い主体の青春と、ほのかに恋心が漂う連作になりました。おおむね学校に肯定的な作品が並ぶ中で「中学生しんどい」の歌がいいアクセントになっていて、底抜けに明るいだけではない陰影を感じさせます。

また、抽選に敗れて獲得した「ブルーベリー」の歌を冒頭、そしてタイトルにして、間接的に甘酸っぱさを出してきているのがすごくうまい。場面がはっきりしている部分と、読者に想像させる部分のバランスもいいですね。

 

完成した作品② 奈月遥「嘘つきはマザー・グースのはじまり」

永遠に小五の夏であるようなまぶたの奥の海を見ている

ゆっくりと心をひらくおさなごのようにティーバックを引き上げる

知ってるよこれから出会う人だっていずれは海を失くすだろうと

菜の花のパスタ今年も苦かった 小さな後悔ばかりしている

嘘つきはマザー・グースのはじまりと嘯くきみにアール・グレイを

仮縫いのひかりのなかでせめぎあう季節をついに憎めなかった

あかるさがすこしちがって見えているきみの乱視に溶けていく海

白桃の産毛にそっとくちづけてきみの不在の愛おしきこと

星空に願うこれから行く場所に昇る朝日もきれいであれと

海からの手紙によせてぼくたちの古いラジオの詩を伝えよう

 

「海」を舞台にした相聞、しかしどちらかというと失恋の連作です。地の歌かと思われた4首目の「菜の花」の歌がターニングポイントとして機能し、そこから雰囲気を変えてラブラブなカップルが破局に向かう様子が表現されています。
参加者の中でもっとも連作としての「起承転結」が意識されていて、短編小説のように読める作品に仕上がりました。

 

完成した作品③ 月丘ナイル「鳥の手話」

サルスベリ静かに笑う「どうしよう」と「どうでもいい」の間に立って

スウェットを着たまま過ごす一日にヘミングウェイをひとつ読み切る

(ここまで津波がやってきました)海風にさびついていくその掲示板

側溝に月が映った その月を拾おうとして手からこぼれた

街じゅうの太郎と次郎ねむりゆく積もる予報をかみしめながら

「降参」のつもりであげた白旗にマンハッタンの虹を描くひと

知らなくていいけどきみがぼくを呼ぶその手の振りが鳥の手話だよ

ハローワークに十二時の鐘鳴りひびき見上げる人のみな無職なり

曲芸師の栗色の髪なびかせて風よ未来を見てくれないか

あいまいな返事ひとつがおかしくてぼくらは笑うまた雪になる    

10首の中にいろいろな物語が仕込まれていて、かなりテクニカルな作品です。
1巡目指名の「津波」の歌が、「ハローワーク」や「ヘミングウェイ」の歌、さらに全体に漂う冬のイメージに支えられ、東北の被災地と職を失った若い主体という核の場面を立ち上がらせています。
また、暗い現実の中でも希望を失わない、そんな力強さが「鳥の手話」や「曲芸師」の歌で表現されています。ぼくだったらこんな風には組み合わせられないと思います。

 

完成した作品④ 郡司和斗「ぼくらはただの影だった」

ルーベンスで死ねるネロではなかったと上野の空を仰ぐ真冬に

肩越しにきみと見ていた夕焼けはむずかしいことばかりを照らす

そこにいるぼくらはただの影だった東京タワーのイルミネーション

いつか吹く春風のため歩こうよ 宇宙のかかとをかばいながらさ

満月にキリンが草を食むようなコンビナートをふたり見ていた

「横顔が正岡子規と言われます」深夜ラジオのお悩み相談

燃えさしの煙草を草でもみ消して暗号のような角度をつくる

聴きあきた歌を海辺に捨てに行くジグソーパズルの風景になる

猫というふしぎをきみが抱きしめてやがてひとひら降る春の雪

靴紐を結びなおして歩きだす かたむきすぎている坂道を

真冬から春へ向かっていく現代の都市の風景に、「ぼくら」という人間が溶け合っていくようなイメージで、全体的に淡い雰囲気の作品です。
4首目で「いつか吹く春風」を出しながら、9首目が「春の雪」に着地しているところなど、全体の流れがよく考えられています。意味の取りにくい作品が少なく、わかりやすさ重視の連作と言えるでしょう。本人の発言から、盛り上がる歌は3首目と9首目、相聞は多すぎず少なすぎず! など、並べ方には独自のこだわりが見えるようです。

 

結局、歌人は何を考えていたのだろう

4つの連作を、記事を書いている今でもぼくはうっとりと眺めてしまいます。全部自分の歌なのに、自分の歌じゃないみたい。この歌、こんな使い道があったのか! と思うこともしばしば。今回の企画でいちばん得をしたのは、まちがいなくぼく自身だと思います(笑)。

 

ところで、この企画をやってみて、個性がいちばん色濃く出たなと思う部分があります。それは、連作をつくるときの軸足の置き方です。ざっくりいうと、「テーマ/物語」を中心に据えたのが田中さんと奈月さん、「いい歌」を中心に据えたのが月丘さんと郡司さん

田中さんは「学校」をテーマの連作をつくるために、「学校」の歌をまず集め、あとからふくらみを持たせるために別の角度の歌を足しています。
奈月さんも「失恋/海」というテーマを軸に歌を選び、互いが互いのアクセントになるような組み方をしてきました。

二人の連作は、「起承転結がはっきりしているか」という点で対照的なものになりましたが、根底にある「連作の作り方」の思想には似たものを感じました。

 

一方、月丘さんと郡司さんは、ともに上位の(言い換えると、自分がいちばんいいと思った)作品を軸に、それを引き立たせるための歌を選んで連作を作り上げています。

月丘さんの場合、「津波」「鳥の手話」の歌が「ハローワーク」の歌とセットになることによって主体の置かれた苦悩が鮮明になり、郡司さんの連作では「東京タワー」「猫」の歌に共通する冬のイメージから、季節の揺らぎというテーマが引き出されたように思います。

 

これは作品を提供したぼくにとっても非常に重要な示唆でした。なぜならぼくは自分が連作をつくるとき、100%田中さんや奈月さんの作り方をするからです。はからずも自分の作品を使って、正反対の連作の作成過程を見たことによって、「ああ、オレに足りなかったのはこの視点なんだ!」と妙に納得してしまいました。

 

まとめにかえて

歌人にとって連作は、自分の作品をいかによく見せるかという手段の一つでもあります。1首で表現できることよりずっと多くのことを読者に伝えられるのが、連作の大きな魅力です。今回の企画で、ぼくはそのことを改めて実感し、より連作が好きになりました。

 

この記事を読んで、連作をつくってみよう! と思ってくれた方のために、最後に今回わかった連作の作り方のポイントを記してみました。ぜひ参考にしてみてください。

 

連作の作り方のポイント

  1. まず自分の連作の「軸足」を決めよう。「テーマ/物語」から考えるか、「いい歌」を生かす方向に考えるか…
  2. 連作はバランスとメリハリが大事! 強い歌だけではなく、地味だけど味わいのある「地の歌」も入れてみましょう。
  3. 「テーマ」でも「いい歌」でも、それらにふくらみを持たせるために、違う角度の歌も入れ、読者を飽きさせないようにしましょう。
  4. ほどよく「場面」を設定しましょう。「場面」がわかる歌は連作の核になることが多いです。ただし読者に想像させる余地も残しておくようにすること。

 

それでは、長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。また何かの記事でお会いしましょう。

 

※今回使用した作品はすべてこの記事の筆者の自作です。もとになった短歌、作成された連作ともに、無断での転載・転用はご遠慮ください。
引用される際は短歌や連作を改変せず、作者名を明記してください。

この記事を書いた人

貝澤駿一

1992年横浜市生まれ。「かりん」「gekoの会」所属。2010年第5回全国高校生短歌大会(短歌甲子園)出場。2015年、2016年NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)。2019年第39回かりん賞受賞。

Twitter@y_xy11

note:https://note.com/yushun0905

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