サラダ記念日のサラダは何サラダ?短歌からレシピを考えてみた

企画

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智『サラダ記念日』

1987年に発売された俵万智さんの『サラダ記念日』は280万部のベストセラーとなり、短歌ブームを巻き起こしたそうです。私がこの歌を知ったのは国語の教科書でした。
当時、短歌に興味がなかった私の感想は「サラダの味って何?ドレッシングの味ってこと?」でした。当時の私は生野菜(レタスときゅうりとトマトとか)にドレッシングをかけたものをイメージしていた気がします。ドレッシングは市販のピエトロドレッシング。当時、自分の家でよく出ていたサラダです。(ピエトロドレッシングってマジでおいしいですよね…)

その10年後、私は短歌をはじめ、そしてさらに10年経ったいま改めて思うのです。

「サラダ記念日のサラダって何サラダなんやろう……」

ちなみに、実際に「君」に褒められた料理はサラダではなくカレー味の唐揚げだったそうです。
俵万智さんのX(Twitter)にもその旨が記載されています。

鶏の唐揚げを、ちょっと工夫してカレー味にしたら「お、これいいな」とボーイフレンドに褒められて嬉しかった。そんなささやかなことがきっかけで、こういう気持ちを短歌にしたいと思いました。
(出典: 俵万智 X(Twitter)  2014年7月6日)

つまり、「この味がいいね」と言われたサラダは実在しません。正解がないからこそ、正解を当てるのではなく、あくまで歌集の情報からサラダ記念日に作られたサラダをイメージしてみたいと思います。
ということで、料理が好きな歌人を集めて、サラダ記念日のサラダを考えてもらいました!

 

サラダ記念日のサラダは何サラダ?短歌からレシピを考えてみた

ルール

・事前に俵万智さんの歌集『サラダ記念日』を読む
・歌集に出てくる「私」や「君」のイメージをもとに、「この味がいいね」と言われたサラダを作る。

※歌集発売当時の時代背景や俵万智さんの人物像、実際のエピソード(褒められたのは唐揚げだった)は考えない。

参加者

なべとびすこ
この企画の考案者。冷蔵庫にある食材で名もなき料理を作るのが好き。

toron*
Spotifyでお気に入り曲(最近はバックドロップシンデレラ)を流しつつ飲みつつ常備菜などをつくっています。その他、お酒のアテ的なスピードメニューが得意です。

永井駿
マヨネーズの包容力を信じている。

門脇篤史
食べることに執着しながら暮らしています。料理は好きだけど計量は苦手です。得意になりたい…

羽水繭
日々のごはん、お菓子、パン(食パン)。どれかを選べないほど作ることが好き。食パン用自家製酵母2種類を10年以上継ぎ続けている。

嶋田さくらこ
ホールケーキやピザを人数分均等に切るのが得意。太りやすいので万年ダイエッター。飲み物と食べ物のペアリングを考えるのが好きです。

 

歌人が考えるサラダ記念日のサラダ

なべとびすこが考えるサラダ記念日のサラダ

私は冷蔵庫にあるものでぱぱっと作れるポテトサラダにしました。ざっくり作ってるのでレシピも適当です。

【材料】2人分
じゃがいも 2個
にんじん 1/2本
スモークチーズ 好きな量
生ハム 好きな量
千切りごまたくあん 好きな量
出汁の素 好きな量
塩胡椒 少々

【作り方】
皮を剥いたじゃがいもを大きめに切る。
皮を剥いたにんじんを薄めのいちょう切りにする。
鍋でじゃがいもを茹でて、途中からにんじんも入れる。
まあまあやわらかくなったらマヨネーズと塩胡椒、出汁の素を入れて味付け、粗めにつぶす。
好きな大きさに切ったスモークチーズと生ハム、千切りごまたくあんを好きな量入れて混ぜる。

 

この短歌を知ったとき、最初に思ったのが、「サラダの味って何?ドレッシングの味ってこと?」でした。
当時は生野菜にドレッシングがかかっているイメージでしたが、「この味」という言い方にやや違和感がありました。でも、素材自体に味が付いているサラダなら「この味」という言い方も自然かな、と思ってポテトサラダにしました。
歌集全体を読むと、「私」も「君」もお酒をよく飲んでいて、揚げ物もよく出てくるので、居酒屋によく行ってそう。ということで居酒屋で出そうなポテトサラダを目指しました。

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

生ビール買い求めいる君の手をふと見るそしてつくづくと見る

夕焼けてゆく速度にてコロッケが肉屋の奥で揚がり始める

テレビでサラダ記念日を取り上げていたとき、このサラダは朝食か昼食か夕食かという投げかけをしていたのですが、私は夜にお酒を飲みながら食べられるサラダをイメージしました。
この日に家に来るのが事前に決まっててガチガチに準備したというよりは、夜に外で会ってから急遽家まで来ることになってぱぱっと作ったのでは。だから常に家にありそうな食材をベースにしました。

この歌が入っている連作「サラダ記念日」のなかでは、かっこいいと思ってただけの距離の遠いところから始まって、何かの予感があってから、各駅停車で新宿へ行って、一緒にナイターを見たりしてるんですけど、ナイターを見た日は「明日まで一緒にいたい」ところで終電で別々に帰っています。

旅立ってゆくのはいつも男にてカッコよすぎる背中見ている

よく進む時計を正しくした朝は何の予感か我に満ちくる

会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く

ナイターの風に吹かれている君のグレープフルーツいろの横顔

明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車

この三首後にあるサラダ記念日の歌の日は、ついに自宅まで来たのかなと。サラダ記念日の歌の次の歌が<トーストの焼きあがりよく我が部屋の空気ようよう夏になりゆく>ですよね。サラダを夜に食べて、そのまま一緒に過ごして、朝にトーストを食べたのでは。

この短歌って単体で読んでもだいぶ浮かれてるじゃないですか?サラダを褒められただけでこの浮かれ方っていうのは、付き合いたてのはしゃいでる時期。なので、何らかの「かましたい」気持ちがあるはず。料理好きな感じと自分ならではの個性をアピールしたくてプラスアルファの何かを加えているはずです。
なので、じゃがいもとにんじんだけでなく、酒のアテとして家にありそうな生ハムとスモークチーズが入ってます。 あとは私が好きなだけなんですけど、千切りごまたくあんも入れて食感に変化を出してます。
味付けもマヨネーズと塩胡椒だけでなく、出汁の素を入れて和風にしました。

 

toron*が考えるサラダ記念日のサラダ

私もなべとさんと考え方は近くて、夜にお酒を飲みながら食べるポテトサラダにしました。

【材料】
じゃがいも 大2個
ベーコンブロック 80g
玉ねぎ 1/2個
卵 2個
サラダ油 小さじ1
コンソメ 小さじ1/2
豆乳(牛乳でも可) 小さじ2
粒マスタード 小さじ2
酢 小さじ1
マヨネーズ 大さじ1と1/2
砂糖 ひとつまみ
(彩り用)
パセリ 1本
ガーリックチップ 少々
レタス 1枚

【作り方】
①じゃがいもは芽があればえぐりとっておく。丸ごと皮つきのまま濡らしたキッチンペーパーに包んだ後、耐熱のポリ袋に入れて電子レンジで6分加熱する。中心部に竹串がすっと通ればOK。固ければ適宜電子レンジで加温する。
卵は鍋で9分茹でておく。
ベーコンは1センチの厚さにスライスする。
玉ねぎは5ミリほどの薄切りにする。

②熱したフライパンにサラダ油を入れ、ベーコンと玉ねぎを入れる。
弱めの中火で玉ねぎがしんなりして軽く焦げ目がつくまで炒める。

③弱火にしてフライパンにじゃがいもを丸ごと入れ、木じゃくしなどで軽く崩しながら混ぜる。
コンソメ、豆乳、酢、砂糖を入れて水分をじゃがいもに吸わせるようにしばらく混ぜ続ける。
全体がなじんできたら火を止めて10分くらいそのままおいて粗熱を取る。

④全体が冷めてきたらゆで卵、マヨネーズ、粒マスタードを入れてさらに混ぜる。
全体が混ざったら、レタスを敷いた器に盛りつけて、ガーリックチップ、みじん切りにしたパセリを散らして完成。

 

この歌は歌集のなかでも表題作「サラダ記念日」の連作の中にあるんですけど、連作中に直接的にサラダの内容を示す歌はないんですよね。 連作内に<一山で百円也のトマトたちつまらなそうに並ぶ店先><そら豆が音符のように散らばって慰められている台所>という歌はあるんですけど、ここで出ている野菜はサラダの中身じゃなさそう。なので歌集全体からレシピのヒントを読み取っていきました。
この歌集は、恋愛のちょっといい感じから始まって、別れの予感みたいなストーリーで出来上がってる連作が結構ある。そこに出てくる「君」が全員別の恋人かと言うとそんな感じじゃないけど、全員が同じ人でもなさそう。ただ、傾向としてはある程度似たタイプの人たちなのかなと思います。
年齢はたぶん20代前半で、食欲旺盛というほどではないが、食が細い感じではなさそう。彼はアルコールを飲むけど、ビール・酎ハイ党で、主体は日本酒(コップ酒)を飲んでる歌が何首かありました。

生ビール買い求めいる君の手をふと見るそしてつくづくと見る

コップ酒浜の屋台のおばちゃんの人生訓が胃に沁みてくる

にわか雨を避けて屋台のコップ酒ひと生きていることの楽しさ

「君」の食の好みに言及されている歌もあります。

オムライスをまこと器用に食べおれば<ケチャップ味が好き>とメモする

カニサラダのアスパラガスをよけていることも今夜の発見である

アスパラが苦手でケチャップが好きな恋人の味覚は幼いのかなと思いました。 であれば、もっと攻撃力の高そうな野菜、にんじん、トマト、ピーマンなどが入っている可能性は低いんじゃないか。
同棲しているわけではなくて、料理はイベント的な要素が大きそう。それなりに時間や手間、お金をかけてもOKなのかなと思いました。

俵万智さんやサラダ記念日を認識するまえから、この褒め方はちょっと変わってるなと思ってました。「おいしい」じゃなくて、「この味がいいね」。これって省略された褒め方じゃないですか。
「〜〜のサラダの中だったらこの味がいいよね」。それを踏まえて「既存の名前がついているサラダに味のアレンジを加えたもの」として、野菜が苦手なひとも褒めるようなサラダを考えてみた。

私もお酒に合う味付けを意識したので、粒マスタードを多めに入れました。あとはガーリックチップ、パセリは彩りです。主体が映えを気にするかしないかなら気にしそうと思って。

『サラダ記念日』は今回はじめて読みましたが、俵万智さんが書いた小説『トリアングル』を読んだことがありました。歌集『チョコレート革命』あたりのことを小説化してるんですけど、あんまり料理しないんですよ。 誰か来たときに酒のアテを作るためにウニの瓶詰めとかを仕入れてると書いていたので、普段は料理にあんまり手をかけないんだろうなって思いました。

 

永井駿が考えるサラダ記念日のサラダ

実は私もじゃがいもがメインで、特にtoron*さんとはかなりレシピが近いです。ただし、夜ではなく朝にトーストと一緒に食べるサラダを想定していました。

【材料】
じゃがいも 1個
トマト 1/2個
きゅうり 1/2本
レタス 適量
ウインナー 2本

<ドレッシング>
マスタード スプーン2杯
はちみつ スプーン2杯
マヨネーズ スプーン1杯
オリーブオイル 適量

【作り方】
①小さめのじゃがいもをレンジで蒸かす
②レタス、きゅうり、トマトを適度な大きさに切る
③ウインナーを斜めに薄く切り、フラインパンでカリカリになるまで焼く
④お皿に盛り付ける
⑤ドレッシングの材料を混ぜて、満遍なく掛ける

 

跋文にこの歌集の主体像は「からりとして、明るい」「深刻さが似合わない」というようなことが書いてあるんですけれど、ルールにある「俵万智さんの人物像」を取り払って読んだ時に、私はそこまでは明るくないかなと思いました。 普段はものすごく細かい料理をするタイプではない。ただ、恋愛のテンションのなかで少しだけ手をくわえて、ずぼらと自分をよく見せたいという恋心の間ぐらいの料理をしてるんじゃないかと想像しました。

このサラダを食べる時間帯が夜か朝かという話ですが、私はこのあとのトーストの歌(トーストの焼きあがりよく我が部屋の空気ようよう夏になりゆく)と並んでいるのもあって朝をイメージしていました。前日の夜は外で一緒に食べていて、この朝が初めて振る舞う料理だから、トーストと一緒に食べるためのちょっとだけ凝ったサラダを作った。

材料はジャガイモ、それから歌集にトマトがたくさん出てくるので引っ張られたところはありますが、トマトも入れました。

陽の中に君と分けあうはつなつのトマト確かな薄皮を持つ

一山で百円也のトマトたちつまらなそうに並ぶ店先

母からの長距離電話青じそとトマトの育ち具合を話す

スーパーの棚にて熟れてゆくトマト 冷凍野菜より悲しいか

あとは夏の家にありそうなものとしてレタスやウインナーを入れました。調理としては、人物像に基づいて大して難しいことはしていません。その代わりに、味付けはマスタードとはちみつでハニーマスタード風にしました。市販のドレッシングをかけるのではなく、ずぼらなんだけどちょっと頑張った、という感じがこの部分です。それを「この味がいい」って言ってもらえた嬉しさがあるのかなと。朝、お酒を飲んでいない時の方が「この味がいいね」という言葉の本気度が違って心に残るのでは、と思いました。

門脇篤史が考えるサラダ記念日のサラダ

サラダを考えたルートが皆さんと若干違うのかもしれません。「君」のイメージではなく主体のイメージから考えて、夏野菜と卵を使ったサラダにしました。

【材料】 2人分
胡瓜 1本
オクラ 8個
ミョウガ 3個
豚こま 100g
卵 2個
梅干し 1個〜2個
ごま 適量

<調味料>ぽん酢、青じそドレッシング、ごま油
(お好みで)にんにく、豆板醤(ラー油でも)

【作り方】
① 胡瓜は縦まふたつに切り、手でひと口大に折っていく。茗荷は八等分くらいに切る。
② オクラを茹で、豚こまを軽くゆがく。どちらも冷水に冷やして、水気を切る。豚こまは大きければ細かく千切る。
③卵を半熟に茹でる。
④梅干しは包丁で細かく叩く。
⑤ボウルに<調味料>と叩いた梅干しを入れてよく混ぜ、そこにゆで卵以外の具材を入れてざっくりと混ぜる。
⑥皿に盛り付けて、ゆで卵をのせ、ゴマを振る。

歌集のなかで、八百屋の歌が多いのが印象に残っています。野菜が売られている場面が詠われた歌もスーパーではなく八百屋での情景に感じられました。

午後四時に八百屋の前で献立を考えているような幸せ

白菜が赤帯締めて店先にうっふんうっふん肩を並べる

すれ違いざまに会釈を交せしはいつもの八百屋のあんちゃんなりき

このあたりの歌から、八百屋さんがお勧めしてくれそうな野菜をベースにしました。時期が7月6日なので夏野菜な感じ。
toron*さんや永井さんも触れていたように、連作内にトマトの短歌(一山で百円也のトマトたちつまらなそうに並ぶ店先)があったんですけど、トマトのサラダだと、トマトという素材自体のおいしさがメインになる感じがします。「この味がいいね」という言葉は、野菜の味ではなく、料理の作り手の作為に対する「この味がいい」であってほしかったのではずしました。

この歌集って、目的が定まった調理の歌って少ないんですよね。 栗をゆでるとか、ぎんなんを炒るとかみたいなのはあるんですけど。

ぎんなんの実を炒りながら家族というやさしい宇宙思うておりぬ

栗三つ茹でて一人の秋とせり遠くに君の海感じつつ

そんな中で、卵料理だけは妙に具体的に感じられます。オムレツや卵サンドを作ったり(卵サンドは主体が作ったかは確定しませんが…)、真剣に卵を茹でたりと、めっちゃ卵料理作るやん、ということで卵を入れたいと思いました。

砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている

さよならに向かって朝がくることの涙の味でオムレツを焼く

卵二つ真剣勝負で茹でているネーブルにおう日曜の朝

夏野菜を使って卵を入れて、かつ味にアクセントというか、変化がつけられるものということでレシピを考えたら、こうなりました。
夏野菜はオクラとみょうがときゅうり。これだけだとあまりにもあっさりなので、茹でた豚こまを加えました。ポン酢と青じそドレッシングをベースに、梅干しを叩いて入れて、ごま油とニンニクと豆板醤をちょっと足して、いつものドレッシングとは違う、少しだけ捻った味にしてみました。

 

羽水繭が考えるサラダ記念日のサラダ

私は茹でた野菜を使って、見た目的には「映え」ているサラダにしました。

 

【材料】
レタス ベビーリーフ
スナップエンドウ
ゆでたまご
えび

<ドレッシング>
マヨネーズ 小さじ1
オリーブオイル 大さじ1
レモン 1/6 個
砂糖 小さじ1
人参ドレッシング 大さじ1(人参、玉ねぎ、 塩 麹、オリーブオイル、醤油、酢をミキサーにかけたもの)

【作り方】
葉物にドレッシングを混ぜたものを入れて軽く混ぜて器に盛った後、 茹でたえび、卵、スナップエンドウを 彩りよく乗せる。

 

歌集で出てくる「私」は忙しい男が好きなように見えました。「忙しい」というのは、仕事だけではなく、自分をかまうことに 「忙しい」男です。

「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君

無頼派と呼びたき君の中に見る少年の空澄みわたるなり

「30で俺は死ぬよ」と言う君とそれなら我もそれまで生きん

そういう男を好きになる「私」ですが、「私」はまめに料理をしています。栗をわざわざ3つだけ茹でたり、そら豆をバラして茹でて、ゆで卵を美味しい加減で茹でることにも命をかけている。

卵二つ真剣勝負で茹でているネーブルにおう日曜の朝

そら豆が音符のように散らばって慰められている台所

栗三つ茹でて一人の秋とせり遠くに君の海感じつつ

思い切り愛されたくて駆けてゆく六月、 サンダル、 あじさいの花

ただ、 自分のためにそれをする丁寧な女のようにはどうしても思えませんでした。他人からどう見られているのかに敏感な女なのではないでしょうか。だから作るサラダは「映え」ているはずで、そして、食材を茹でることが好きだからいろんなものを茹でると想像しました。

まめな女なので人参ドレッシングは常備。男の味覚にあわせるため、マヨネーズを入れ、少し甘みを加えたドレッシングをつくる。他の方も触れていたように、トマトの歌がいくつか出てきますが、 トマトを好きなひとは、トマトはサラダに入れずにトマトだけで食べると思いました。

 

嶋田さくらこが考えるサラダ記念日のサラダ

私は歌集からイメージした「万智ちゃん」のスパゲッティサラダにしました。

 

【材料】2人分
スパゲッティ 100g(半分に折る)
玉ねぎ 1/4個
ロースハム(ブロック)30g
セロリ(茎の部分) 10㎝
粒コーン(缶詰など) 大さじ2
サニーレタス 2〜3枚(手で千切る)
トマト 1/2個(くし切り)
マヨネーズ 大さじ3
牛乳 大さじ2
塩こしょう 少々
レモン汁 小さじ2〜お好み
パセリ(みじん切り) 適量
粗びきこしょう お好み

【作り方】
①約1ℓのお湯を沸かし、塩小さじ1(分量外)を溶かし、半分に折ったスパゲッティを袋の表示より1分多く茹でる。茹で上がったらザルにあげ、水気を切って粗熱を取る。
②玉ねぎを薄くスライスし、軽く水にさらしてよく水気を切る。セロリは薄切りにし、スパゲッティの茹で汁にさっとくぐらせた後水気を切る。 ブロックのロースハムは削ぐように小さめに切る。
③ボウルに①、②、粒コーンを入れ、マヨネーズと牛乳を加え全体を和える。塩こしょうで味を整え、レモン汁をお好みの量しぼり軽く混ぜる。
④器に千切ったレタス、くし切りにしたトマトを添え、③を盛り付ける。みじん切りにしたパセリを散らし、お好みで粗びきこしょうを振る。

なべとさんの話にもありましたが、私もこの歌を初めて読んだ時からずっと違和感があって、でもそれを深く考えずにきました。 サラダって、野菜の味ちゃうの?作った人を褒める要素ある?オリジナルドレッシングの味なのか??と思っていました。

皆さんがやっぱり言及されていましたが「この味が」と言うからには、味の決め手が、作り手の感覚や少しのオリジナリティが加味されて食べた人が「おいしい」と感じる、一般的に知られたメニューではないか、と考え「スパゲッティサラダ」にしました。 お惣菜でもよくあるメニューだし、家でも食べるけれど、「万智ちゃん」の作ったやつ「がいいね」、ってことだと。 この解釈だと、生野菜を盛り付けて、オリジナルのドレッシングをかけたサラダでは、少し物足りない気がして。

この理由から、ポテトサラダか、スパゲッティサラダか、マカロニサラダ、と悩みましたが、『サラダ記念日』を通読して感じる、その時代の庶民的な豊かさや時間的なゆとり、洋風の雰囲気をお洒落と感じられた時代などを考慮して「スパゲッティサラダ」としました。

恋人が社会人の雰囲気もあり、二人でよくお酒を飲んでいるシーンもあるしスパゲッティサラダなら家飲みに合う。 具材は、一般的には、スライスハム、きゅうり、スライス玉ねぎ、細切りのにんじんなどが多いですが、あえてきゅうりやにんじんは外しました。 「万智ちゃん」は歌集全体に散りばめられた歌から、かなりの料理好きの匂いがします。
レシピの具材は、「万智ちゃん」が買いそうな、部屋や冷蔵庫にあるものを想像して選びました。

・スパゲティ

スパゲティの最後の一本食べようとしているあなた見ている私

・玉ねぎ

玉ネギをいためて待とう君からの電話 ほどよく甘み出るまで

・ロースハム(ブロック)

ため息をどうするわけでもないけれど少し厚めにハム切ってみる

パックに入ったスライスハムじゃなくて、冷蔵庫に塊のハムがあるなんて、と驚きました。 昔はよくお中元とかに贈りあったじゃないですか、塊のハム。「万智ちゃん」の実家が仕送りで送ってきたのか、それとも恋人のためにいいハムを買ったのか。 塊のハムは少しずつ切って使うので、無くなるまで冷蔵庫に居座り続けます。 その切れ端を使うイメージです。

・セロリ

自転車のカゴからわんとはみ出してなにか嬉しいセロリの葉っぱ

セロリは好き嫌いの激しい野菜ですが、セロリのような香味野菜が好きな人は味覚が育っていて、いろんな料理を美味しく食べられる人が多いです。 「わんとはみ」出しているセロリの葉っぱには心のゆとりのようなものも感じますし、はみ出すくらいの量を買うと言うことはきっと恋人に作る料理にも使うでしょう。 「なにか嬉しい」にもその雰囲気が滲んでいます。

・トマト

陽の中に君と分けあうはつなつのトマト確かな薄皮を持つ

他の方も言及されていたように、トマトは何度も出てきます。実家でも育てていたし、「万智ちゃん」の好きな野菜だと思います。 トマトの姿かたち、赤い色にその時の「万智ちゃん」を映しているような気がします。

・レモン

事件とも呼べず右手の上にある一人暮らしの腐ったレモン

味付けに少しだけ入れるレモン汁は「この味」のポイントです。この酸味が入るか入らないか、少ないか多いかで好みが分かれると思います。

・パセリ

鉢植えのパセリと我の関係に我らをたとえてみる君といて

小さめの恋してみたき秋の夜 パセリわずかに黄ばむベランダ

パセリはよく使うけれど、少しでいい。たくさん買うと使い切るまでに腐ってしまう。 いつもベランダで育てていれば、必要な分を摘んで刻めます。 これは常にお料理をしている人の発想です。 だから、けっこう何にでもパラパラっとパセリのみじん切りを散らしていたと思うんです。

 

終わりに

それぞれが『サラダ記念日』の歌集を読み、食材や料理の歌、「私」や「君」の歌をたくさん挙げてくださいました。
6つのレシピを並べてみると共通するところもあれば、真逆の解釈もありました。
トマトや卵は歌集の中に何度も出てきますが、使う選択をした方とあえて使わなかった方がいました。食材や料理の短歌が多い歌集ですが、「私」が普段からまめに料理をしていると想像した人と、自分のための料理は手を抜いていると想像した人もいました。
同じ歌集の同じ短歌を根拠にしているのに、解釈が少しずつ異なるところが非常におもしろく、互いのレシピを見ながら改めて『サラダ記念日』という歌集を考えるきっかけになりました。

皆さまもぜひ自分なりに考えた「サラダ記念日のサラダ」を作ってみてください!

 

この企画で取り上げた歌集

『サラダ記念日』俵万智

 

この企画に参加した人

なべとびすこ

TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」企画・制作、「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」原案・ゲームデザイン。
X(Twitter): @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
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自選短歌:
咲く前もさくらだったよ背景になって暮らせる才能もある

toron*

うたの日育ち。塔、たんたん拍子、Orion所属。第14回塔新人賞。第1歌集『イマジナシオン』(書肆侃侃房)。

X(Twitter):@toron0503

自選短歌
海の日の一万年後は海の日と未来を信じ続けるiPhone

永井駿

1989年兵庫県生まれ、東京在住。塔短歌会、同人「号外」「△」所属。渋谷ヒカリエ8階「渋谷○○書店」にて私家版歌集のお店「渋谷Longbooks」運営。またaikoをこよなく愛する。2021年東京歌壇年間賞。第68回短歌研究新人賞候補など。

X(Twitter):@longmemo_tanka
note:https://note.com/choro/

自選短歌
一月の胸は考え過ぎるので、おおきな街をはやく見に行く

門脇篤史

1986年島根県生まれ。うたの日育ち。未来短歌会所属。「西瓜」「too late」同人。歌集に『微風域』、『自傾』。
X(Twitter):@508atsu

自選短歌
モンブランひかりの中に並み立ちてわづかにちがふ栗のかたちは

羽水繭

2023年夏から短歌を始める。無所属。
料理教室主宰。food orchestraオリジナル商品のレシピ提供やコラム執筆、bar(大阪/谷6)へワインに合うケーキやクッキーを卸したりもしています。

自選短歌
真昼間に目を閉じるとき透きとおる夜の布だとおもう瞼は

嶋田さくらこ

「西瓜」同人。歌集『やさしいぴあの』。調理師、フードカメラマン&スタイリスト、家業の新聞屋。趣味は花壇ガーデニングと星空観測。猫を愛してます。
X(Twitter):@sakrako0304
Instagram:@shimayuka34

自選短歌
ピザまんを割ってかがやく夕暮れよ あなたがここにいればいいのに

 

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