連載「しょんぼり百人一首」スタート!
こんにちは、歌人の天野慶です。
「百人一首」というと、
「なり」「けり」なんて難しい言葉で終わるし、ちょっと難しそう
内容もきっと雅で格調高いんだろうなあ…と思っている方も多いか
でも、実は百人一首の短歌や作者にはちょっと「しょんぼり」
親子ともども島流しにされた人や(それも別々の島に)、
オバケの出る別荘にわざわざ行く人、上司にだまされた人も……。
そんなエピソードを知ると、
この連載では、百人一首にまつわる「しょんぼり」
壊れた舟に乗せられそうになったので、文句を言って仮病を使ったら島流しに……!!参議篁
わたの原八十島かけて漕ぎいでぬと人には告げよ海人の釣り舟/小野篁(参議篁)
(百人一首第11首目)
834年、遣唐副使に任命された小野篁(参議篁)。
まずは強風と荒波のため2回渡航に失敗。「いくぞ、三度目の正直!」と乗り込もうとしたところ、大使である藤原常嗣の舟に欠陥が見つかり、「代わりに篁がその壊れた舟に乗れ」と朝廷からの命令が!
ただでさえ危険な船旅なのに、元から壊れた舟に乗るなんて!とクレーム&仮病で乗船を拒否。さらに遣唐使を風刺する詩まで作ってしまう。
そんな篁に嵯峨上皇は大激怒!!冠位はく奪の上、隠岐へと島流しにされることに……。
百人一首に選ばれた歌は、島流しにされる際に、京に残した妻への伝言として託したもの。
篁は難題に即答したり、死後閻魔様に仕えたりエピソード盛りだくさんの人物。
わたの原八十島かけて漕ぎいでぬと人には告げよ海人の釣り舟/小野篁(参議篁)
訳:大海原に浮かぶたくさんの島々をめがけて俺は力強く舟を漕ぎ出していったと、都に残る人へ伝えておくれ。漁師の釣舟よ!
デートの約束を守らない男なんて、サイテーよ!!姉妹の代わりにズバッというわよ! 赤染衛門
やすらわで寝なましものを小夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな/赤染衛門
(百人一首第59首目)
基本、お屋敷に引きこもったまま平安時代のお嬢さまたち。
デートももちろん自宅です。
「今夜行くから待っててね」なんて文(手紙)をダーリンからもらって。
髪を梳かして、装束はどんな色を重ねようかしら。うーん、もっと明るい色にしようかな……。
なんてうきうき準備している姉妹を、ほほえましく見守っているのは赤染衛門。
しかし!夜になっても男は来ない。
月が高く登り、そして西の空へ傾いてゆく……
「いいえ、ダーリンはきっと来るはずよ」
なんて眠いのをこらえて懸命に待ついじらしい姿を見て、「ずっとアンタを待ってたんだからね!!」と歌にして約束を破った彼氏に送りつける赤染衛門さん……。
いやいや、姉妹とはいえ、人の恋に口出ししちゃダメ!!
訳:あなたがいらっしゃらないとわかっていたら、ためらわず寝てしまったというのに。お待ちしているうち夜も更けて、西の空へと月が傾いてゆくのを見てしまいましたわ!
今回は百人一首のなかから2つのしょんぼりエピソードをご紹介しました。
もっと百人一首について知りたい!という方は、『はじめての百人一首 新装版』もチェックしてみてください。
この記事を書いた人
天野慶
自選短歌
この道は春に花降る道となるパラダイスとは変化するもの