初めまして。のにしと申します。歌会やイベントにふらりと参加する、ゆるめの短歌ライフを送っています。
TANKANESS編集長のなべとびすこさんがTwitterにて、こうつぶやいていました。
「誰かひとり暮らしの人、『歌集に出てくる食べ物だけで1週間食生活』とかやってTANKANESSで記事書いてくれんかな」
私やな…!私がやるやつやな…!
と、乗っかった次第です。
簡単にルールを決めました。
- 三食欠かさないこと
- お菓子類は一首紹介でその後はいつ食べてもOK
- 素材(野菜や卵など)は一首紹介でその後はいつ食べてもOK
果たしてどうなることやら。
それではスタートです。
のにし
気の向くままに歌会やイベントに出没しています。趣味は古本屋巡り。詰まった本棚を見ると、ときめきます。
Twitter @no_nonishi
自選短歌
心には大きな鳥が飛んでいて横切るたびに木々がざわめく
1月6日(月)
休日。
遅く起きてしまったため、朝昼兼用ごはん
- ホットケーキ
- カフェオレ
*以下、短歌の引用部分は 短歌(『歌集』作者) で表記します。取り上げた歌集は最後にまとめて記載します。
起きておきて、ホットケーキの日だよって朝の光がもう膨れてる
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)僕たちは別個でいようカフェオレのカフェとレ容赦なく混ざっても
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)
朝からホットケーキ焼いてるとなんだかおしゃれな気分になる。
児童文学の導入みたいな。
カフェオレとカフェラテの違いを調べる。牛乳の量の違いなのね。
この日までに読んだ歌集に出てくる食べ物をざっくり一覧にして、1週間の献立を考えて買い物へ。
初めて献立考えた。給食のおばちゃんすごいな。
我慢できず間食。
- ドーナツ
- カフェラテ
駆け落ちならば真昼の月を目指そうよギターと猫とドーナツ持って
(『Midnight Sun』佐藤涼子)カフェラテの泡薄くなる昼下がり欲しいものなら奪ってしまおう
(『Midnight Sun』佐藤涼子)
- 焼きそば
初めて作った。お湯注ぐやつしか作ったことなかったからな。
淀川の縁にて食める焼きそばのああかつおぶしが飛んでいくがな
(『昼の夢の終わり』江戸雪)
1月7日(火)
昨日焼いたホットケーキを食べる。
- ホットケーキ
- 珈琲
ホットケーキ二枚重ねて一人より二人がいいと辞書もいってる
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)珈琲の湯気に眼鏡はくもりゆき、そののち見えてくる銀世界
(『八月のフルート奏者』笹井宏之)
サラダをあまり食べないからポロポロ落としてしまう。食べ慣れてない。
いつも食べない物を選ぶから悩むけど視野が拡がって楽しい。
- 卵サンド
- サラダ
- 缶コーヒー
砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている
(『サラダ記念日』俵万智)「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
(『サラダ記念日』俵万智)あつさりと缶コーヒーを選びたる手がそこはかとなく俵万智
(『八月のフルート奏者』笹井宏之)
- サッポロ一番みそラーメン
歌集で見て絶対入れたかったやつ。コーン買えばよかった。
無能さがうれしくなってくる朝のサッポロ一番みそラーメンだ
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)
- ハイソフト
キャラメル久々。
一時間たっても来ない ハイソフトキャラメル買ってあと五分待つ
(『サラダ記念日』俵万智)
1月8日(水)
- メロンパン
- コーヒー
カロリーをメロンパンにて摂取する日々の窓辺に小鳥でも来い
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)コーヒーの粉でつくられた砂の城 白磁の国に白湯はあふれて
(『タルト・タタンと炭酸水』竹内亮)
午後から移動のためさっと食べられるものを。
すごい取り合わせ。カラーリング。
- 塩むすび
- 赤飯
- カステラ
コンビニが逆に売り出す塩むすび僕はふつうに選ばなかった
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)夜ママとおまわりさんが話してるサランラップのなかの赤飯
(『水中翼船炎上中』穂村弘)カステラに沈める指の深さほど目で見えたならこの憎しみが
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)
小腹が空いたら昨日買ったハイソフトキャラメルを。
主食の短歌って少ないな。おやつとか食材が多い印象。
- カレーライス
しりとりは楽しい前戯もつれあいカレーライスはスーサイドへと
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)
- ビスコ
- 蜜柑
おいしくてつよくなれると頬張ったビスコが甘い やさしくなりたい
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)舌に置く白月蜜柑に似て甘し口腔の中仄かに光れる
(『八月のフルート奏者』笹井宏之)
1月9日(木)
あんぱん率が高い。こしあんぱん指定。
- こしあんぱん
- 珈琲
こしあんパンほどに優しいひとだからかばんの底でつぶれてしまう
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)珈琲は街ごと違う味がして旅に酸っぱいブレンドを飲む
(『Midnight Sun』佐藤涼子)
一人暮らしを始めてからずっと同じ内容の弁当だったけど短歌に歌われている具がレギュラーにいない!
柴漬けが食べたい…
- ゆで卵
- 白菜
食塩に海を覚えるゆで卵 このおれはだれのためのこのおれ
(『羽虫群』虫武一俊)白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる
(『サラダ記念日』俵万智)
- 半額のおいなりさん
これもこの歌を見つけた時から組み込みたいと思っていた。
この一週間で見つかるかなーと思っていたけどついに出会えた。
嬉しい。
半額のおいなりさんを選んでいる父が背中に負っているもの
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)
- チョコ
失った季節はとおい 融点を超えるとチョコはかたちをなくす
(『ナイトフライト』伊波真人)
1月10日(金)
ココアにしてみる。根っからのコーヒー派。
- あんパン
- ココア
あんパンに臍が わたしを生み出したひとに謝罪をまだされていない
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)会いたいなあ 高架の下の自販機で買ったココアがまだあったかい
(『サイレンと犀』岡野大嗣)
- のり弁
あってよかった!少しネタ切れ感…
まただ のり弁掻き込んでいるときに後頭部から撃たれる夢だ
(『サイレンと犀』岡野大嗣)
- 牡蠣フライ
- サラダ
牡蠣フライも入れたかったやつ。サラダの歌は豊富にある。見た目鮮やかだし、印象に残りやすいからかな。
牡蠣フライまだなんですと繰り返す浅草神谷バーの給仕ら
(『Midnight Sun』佐藤涼子)サバクでもラクダでもないサラダにはサハラの太陽みたいなトマト
(『八月のフルート奏者』笹井宏之)
1月11日(土)
- 食パン
- コーヒー
食パンとビールを買いにつっかけを履いて並んで日曜の朝
(『サラダ記念日』俵万智)コーヒーのかくまで香る食卓に愛だけがある人生なんて
(『サラダ記念日』俵万智)
- かまぼこ
- 玉子焼き
- 白菜
- 缶コーヒー
お弁当作れた。けど、急ぎすぎて玉子焼きに塩振りそこねた。
残されたかまぼこ板のかまぼこは魚群魚群と排水溝へ
(『八月のフルート奏者』笹井宏之)玉子焼き一層二層重ねてく嘘は吐いたら最後こうなる
(『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜)白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる
(『サラダ記念日』俵万智)胸を張って出来ると言えることもなくシャツに缶コーヒーまたこぼす
(『羽虫群』虫武一俊)
- カップヌードル
海老が入ったカップラーメン。気が楽。カップラーメンを海老にフォーカスして見たのはこの歌のおかげ。つい謎肉に目が行きがち。
ハロー 夜。 ハロー 静かな霜柱。 ハロー カップヌードルの海老たち。
(『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』穂村弘)
1月12日(日)
休日。
- パン
- ベーコンエッグ
- ミルク
最終日は豪華に。美味しい。ブレックファーストという文字が似合う。
あの人が朝食のパンにつけるバターがずっとなめらかでありますように
(『ゆめのほとり鳥』九螺ささら)命より重たいものばかりの部屋できみはベーコンエッグをちぎる
(『八月のフルート奏者』笹井宏之)生まれたてのミルクの膜に祝福の砂糖を 弱い奴は悪い奴
(『シンジケート』穂村弘)
映画に行く。弟がポップコーン買う。
「姉ちゃんは今、歌集に出てくる物だけ食べるチャレンジ中なんや」と、高らかに宣言。
ごはんデッキ(読んだ歌集に載っていた食べ物の一覧)にポップコーンがなかったので、我慢。
席に着いたら、流れるように口に運んでいた。食べてから短歌を探す。
- ポップコーン
- コーラ
散らばったポップコーンをスリッパで踏むが案外ポップコーン強い
(『ヒット・エンド・パレード』谷じゃこ)コカ・コーラの硝子の瓶に触れている君の唇ゆっくり動く
(『タルト・タタンと炭酸水』竹内亮)
ファミレスにて。「フライドポテトは大丈夫なんだっけ?」と、企画主旨を理解してくれる優しい弟。
- スパゲティ
- フライドポテト
スパゲティとパンとミルクとマーガリンがプラスチックのひとつの皿に
(『水中翼船炎上中』穂村弘)一本のフライドポテト落ちていた電車で白い紙片を開く
(『タルト・タタンと炭酸水』竹内亮)
- ドーナツ
ドーナツの短歌がたくさんあったので最後の締めはドーナツ!
ドーナツ化現象のそのドーナツのぱさぱさとしたところに暮らす
(『羽虫群』虫武一俊)
感想
食べ物に関して飽きることがなく、何年も同じ中身のお弁当で、そのスタメンの具(※)がすべて戦力外通告になったことが、今回一番大変でした。(※柴漬け・ちくわ・キャベツと塩昆布和えたやつ)
献立考えたり自炊したり、スーパーで欲しい食材が見つからなくて絶望したり、スリリングでエキサイティングな1週間でした。
せっかく七草粥の日があったのに、乗っかりそこねてしまったのが少し後悔。
比較的新しめの歌集から引用したけれど、明治・大正あたりの生活スタイルが全く異なる時代のごはん短歌も気になるところ。
面白かったのが「食べ物」という括りで歌集を読むと、歌人のその食べ物に関する印象が透けて見えたこと。同じ食べ物が何度も歌集の中で出てきたり、「○○の○○味」などきちっと商品名を詠み込んでいたりと、こだわりをひしひしと感じました。
最後に、好きなものを食べられる自由って素晴らしい!
お疲れ様でした!
この記事を書いた人
のにし
気の向くままに歌会やイベントに出没しています。趣味は古本屋巡り。詰まった本棚を見ると、ときめきます。
Twitter @no_nonishi
自選短歌
心には大きな鳥が飛んでいて横切るたびに木々がざわめく
今回短歌を引用した歌集
『コンビニに生まれかわってしまっても』西村曜(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『Midnight Sun』佐藤涼子(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『昼の夢の終わり』江戸雪(書肆侃侃房 現代歌人シリーズ)
『八月のフルート奏者』笹井宏之(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『サラダ記念日』俵万智(河出書房新社)
『タルト・タタンと炭酸水』竹内亮(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『水中翼船炎上中』穂村弘(講談社)
『羽虫群』虫武一俊(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『ナイトフライト』伊波真人(書肆侃侃房 現代歌人シリーズ)
『サイレンと犀』岡野大嗣(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』穂村弘(小学館文庫)
『ゆめのほとり鳥』九螺ささら(書肆侃侃房 新鋭短歌シリーズ)
『シンジケート』穂村弘(沖積舎)
『ヒット・エンド・パレード』谷じゃこ