TANKANESS編集長のなべとびすこです。
短歌では、街を歩いて短歌を詠む「吟行(ぎんこう)」という楽しみかたがあります。
街を歩くということは、散歩のwebマガジン「サンポー」さんとコラボすれば、短歌の良さと散歩の良さを一緒に伝えられるのでは?!
ということで、今回はサンポーさんとのコラボ企画第2段です!
★サンポー側の記事はこちら
詠んだばかりの短歌が生まれたところを案内してもらう散歩「インスタント聖地巡礼」
★以前のサンポー×TANKANESS記事はこちら↓
- TANKANESS 高下龍司さんの記事
散歩をする人と短歌を詠む人が集まって散歩をして短歌を詠んだ 〜コラボ吟行〜 - サンポー Cooley Geeさんの記事
【大阪】降りたことのない駅で、吟行しようぜ!
企画概要
今回の企画は「インスタント聖地巡礼」!
*企画の流れ
①短歌側が先に街を歩いて短歌を詠む
②サンポー側と合流し、短歌を見せる
③その短歌の元となった場所(さっきできたばかりのインスタント聖地)を探しながら再度散歩する
という内容です。
それでは行ってみましょう!
まずは歌人3人で散歩
今回の散歩場所は東京から中央線でひと駅の「神田駅」周辺。
私は関西在住のためあまり詳しくないのですが、ビジネス街らしいです。土曜日で雨が降っていたので人は少なめでした。
短歌側の参加者は中本速さん、山本まともさん、私なべとびすこの3人でお送りします。
神田駅周辺をうろうろします。
スタートして2分くらいで、山本まともさんが「一首できました」と言っていて圧をかけてきました。速すぎる。
「半殺し」って単語、「殺し」よりこわくないですか?
「煮込み・肉刺し・もつ焼き・富士屋」は七・七のリズムなので、下の句に使えることが判明。
これは付句の選択科目にします。
そして、すぐ奥に
「お好み焼きとケーキのお店」の七・七を発見!
全員がこれに対して上の句をつけて一首つくる、付句必修科目としました。
後からこのお店でお昼ご飯を食べることに決め、周辺をさらに散策します。
「三井のリパーク「空」」って、別にここじゃなくてもあるけど使いたいな…と思いながら見ると、うしろの空が真っ白なことに気づきます。これは短歌にしようと思ってメモ。
桜の花びらと思ったら豚の足あとでした。桜と豚って似てるんやな…どっちもピンクやし。これも短歌用にメモ。
「ささえ愛」の表記うるせえ~。これもメモ。
ということで、「お好み焼きとケーキのお店」で昼食しながら短歌をつくります。
29年大阪で生きてきたけど、お好み焼きとご飯を一緒に食べるの初めてです。
お好み焼きとご飯食べるならお好み焼き2枚食べますよね(このお好み焼きはご飯と合いました)。
山本さんも中本さんもかなりたくさん作っているようでした。必修科目の「お好み焼きとケーキのお店」を含めて4首作成します。
私もさっきのメモをもとにまとめます。
散歩と昼食込みで1時間半だったので、推敲は甘いのですが、なんとか完成…!
作った短歌を発表!
サンポー側のメンバーと合流します!
参加者はサンポー編集長のヤスノリさん、TANKANESSでも記事を書いてくれているくーりーさん、初めてお会いした熟女さんの3人です。
まずは詠んだ短歌とコメントを発表していきます。
風月堂ビル千代田区神田紺屋町46番地かっこいい/山本まとも
- ビル名と住所という事実の羅列からの「かっこいい」の主観が唐突に現れていて良い
- かなり破調(五・七・五・七・七の「定型」を破るリズムのこと)
- 「紺屋町」は「紺屋の白袴」、風月は「花鳥風月」を連想させる。たしかにかっこいい
あとからその場所に行くので、サンポーメンバーからはまだ見ぬ「風月堂ビル」へ行くのが楽しみ!というコメントがありました。
インスタント聖地巡礼企画の良さが早速出ていますね!
土曜日のビジネス街はあいまいでお好み焼きとケーキのお店/なべとびすこ
- 土曜日のビジネス街=土曜出勤で働いている人もいるからビジネス街として曖昧なのかもしれない
- 雨が降っているから街の風景がぼやけて曖昧に見えるのかも
- その曖昧さと「お好み焼きとケーキのお店」という妙な営業形態を合わせている
この「お好み焼きとケーキのお店」は、歌人側はすでにお店を見て、食事もしているので、外観も内装も見ていますが、サンポーメンバーはまだこのお店を知りません。
情報を知っている人と知らない人の間で「情報の非対称性」が生まれるのも面白かったです。
短歌を詠んでいて、その情報を知らない人にも伝わるか、というのが気になったりすることは多いので、その確認にもなるのかもしれませんね。
ちなみに、「お好み焼きとケーキのお店」のような営業形態は、路上観察界隈では「経営の多角化問題」と呼ばれているそうです。
百円の自販機ばかり五台あり最後に登場する八十円/中本速
- 最後に登場するのが1番安い
- 「安い」ほうが「正義」だからかも
- ただ自販機が並んでいるだけの景色に対して大げさに言っているのが良い
これも現地を見に行くのが楽しみになる短歌ですね。たしかに神田は100円の自販機がなぜか至るところにありました。
ビニール傘には勝っている白い鳩のには負けている現在第2位/山本まとも
- なぞなぞみたい
- 「白い鳩の」が何か気になる
- 何のランキングかわからないが「白い鳩の」が1位、自分?が2位、ビニール傘が3位…
みんなで「白い鳩の」が何かを想像しているとき、私だけ突然答えがわかりました。
これは外で撮影した歌人側3人の後ろ姿ですが…
こういうことや!!
私は持っていた折りたたみ傘を自分の足元に置いていたので室内でわかりました。これが水色に白地で「白い鳩の」柄の傘に見えたんでしょう。(実際はしろくま柄ですが、たしかに鳩に見えます…)
中本さんがビニール傘、山本さんが紺色の無地の傘を持っていたので、吟行をした3人の傘のランキングだったのです。選ぶところが絶妙。
私だけ答えがわかったので、「後から見ればわかります」と言ってドヤ顔をしてしまいました。(散歩中にみんなバラバラに気づくのが面白かったです。)
一階が飲食店の建物の二階の窓にのぞく歯ブラシ/中本速
- 目のつけどころがすごい。よく見えたな
- 窓際に歯ブラシってあんまり置かない気がするから、掃除用の歯ブラシかも
- 何のお店かは言わずあえて「飲食店」とすることで、飲食とある意味逆だが、同じく口を連想する「歯ブラシ」と対応させている
同じ場所を歩いていても、私は全く気づかなかった場所です。建物の二階の窓の奥の歯ブラシに注目するの、細かい部分をしっかりすくいあげる短歌ならではの視点な気がします。
「ささえ愛」うるせえな支え合ってればそれで愛だろ要らない名前/なべとびすこ
- 「ささえ愛」みたいな表記、看板や掲示板とかにありそう
- 福祉施設や公的保険の標語かもしれない
- 「ささえ愛」に対してめちゃくちゃ怒っている
自分で作ったものの、個人的には結句の「要らない名前」が蛇足というか雑な処理をした感じがします。推敲しないとな…
どこにでもあるけど車を防ぐ棒この角だけを守り続ける/中本速
- 普通によくある光景なのにかっこよく思えてきた
- すでに棒が曲がったり傷がついたりしていて「守った実績」があるのかも
- 傷がなくても、棒があるだけで車は注意するので予防になる
お昼前奥に灯りのついているお好み焼きとケーキのお店/山本まとも
- 「お好み焼きとケーキのお店」がイメージが具体的になった
- ますます早くお店を見たくなった
- 「奥に灯りのついている」だから手前はまだ暗いのかも
雪よりは冷たくないけど雨に触れ三井のリパーク「空」、空は白/なべとびすこ
- 実際には無い「雪」をわざわざ書くことで後半の「白」のイメージをチラ見せしている
- 今日は雲っていたから空が白だったはず
- 駐車場の「空」の本来の読みは「から」ではなく「あき」かも
*私は作るときに意識していなかったものの、こういうテクニックがあるそうです。
雨が降るゴミ箱のふたにふたのないゴミ箱の底にアスファルトの上に/山本まとも
- ゴミ箱のふたに落ちた雨ははじかれて、ゴミ箱の底に落ちた雨はなかで溜まって、アスファルトの上に落ちたら水たまりになるから、落ちた場所で運命が変わる
- ゴミ箱のふた→ゴミ箱の底→アスファルト と落ちる場所の高さをどんどん下げている
- 町のゴミ箱ってどんどん減ってるけど、飲食街の前のゴミ箱とかかな?
豚の足あとと桜は似てんだな豚も桜もピンクだ、愛だ/なべとびすこ
- 豚肉は食べ物なので、「花も団子も」という欲張りな気持ちかも
- たしかに豚の足あとと桜は似てる
- 豚のオブジェのようなものがあったのかも
東京で出会った二人がたまに来る「お好み焼きとケーキのお店」/中本速
- 「たまに」というのが絶妙で良い
- 二人の関係性も気になる
- 描いているのは「今」だが、「東京で出会った」より以前のことまで想像させる
以上12首をザーッとみんなで読みました。
12首の短歌を読んだあとは、短歌側が歩いたルートを全員で辿っていきます!
詠まれた景色を見に行こう!
ただのゴミ箱に大喜び
会議室から出て、早速ふたのあるゴミ箱とふたのないゴミ箱を見つける一同。
雨が降るゴミ箱のふたにふたのないゴミ箱の底にアスファルトの上に/山本まとも
ゴミ箱もここまで注目されたことがないんじゃないでしょうか。道行く人がゴミ箱に歓喜の声をあげる私たちを不思議そうに見ていた感じがします。
さっき作品で見たものとすぐに出会えるインスタント聖地巡礼、なかなか良い企画ですね。
自販機にも注目が集まります
この日何度も見かけた100円自販機も、短歌に詠まれてから見るとまた違う趣を感じられます。
百円の自販機ばかり五台あり最後に登場する八十円/中本速
100円の自販機ばかり5台ある!そして…
最後に登場する八十円の自販機!
自販機の色も派手で、「最後に登場する」という感じがよくわかります。
さっき見逃したポイントも散歩者が見つけてくれる
あっ!!!
なんということでしょう…
やせいの鮭フレークと遭遇してしまいました。
これを見つけていれば短歌もできたかもしれません(実景で詠んでも虚構と取られる可能性あり)。
かっこいい風月堂ビルも発見
風月堂ビル千代田区神田紺屋町46番地かっこいい/山本まとも
現れた風月堂ビルとその番地にも注目が集まります。普段なら通り過ぎるかもしれないようなところにスポットを当てられるのが吟行や路上観察の良いところですね。
ちなみに、この「紺屋町」という地名の由来はのちに明らかになりました。
千代田区町名由来板という親切な看板を発見!
染物職人が多数住んでいたそうですよ。
それにしても、なぜここに電灯を置いてしまうのか。
お好み焼きとケーキのお店へ
3回も短歌に詠まれた「お好み焼きとケーキのお店」に熱気が高まる一同。
パート・アルバイト募集中の紙には
神田はすごく感じの良いお客さんばかりなので安心して働いていただけます
と書かれていました。お店のアピールだけでなく、神田という街のお客さんを信頼している感じがとても良いですね。
角を守り続けた棒を発見
どこにでもあるけど車を防ぐ棒この角だけを守り続ける/中本速
本当にどこにでもある棒なのに、中本さんの短歌を詠んでから見るといろんな背景が浮かんでくるようでした。
2階の歯ブラシもしっかり見つけてくれました
一階が飲食店の建物の二階の窓にのぞく歯ブラシ/中本速
中本さんのこの歌の「二階の窓にのぞく歯ブラシ」はなかなか見つけられないんじゃないかと思っていましたが、ちゃんと発見できました!
ここです。
拡大してもあんまり見えないレベルですみません。
ここからイメージを広げて短歌にするのすごいですね。
まとめ
その他、全ての短歌の元ネタをしっかり発見し、インスタント聖地巡礼が完了しました!
ふつうの街の光景が短歌になり、
短歌を共有してから街に出ると、ふつうの街の光景が新しく見えるのがとても楽しかったです。
通常の吟行では、
どこかに行く→短歌を詠む→短歌を発表する→帰る
という流れですが、時間に余裕があれば、
どこかに行く→短歌を詠む→短歌を発表する→行ったところをもう一度巡る→帰る
にしても良いかもしれません。
インスタント聖地巡礼、おすすめです!!
★サンポー側の記事はこちら
この記事を書いた人
なべとびすこ(鍋ラボ)
TANKANESS編集長兼ライター。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ<定食>」「57577 ゴーシチゴーシチシチ(幻冬舎)」、私家版歌集『クランクアップ』発売中。
Twitter @nabelab00
note https://note.mu/nabetobisco
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note https://note.com/sknkmt02
Twitter @sknkmt02
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2011年から短歌を作っています。 現在は短歌人会という結社で活動しています。 歌会は好きだけど歌集はちょっと苦手。
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